第27話 フェンリル

全速力の駆け足程度の速度じゃが、永久凍土を飛び越え渓谷を抜け、氷の列島架橋を難無く通過、白樺の森林をも飛び越え、草原に降り立った。

風を纏っての飛行は、防寒に関しては完璧じゃが疲れるはずじゃ。

休憩無しの飛行、カズマはまだ余裕有りそうじゃが、三重姉弟が限界じゃ。

「ナオ、テツよく頑張った!!ここで夜営する!」

夕暮れにはかなり時間は有るが、無理をせず安全第一じゃ!!



鎌鼬で一帯を薙ぎ払う、草に隠れて這って来る、毒蛇の類いが恐いからのぅ

皆はへたり込んでおる。

夜営の焚き火どうするか?準備はしたが·····近くに集落は無かった·····今から火をいれると、煙が遠くからでも確認出来る·····余計なトラブルは避けた方が良い、日が暮れてから点灯するか。


夕飯は、架空袋から握り飯と魚の干物を取り出し配る。

干物は火で炙った方が旨いが、腹がへっているのでこのまま食う。

皆もがっついておる。

疲れて居るようで、皆無口じゃな。


暗くなって来たので焚き火を点す。

「ガキンチョ!オレが最初の番をする」

「いや!私が寝ずの番をします、皆安心して寝て下さい」


「皆疲れて居ろう!わしは睡眠を必要とせん、番はわしがする、皆眠れる時に寝ろ!!」


納得して居らんようじゃが、命令して皆を寝かせた。

渋って居ったが、すぐに皆の寝息が聞こえて来た。

新大陸探索、今度こそは同行しようと意気込んで、飛行かなり訓練したようじゃ、カズマは風が得意じゃから出来た事じゃろうが、ナオとテツがこれ程飛べるとは思わんかった、無茶な練習やったのじゃろうな。


「·····暇じゃ!!!」

·····そうじゃ!焚き火で角猪の肉を焼くか!!

拳位の肉3個、鉄串に刺した物をいっぱい用意しておる。


「·····まだかな·····全々焼けん!·····もう一寸火に近付けるか·····焦げ焦げにならんように、少々遠火過ぎたかのう」

「·····もう良い·····少し位生焼けでも構わん!!」

タレは、からし菜を潰し玉葱リンゴの擦り下ろしに、塩とカエデしろっぷを混ぜた物、焼けた肉にタレを付け··········

「美味いぃ!!」


「こらぁ!ガキンチョ五月蝿い!!旨そうな匂いオレにも喰わせろ!!」

「テツの方が五月蝿いよ!!」

「マンバ様たまらん匂いですな!!」

匂いに釣られ、ゾロゾロ皆起きて来た。


「朝飯にしようと思って焼いたんじゃが、喰うか?」

「「「食う!!!」」」

握り飯に魚の干物結構食って居ったが、肉の誘惑には勝てんかったか、良い食いっぷりじゃ。



「!!!」

白樺の森からは、距離を取ったはずじゃが、黒デカが来よった!

皆肉を喰うのに一生懸命で気付いて居らん。

「殺気は感じんな」

「お前はあの時の生き残りか?」

「クゥン」

「一匹狼になって狩りが出来んようになったか?」

「バフ·····」


皆は、突然わしが独り言を言い出したのを、不思議そうに眺めておる。

闇夜に真黒のフェンリルが見えんようじゃ。


架空袋から角猪の腿肉一本取り出し、放ってやる。

「喰え!」

ヤンの憎っくきかたき、思う所は有るが、たった一匹生き残りの黒デカ、哀れな様子につい餌を与えてしもうた。


ガツガツ肉を食らうフェンリルを、やっと皆が認識し身構える。

皆が鈍いとは思えん、フェンリルの穏得の方が優って居ったと言う事か。


「こいつは闘う気が無い!気にせず腹がふくれたなら、もう少し寝ておけ!!」


食い残しをくわえ、黒デカは去って行く。

·····一飯の恩義もくそも無い奴じゃな!今度出応たら戦うしか無いのか。

「仲間になりそうな雰囲気じゃったが、所詮コロ達とは違う魔物か·····」


明け方近くに、先程の黒デカが、仔フェンリル2頭を連れてやって来た。

「お前の仔か?」「ウォン」

「肉をくわえて行ったのは仔達の為か」「ウォン」

仔とは言え、フェンリルの仔はペス位の大きさだ、貫禄のデカさじゃ。

「さっきの肉じゃ足らんだろぅ」「クゥン」

腿肉を取り出し放ってやる。

3頭は迷っておる様子。

「遠慮せず腹一杯喰え!」「「バァウ!!」」

仔フェンリルが食らい付いた。

良い食いっぷりじゃ、食い尽くして、骨までバリバリ食っておる。

「まだ食うか?肉ならまだあるぞ」「バァン」「そうか、腹一杯か」


(やってみるか)


「服従!!!」

3頭がコロンと転がり腹を上に向ける。

腹をなぜながら、「お前はクロ」「ウォン!」

ジュニアだな·····

「男の子のお前はジュン」「クゥ」「女の子のお前はジュニ」「クゥ」

(ジュニアワンにジュニア2、ジュンにジュニ、安直な命名じゃったか?)

ジュンとジュニの腹もなぜてやった、尻尾をブンブン振って可愛いぞ。


フェンリルを従えて帰ると、コロ達はどんな顔をするやら·····問題なく受け入れてくれるか、心配じゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る