第3話
涼太は初めて仮想世界に降り立った。目に映る景色はグレーが基調で機械的な感じである。ところどころ緑など色の付いているところもあるのだが、全てはプログラムで出来ていることを思い出す。そして、上を見ると少し遠くだろうか?イメージとして衛星のようなものが動いているのが見えた。さらに遠くにも何かがあるのがわかる。見ていてもしょうが無いので歩いて見ることにした。すると、向こうから同じ服を着た複数の女性の人が歩いてきている。涼太は気になったので話かけてみる。
「ねぇー。そこの人!俺と同じでログインしてるんだろ!」
女性の一人が立ち止まり、残りは歩いて行ってしまった。
『あなたを認識出来ません。検索します』
「検索って・・・」
数秒、微動だにせずしているとやがて、反応を示す。
「初めまして、我々の新たなソルジャー宍倉涼太さんですね。この情報を共有します」
「何か良かったみたいだな!」
「はい。そうです。侵入者ならばあなたをウイルスとして駆除してました」
そして、後ろから足音が聞こえてきた。このプログラムの世界でも足音もしっかり出るようにプログラムされているようだ。女性はすぐに敬礼をする。
「宍倉くん待たせたな!」
新藤が涼太の後ろから声をかけてきた。気づいた涼太は後ろを向く。新藤の姿は現実の軍服ではなく、簡単な特徴としてマントを羽織っているのが印象的である。
「敬礼解いていいぞ。それと、付いてきて彼をナビゲートしてくれ」
「了解しました。大佐」
「さて、いざ説明してもわからんだろうから実践と行くか!実践を通じて説明する」
涼太は新藤についていく。彼女も後ろからついてきている。
「後ろの彼女って俺と同じで選ばれた人っすよね?」「気づかないのか?まぁー、無理もないだろう。彼女は人間じゃない。AIだ。AIは知ってるよな?」
「もちろん。俺のスマホにもいるし」
携帯にAIが入って約20年以上経っている。昔と比べてAIは人の音声を確実に聞き取れるようになり、携帯に組み込まれているAIの利用率が高くなった。だいぶ、世の中に浸透し、欠かせない存在になってきていた。
「君は今、使っているか?」
「俺はあんま使わないな。それに自分の部屋でAIと会話なんてきもいし」
「そうか」
新藤は目を細めながら涼太を見ていた。そして、涼太の後ろのAIの様子に気づく。
「宍倉くん!彼女が複雑な表情をしているぞ」
涼太は後ろを振り向く。
「お前にキモいって言ったわけじゃねーけど。感情が以外に繊細なんだな!」
その一言に反応した新藤は涼太に真剣な表情で大切なことを語りかける。
「宍倉君。ここでは彼女らとはフェアに接して欲しいと俺は思っている。肉体以外を除けば、人間と何ら変わりないろんな感情を持っているんだ。特にこの”G―Cloud"にいるAI達は。落ち込んだり、元気になったりとな」
『いえ、大佐。そんなに気にしておりませんので』
それを見た涼太は少し罪悪感を持ってしまい、何だか気持ち悪かった。
「悪かったわ。あやまっから」
『気にしないでください。宍倉さん』
それから、しばらく歩いて行く。その途中がてら、この空間について説明してくれた。
『ここは日本のテリトリーでこの国のサイバーを守る最前線の砦です』
「破られたらどうなるわけ?」
何となく疑問が浮かんだので聞いてみる。
『現実に実害が出る可能性があります。例えば大規模停電とか。後、実際には・・・」
「それ以上は・・・」
新藤が険しい表情をしながら説明に割って入ってきた。しかし、フォローの為ではないことが雰囲気でわかる。
「おい、何だよ?」
『・・・』
AIは沈黙している。変わりに新藤が口を開く。
「気になるだろうが、続きはいずれ説明をする。これは最高レベルの機密事項も含むことだ」
『そう言えば私の自己紹介がまだでした』
話題を逸らすように口を開いた。
(聞いてねぇーな)
『このテリトリーやソルジャーの皆様を支える為に生み出された汎用型支援AI、No,347Jです』
ここの汎用AIは人間のような名前はなく、番号がつけられている。一個体一個体に名前をつけていたら見分けがつかないというのもあるからだろう。
「何て読んだらいいんだ?いちいち番号で呼ぶのめんどくせぇーよ!大佐のおっさんは何て読んでんの?」
「数はそれなりにいる。汎用型までは俺も覚えるのは難しい。服にある番号を見て呼んでいる」
近未来を思わせるようなAIの着ている服をよくみると名札のようなものがある。しかし、涼太の反応を見ると少し否定的である。
「番号呼びは何か気持ち悪いんだよな。呼んで欲しい名前とかねぇーの?」
『そのような質問は初めてです。しかし、お気遣いは無用です。番号でお呼びいただいた方が便利かと』
軽く下に顔を向けて言う。
「そうじゃねぇーんだけどなぁー!」
涼太は落ち着いた口調で話す。AIの方はそれ以上反応を示すことは無かった。プログラム以上のパターンだったかもしれない。それをわかったのか新藤が会話を続ける。
「どうしてもと言うなら、焦らずこれから決めればいい!さて、ここだ!」
目的の場所に着くとそこは電波塔のような建物がある。そして両開きのドアの横の所に赤くランプが点滅しているのがわかる。
『この中にウイルスが潜んでいます。それがわかるのが今、点滅しているランプ。宍倉さんには今から駆除して頂くのがミッションになります』
「早く駆除しなくて良いのか?まずいんじゃねぇーの」
ウイルスと聞いて、急がなくていいのかという疑問が涼太の中で浮かんでいる。それを察したのか新藤が答える。
「最も意見だが、この中にいる奴はウイルスの中でも小物だ。つまり、新人のソルジャーレベルでも対処出来るというわけだ。347号は彼にチュートリアルを」
「ゲームじゃん!」
涼太が以外にもボヤいてしまう。そのボヤキには反応せずチュートリアルに入る。
『ゲームの要素も含んでいるG―Cloudについて、テリトリーはここだけではありません。この世界に選ばれた国家に一つのテリトリーがあるのです』
「例えば、アメリカとかロシア。世界のp5はテリトリーを保有している」
世界のp5とはアメリカ・ロシア・フランス・イギリス・中国の五大国のことで、2039年になっても世界を表面上でリードしていた。
「何となく習った記憶があるな。それ」
『そして、今いる所がノーマルトーラスという場所です。トーラスは円環を意味し、ここ以外にも複数あります。目の前のタワーがノーマルトーラスの中にあるサーバーの送受信施設の一つです』
「要は、トーラスは多くのサーバーを分類して束ねる場所だ。ノーマルトーラスはテリトリーの中でも重要性は高くない」
新藤がそう言ってから突然、ホログラムが新藤の胸の手前辺りに現れた。ホログラムは長方形でその中に横線が入っており、項目が選択出来るようになっているような感じである。
「それってキャラクターのステータスじゃあ・・・」
涼太はホログラムが突然出てきて、一瞬何か分からなかったが、少し凝視していたら分かった。
「その通りだ。君のこの世界でのキャラクターデータがわかるようになっている」
ゲームをやっていたから、涼太は何となくわかったのだろう。
『ゲームと同じだと思えば、理解しやすいです』
AI347号は涼太が理解しやすいように補足しようとする。
「その辺はわかるつぅーの!」
そこもわからないほどバカでは無いと言いたいような感じである。
「心の中で”ソルジャーコマンド”と強く思ってみるんだ」
言われた通り「”ソルジャーコマンド”」と強く意識して見ると、長方形のプログラムが涼太の手前に現れた。
(スゲぇーな。VRでもこんなこと出来ねぇーのに)
ここが仮想世界であることをVRでプレイしている時よりも実感している。VRならばコントローラーで操作しなければならない。しかし、仮想世界”G―Cloud"ではコントローラーは一切ない。レベルがこの時点で違う。
「個体能力をタップしてみろ」
ホログラムにある個体能力をタップしてみると、”ベーシック”、”アタック”・・・などの選択項目があった。
「次にベーシックをタップする」
出てきたのは、レベルの数値とレーダーチャートである。レーダーチャートには3つの項目がある。LとMとBの意味について、説明される。
『LとはLifeで生命力、MはMentalで心の力、BはBodyで体力という意味になります』
AI347号が詳しく涼太に対してそれぞれ意味を解説した。
「宍倉君の基礎レベルは10。この世界ではリアルの面も反映されている。初期値でこれは久しぶりだ。これから経験を積んでいけばレベルは上がっていく。手始めに簡単なウイルスを駆除していくことから慣れていってもらう」
出だしは良いとは言え涼太のソルジャーランクはDと示されていた。ソルジャーランクは個人の総合レベルを表している。それに合わせたミッションが与えられる。
『これから最下級”D級ミッション”を受けて頂きます。チュートリアルミッションでもあります』
「大佐のおっさんはどんぐらいっすか?」
新藤もこの世界にいる以上はステータスを持っていることはすぐに想像出来る。それで涼太は気になったので聞いてみる。恐らく高いのだろうと。
「いいぞ。見せてやる!」
新藤のステータスを覗いてみると。
「・・・」
涼太は沈黙した。頭の中で何も思うことが出来ない。
「次は武器の選択。拳・銃・剣からどれかを」
『画面を戻し、”アタック”を選んで下さい』
涼太はどれにするか少し考え、拳銃を選択する。
そして、銃の項目を選択し、セレクトのボタンをタップすると、ゲージが浮かび上がり左から右に走り、やがてホログラムは消えた。
「設定完了ということだ。”ウェポン”と強く思ってみろ」
(ウェポン!)
するとハンドガンが手に持つ形で現れた。
「ミッションスタートだ!」
トーラスタワーの入り口が開かれ、三人は中へと入って行った。
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