第1255話 「02」

 闇を引き裂いて現れたのはこの世界には存在しない謎の兵器群だった。

 形状から空母の類である事は分かる。 要塞の管理AIは速やかに敵味方の識別を行う。

 完了は即座だ。 味方の識別を確認する為の信号を送るが相手からの反応はなし。

 

 それだけで敵性存在と認識するには充分だ。 他に生き残っている管理AI群も同様の判断を行ったようで、戦闘態勢に移行する旨を連絡してきた。 異論はなかったので他に倣って戦闘の準備を始める。

 全ての観測機器で確認するが、デザインは随分とシンプルだった。


 かつて存在した惑星の海に浮かぶ艦船をそのまま使用しているかのような古臭さが見て取れる。

 だが、デザインに反してこの宇宙空間という過酷な環境で問題なく航行できている点からも見た目通りの存在でない事は明らかだった。


 穴からは似たデザインの艦船が次々とこの世界に侵入してくる。

 一番近くに存在するコロニーを管理するAIが様々な手段でコンタクトを試みるが、その全てが通じない。

 ここまでの技術力がある以上、通じていない可能性は低い。 つまり話をする気はないのだ。

 

 この時点で敵として対処する事が完全に決定となった。

 全ての管理AI群が連携を開始し、長い期間眠っていた機動兵器が次々と目を覚ます。

 戦艦、駆逐艦、戦闘機、人型、非人型機動兵器、防衛設備。 その全てが管理AI達の指示で動き出す。


 メンテナンスはしっかりとされているので長い期間、使われて居なくとも性能は十全に発揮できる。

 宙域に出撃した戦力が展開されるが、同時に敵勢力は動きを止めた。

 防衛戦力の展開に警戒したのか? 管理AIは合理的に敵の思考を読み取ろうと行動する。


 ――だが、合理的故に管理AI達は敵の意図に気が付かなかった。 


 この世界に現れた――いや、侵攻した勢力は戦力の展開を見て警戒したのでなく、待っているのだ。

 迎撃態勢が完全に整うのを。 この世界に人間が一人でも生き残っていればその可能性に行き当たったが、人造の知能であるが故に彼らは生物の感情に対しての理解が足りなかったのだ。


 遊び心と言い換えてもいいそれは不気味に佇む戦力群の背後にある傲慢を感じさせる。

 だが、それを解せない管理AI達には不可解としか認識できないのだ。

 防衛戦力の展開が完了する。 同時に敵の戦艦群が動き出し、艦載機らしき何かが次々と出撃した。


 敵の展開を黙って待っている程、管理AI達は甘くない。

 展開した戦艦を前面に押し出し、有効射程に入ったと同時にエネルギーを収束させた光線を次々と発射。 暗闇の宇宙に破壊を目的とした光が瞬く。


 光線は間を置かずに敵軍へと到達するが――その全てが捻じ曲げられあらぬ方向へと飛んで行く。

 即座に敵の防御手段を分析。 空間を歪曲させるフィールドを展開したものと推測。

 エネルギー兵器は有効ではない。 接近しての実体弾、または起動兵器群による白兵戦に切り替える。


 それでも牽制には使えると戦艦は光線を放ち続けた。

 敵は動かずに攻撃の全てを防ぎ、戦力の展開のみを行い続ける。

 管理AIは敵の機動兵器の分析に入った。 形状はまったく同じではないが規格化されているのか類似点が多い。 形状は戦闘機に近いが、それだけではないのは明らかだ。

 

 管理AI達の分析は正しい、敵の戦闘機らしき機体群は形状を変化させてドッキング。

 構造を組み替えて人型へと変形。 背中に光る輪のようなものを展開し、管理AI達が繰り出した無人兵器群へと向かっていく。


 両軍の距離は瞬く間に埋まり――交戦が始まった。 

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