ΑνοτηερⅠ Στοριες τηατ μακε Ηαρδ ςορκινγ περσον α λιττλε λεσς ηαρδ ςορκ

第1238話 「忍込」

 「――マン聖堂騎士。 エルマン聖堂騎士」


 不意に声をかけられて俺――エルマンはやや俯いていた顔を上げるとクリステラが少し心配そうにこちらを見ていた。

 クリステラはやや訝しむ様な表情を向けて来る。


 「大丈夫ですか?」

 「あ、あぁ、問題ない。 それで? 何の話だったか……」


 疲れているのか? 何故か凄まじい悪夢を見たような気もするがきっと気のせいだ。

 呟くように話の確認をしていると段々思い出して来た。 そうだ、確か俺はスタニスラスに頼まれてオラトリアムに資金援助の話をしに来たんだったな。 話自体はクリステラがやらかした所為で――まぁ、やらかさなくても通らなかっただろうがご破算になり、もう一つの用事であった喋る魔物の捜索も空振りに終わった所だった。


 「オラトリアムへ来た目的はどちらも空振りに終わりました。 この後、どう動くのかをアルテュセール聖堂騎士に指示を仰ごうと思います」

 「良い判断だ。 そっちは俺がやっておくからお前は部下を労ってやれ」

 「分かりました。 では報告をお願いします」


 俺は了解だと言ってひらひらと小さく手を振ってその場を離れる。

 それにしても立ち眩みとは俺も歳を喰ったものだ。 自分ではもう少し若いつもりだったんだが、今では立派なおっさんか。 軽く自身の頭を撫でると少し伸びて来た髪の毛の手応えが伝わる。


 将来は抜けて禿げるのだろうか? ボロボロと髪の毛が抜けた自分の姿を想像して小さく溜息を吐いた。

 まぁ、いざとなったら魔法でどうにでもなるので、そこまで悲観はしていないがな。

 そんな事を考えながら通信用の魔石を取り出そうとしたところで、視界の端――木々の隙間に違和感を覚えた。 何だと思いながら気付いていない風を装って意識を向けると誰かが隠れているようだ。


 ……あぁ、あいつか。


 正体には早々に察しが付いた。

 今回、派遣された聖堂騎士は三名。 俺とクリステラ、そして最後の一人であるマルスラン。

 恐らくこいつだろう。

 どうにも手柄を焦る上に階級的には同格なので指示も素直に聞かないので非常に面倒臭――いや、扱い辛い人材だった。 あの歳で聖堂騎士に選ばれるぐらいなのだから腕は立つのだろうが、俺としてはいくら強くても言う事を聞かない奴、察しの悪すぎる奴とは組みたくないな。 勝手に自滅する分には構わないが、そういった手合いは得てして周りを巻き込むからだ。


 どうやら俺の会話を盗み聞きして足でも引っ張ろうとしてるのかは知らんが、構っていられないのでさり気なくその場を離れて遮蔽物のない、身を隠す事が難しい場所へと向かう。

 魔法で姿を消していたとしても会話を聞きたければある程度近寄る必要がある。 そこまでして俺の報告を聞きたいというのなら気付かれる覚悟で寄って来ればいい。


 俺に気付かれたと悟ったのかマルスランはそのまま離れて行った。 

 小さく溜息を吐いて俺は通信魔石を起動。 相手は即座に応答した。


 ――私だ。


 ――俺だ。 一通り、済んだから報告を入れようと思ってな。


 相手はスタニスラス・エタン・アルテュセール聖堂騎士。 随分と長い付き合いになる俺の親友だ。

 グノーシスに入って少ししてから知り合ったので、もう結構な年数が経っている。

 そう考えると俺も歳を取ったんだなと少し悲しい気持ちになった。


 ――聞こうか。


 報告内容はオラトリアムへの資金援助を求めて失敗した事。

 援助というよりは寄付といった形で金をせびりに行くので、個人的にはあまり気持ちのいい事じゃない。 特にオラトリアムは最近、勢力を伸ばして金回りが良くなった事もあって金があると分かった瞬間にこんな話を持って行くのだ。 俺じゃなくても何だこいつ等はと思うだろう。


 残念ながら領主のロートフェルトの顔は見られなかったが、代行を務めているファティマという女との交渉となった。 美しい女ではあったが見た目だけではなく、頭も切れる手合いだろう。

 会話していてやり難いを通り越して苦痛を感じそうになった相手はそういない。 恐らく長時間話すと変に突きまわされて恥をかかされるだけで終わったはずだ。 加えてオラトリアムの警備兵らしき連中も見たが、重武装の体格のいい者達。 亜人種に近いような巨躯と高価そうな全身鎧は居るだけで威圧感を与える。 正直、返答次第では襲われるんじゃないかとひやひやしてしまったぐらいには剣呑な雰囲気を纏っていた。


 グノーシス教団。 この世界では最大規模の組織力を誇る宗教組織だ。

 本部は遥か南にある大陸――クロノカイロスに存在する巨大国家であちこちの大国の建国に関わったとされており、規模だけでなく長い歴史と伝統を誇る。 そんな組織だけあって傘下に入る利益は大きい。

 お布施という形で金を支払った相手には相応の特典がある。 主に教団が誇る聖騎士の派遣となり、戦力面では困ることはないだろう。 特に聖騎士が常駐しているだけでそこら辺の賊は寄って来ないので、安全を買うという意味でも教団に金を支払う事は悪い選択ではない。


 ……ただ、それは戦力に価値を見出せる場合に限る。


 聖騎士の派遣も自前で戦力を用意できるなら要らない。 つまるところ、オラトリアムにはグノーシスに金を払う価値があまりないのだ。 余計な揉め事を避ける為に多少は金を落としていく選択肢も取るといった計算もできるだろうがそれをしない強気な姿勢に怖さを感じた。 明確な実利を示せなかった以上はどうにもならないのでクリステラが情に訴えてご破算にしたのは、考え方によっては良かったのかもしれない。


 それともう一点。 クリステラには伏せている事ではあったがこの地に足を運んだ事には訳がある。

 喋る魔物の捜索だ。 いや、厳密には生け捕りか? どうも教団の上は何に使うのかは知らんが喋る魔物にご執心らしく、見つけて捕えよとの仰せらしい。 調教次第では異邦人として起用を視野に入れているようだが、一体上は何を考えているのやら。 俺としてはそんなヤバそうな案件は知らずに済ませたかったのでいませんでしたで済むならそれに越したことはないと思っていた。


 ――が、そうもいかない所が悲しい所だった。


 一通りの報告を済ませた俺にスタニスラスはオラトリアムに忍び込めと言いだしたのだ。


 ――一応、言っておくがバレたら洒落にならないぞ。


 ――分かっている。 だが、例の魔物に対する上の執着は相当なものでな。 居ないなら居ないなりの根拠を示す必要がある。


 要するに端から端までさらえって事か。 ここで手を抜いて引き上げる事は簡単だが、後々もう一度行って来いと言われる可能性を考えるとここで済ませておいた方がマシだ。 それに忍び込むならこの時期が最も適している。 期間を空けると近くまで来た時点で何をしに来たのかと見咎められる。


 そうなれば連中を納得させられる上手い言い訳を捻り出せるかは怪しい。

 考えれば考える程、俺が行くしかなかった。 

 

 ――……はぁ、分かった。 他の連中を戻すのと同時に俺が単独で入る。 


 ――すまんな。 お前には無理をさせてしまう。


 ――これは貸しにしておく。 期待しているぞ?


 ――あぁ、この前、高い酒を買ったんでな。 それを提供しようじゃないか。


 ――そりゃ楽しみだ。 クリステラとマルスランの両名は聖務完了の報告の為、帰還。 俺は領主代行へ遺跡の調査結果の報告の為に一時、別行動。 建前はこんな所でいいか?


 ――分かった。 その方向で話を合わせておこう。 くれぐれも油断はするなよ。


 俺は分かったと軽い調子で返事をした後、クリステラ達に話をする為に踵を返してその場を後にした。

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