第1087話 「破綻」
死んだ連中に関してはどうなるのかの予測は立てられているので、後者の説が濃厚となる。
要するに持越しの弊害だな。 グノーシスの連中も使命感が強いタイプばかりではない。
権力や支配に対する欲求が強い者は少なからずいるので、あり得なくないだろう。
ただ、それを差し引いても連中の性格は人間的ではあるが、機械的な固さがある。
その点を踏まえれば何らかの形で集まった集合体に近いのではないかと考えられていたようだ。
生き残りに選ばれる程の使命感とやらに満ち溢れた、グノーシス風に言うと信仰心に溢れた連中の成れの果てがあの鬱陶しい天使共と考えると何とも言えんな。
「なーんか人間くさいなとは思っていたけど、経緯を聞くと納得って感じだね。 でも、グノーシスとグリゴリって別勢力って感じだったけど何かあったの?」
「いつの世も支配者について回る問題があってのぅ。 それはグリゴリといえど例外ではなかったのじゃ」
アスピザルの感想に教皇は苦笑して肩を竦めて見せる。
その話通りならグリゴリはここに陣取っていなければおかしい。 だが、別勢力として存在している現状を見れば問題があったのは明らかだった。
グリゴリの支配はエルフの里を見ればどういったものかよく分かる。
受け入れればそれなりに幸せにはなれるのだろうが、分かり易い支配に対して肯定的な者ばかりとは限らなかった。 グリゴリが支配者として君臨すれば、必ず反旗を翻す者が現れるのだ。
この辺は教皇も体験していないので知識レベルの話ではあったのだが、グノーシスの存続すら危うくなるレベルの内部分裂が何度も起こったらしい。 グリゴリとしてもグノーシスは必要なので、万が一にも失うリスクは避けなければならなかった。 結果、距離を置いた付き合いとなり、その存在についても一部の者だけに知らされるだけに留める事となったようだ。
グノーシスとしてもいざという時に備えてグリゴリの支援を受けられるようにはしたかったので、両者にとって適切な距離の取り方だったらしい。
「あぁ、なるほど。 あんな調子でやってれば反抗しようって考える人が出て来るよね」
「ま、そんな所じゃな。 一応、改善の努力はしておったようじゃが、何をどうやっても誰かしら反抗したようで諦めざるを得なかったと聞いておる」
「支配するのも楽じゃないね。 そう言えば例の裏切防止の措置は取ったんじゃないの?」
「その上で反乱を起こしたようじゃな。 決起した者の主張としては支配された歪な状態から組織を正すのだとでも考えていたのかもしれん」
基本的にあれは裏切った自覚ありきで動く仕組みらしいからな。
グリゴリに逆らった連中としては裏切っているつもりがなかったのかもしれん。 もしかしたら何らかの抜け道を突いた可能性もあるが、教皇も記録でしか知らんので実際にどう裏切ったのかは不明だ。
グリゴリの支配体制から抜け出しはしたが、その頃になると組織としての歪みは深刻なレベルになっていた。 初志を忘れていない者も多かったが、露骨に保身に走る者の割合が増えた――いや、正確には権力者の中に保身に走る者の割合が増えた、だな。
グリゴリに操られていた期間が結構な長さだったので、その間に飼い馴らされる事に慣れてしまったらしい。 要は自発的に物を考えずに思考停止して目先の目的に飛びつく傾向に偏ったようだな。
実際、現役の枢機卿の中にもそういった考えの者は一定数存在した。
……結果だけで見てもグリゴリは害悪でしかなかったな。
結局、あいつ等は何がしたかったんだと言いたくなる。
こうして坂道を転がるようにグノーシスの腐敗は続いて行く。 大義より保身へ。
主な目的はタウミエルの打倒よりもいかにやり過ごすかにシフトしていく。
それを嫌った連中がグノーシス内部で独立。
独自の裁量権を得る為に「エメス」という組織を立ち上げた。
「いや、僕からすればその「エメス」の方が保身に染まっているように見えるんだけど……」
「はっはっは。 その通りじゃな! 今でこそ腐り切っておるが、当初は気骨のある者が多かったと聞いておるぞ」
腐敗を嫌って立ち上げた内部組織が、本体より先に腐りきってどうするんだ。
今でこそあの有様だったが、発足当初は中々にやる気のある奴が多かったらしいな。
開発や研究に特化した組織として分けるのは当時のグノーシスの内情を考えれば悪くない判断だったのかもしれん。
何だかんだとそれなり以上に成果は上げていたので、文句も出なかったようだ。
ただ、現首領のファウスティナとかいう女を見れば長続きしなかったのも確かだった。
こうしてグノーシスとエメスは何度も世界を越えながらも徐々にその歪みを大きくして行く。
そしてグノーシス、エメスの両組織にとって決定的な事件が起こった。
発生したのは割と最近で、具体的に言うのなら
あり得ないレベルで戦力に恵まれた世界だった。
個々の武勇に至っては突出していると言い切れるレベルで、他もそれに引っ張られる形で強くなり、全体的に今回のグノーシスとは比べ物にならない程の実力者揃いだったようだ。
その為、聖剣、魔剣の回収は驚く程にスムーズに進み、完璧と言っていいレベルで脱出枠の確保にも成功。 このまま行けばかなりの人数を連れて行けると当時の教皇は随分と喜んでいたようだ。
この辺に関しては教皇は当事者だったので、記憶としても残っていた。
その為、
もう強いとしか言いようがない連中で、聖剣使いですら話にならない化け物揃いだった。
そんな連中の協力もあって辺獄の領域はグノーシスのスケジュールに従って全て攻略される事となる。
記憶で見た限られた情報だけでも、冗談だろうと言いたくなるレベルだった。
グノーシスはそんな連中を上手く飼い馴らしたといえる。 正確には一人の救世主が一人一人に頭を下げて回り、協力を取り付けたらしいな。
だが、もうこの時点でのグノーシスは人々を導くのではなく騙す方向で操っていた。
――そしてそれが致命的な破綻を引き起こしたのだった。
当然ながら世界の滅びの詳細は可能な限り伏せられ、聖剣魔剣も自分達が逃げる為だけに集めさせた。
後は限界まで増やした枠に精鋭を連れて行き、次の世界で有利に立ち回ればいい。
そんな矢先だった。 伏せていた事実がある男に知られてしまう。
世界各国の実力者の下へ出向き、協力を求めていた救世主だ。
男はそれを知った事で――
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