第1037話 「前進」
「まぁ、こんな物か」
その場にいた連中を一通り片付けた後、俺はそう呟いた。
聖殿騎士は全体的に質は良かったが、聖堂騎士には届いていないのではっきり言って大した事はない雑魚だ。
聖堂騎士は魔剣の第四や第三を多用して手数で畳みかければそう難しくなかった。
後は救世主なんだが、思ったほどじゃないな。
恐らく「寛容」か何かの権能を別系統の権能で制御して指向性を持たせた風の斬撃は中々面白かったが、魔剣の障壁を抜ける程の威力じゃなかったので攻撃を誘った後、防いでそのまま正面から魔剣で血煙に変えてやった。
権能を扱える弊害なのかやたらと権能に頼った戦い方だったので「憂鬱」の権能で怯ませた後に大きく調子を崩す者が多い。 こうなれば逆に権能を扱わない聖堂騎士の方が動きがいいとさえ言えた。
権能を使えなくなった場合に全く備えていないのもここまであっさり仕留められた要因だろう。
……いくら何でも権能に頼りすぎじゃないか?
リスクがやたらと多い魔法の上位互換でしかないのだから、使えないなら使えないと割り切ればいいのにそれができていない以上は分かりやすい弱点でしかない。
そこに気付ければはっきり言って権能が使えるだけの雑魚でしかなかった。
戦い方が権能に偏重している事もそうだが、はっきり言って権能さえなければ聖堂騎士の中では大した事のない腕の奴もそれなりに居たな。
噂レベルの話と疑ってはいたが、本当に権能の使用を重視しているんだな。
はっきり言って動きだけなら聖堂騎士としてはギリギリじゃないのかと疑わしいレベルの連中もいたのでグノーシスの強さの評価基準はどうなっているんだと首を傾げたくなる。
まぁ、他人事なのでどうでもいいなと思いながらゴラカブ・ゴレブの炎を喰らって未だに元気よくのた打ち回っている聖殿騎士や聖堂騎士を拾って耳に指を突っ込んで脳みそを調べる。
……ふむ。
行けそうだ。 取りあえず十数人程、息のある奴に片端から洗脳を施そうとするが、聖堂騎士の何人かが立ち上がって来たので面倒になって処分。
結局、聖堂騎士数名と聖殿騎士数名の洗脳に成功し、知識と記憶を奪う事に成功した。
それで一通りの情報は手に入ったのだが――欲しいものはなかったな。
外で派手に暴れている天使に関しては不明。 精々、教団を守っている偉大な天使の降臨といった認識だそうだ。
探し物の在処もそもそもあるのかも不明。 これはあるなし以前の問題だな。
聖剣使いの所在はここと王城に一人ずつだが、こっちに居るはずのハーキュリーズとかいう奴は今はウルスラグナへ出張中なので不在だ。
聖剣の名称は判明しているが能力の詳細は不明。 どうでもいいがなんでこいつ等は身内に対してここまで隠し事が多いんだ? いくらなんでも知らなさすぎるだろう。
流石にここの構造は知っていたので進む際に迷う事はなくなったが、入っていて当然すぎる内容だったのでお得感が欠片もないな。
まぁ、いいか。 どうせ家探しするつもりだったので、手間が増えるか減るかの違いだろう。
そう思い直し、俺は洗脳した連中を引き連れて奥へと進む。
建物の中にもかかわらず外からは派手な戦闘音が聞こえて来るが、特に気にせずに奥へと向かう。
さて、この大聖堂だが入ってすぐには広くてでかい廊下がある。 俺がさっきの連中を返り討ちにしたところだな。 左右にはやたらと凝った作りの天使の彫像が立ち並び、壁には教団のシンボルマークがあちこちに刻まれていた。
特に追加の敵が来ないので周囲を適当に見回すとそんな物が常に視界に入る。
悪趣味とまでは言わないが、やたらと彫像が多いな。
……それにしても……。
こいつら天使を召喚や権能でコキ使う割にはやたらと神聖視しているのはどういう事だ?
天使の彫像を眺めていると自然とそんな疑問が湧き上がって来る。 正直、こいつ等が天使を崇めている理由がさっぱり分からないな。 今までの得た知識や情報から天使と悪魔にはそこまで大きな違いはない。
精々、力を発現する際の方向性の違い程度だろう。 俺に言わせれば白か黒程度の差なんだが、ここの連中からすれば結構な隔たりがあるらしい。
単純に戦力と考えるなら天使由来の美徳系の権能よりは悪魔由来の大罪系権能の方が攻撃能力としては有用な印象を受ける。 特に「憤怒」の火力や強化は上手く嵌まれば俺も少し驚く程の威力だった。
対して美徳の権能は回復や支援に寄っているので、救世主に使わせるなら大罪系の権能の方が戦力としては有用といった印象だ。
……やはり白い方がイメージ的に良いのだろうか?
信者に対するイメージアップを意識すれば見栄えは割と重要なのかもしれない。
ここまで派手に信者を使い捨てている事を考えると、個々の戦力よりも数を優先した結果か?
やはり一人でも多く騙す事を念頭に置けば帰結としては順当な所なのかもしれんな。
そんなくだらない事を考えていると廊下を抜けて広い空間に出る。
このホールは四方に出入り口があり、俺が入って来た所を正面として、左右は中庭へ向かう為の回廊。
その先は倉庫や小さな礼拝堂、居住区などに繋がっている。 残りは奥の通路だがこれが重要区画に繋がっているので通るのはそこになる。
さっさと行きたい所だが、待ち構えていた連中が居るので片付けてからだな。 聖騎士――ここに詰めている連中は近衛聖騎士と別カテゴリーで括られているようだ。 要は見所のある奴を教皇や法王の直衛として引き上げた私兵といった所だろう。
このジオセントルザムへ住まわせるのにも厳選したのにここでも数を絞るような事をしているのか。
グノーシス教団というのはアレなのか? ランク付けをしなければ死ぬ病気か何かなのか?
それとも聖騎士ランキングとか作って競争意欲的なものを煽っているのだろうか?
近衛に入れるのはちょっとしたステータスといった扱いなので、それ以外の連中からしたらそれなり以上に名誉で羨ましがられるようだ。 少なくとも俺の後ろにいる洗脳した連中的にはちょっとした優越感があるようだが、こんな退屈そうな場所で一日中歩き回るだけの仕事の何が楽しいのか理解に苦しむな。
「き、貴様等! 何故賊と共にいるのだ!? もしや内通していたのか!?」
声を上げたのは先頭に居た聖堂騎士だ。 どうでもいいが聖堂騎士と救世主の見分けがつかないな。
まぁ、権能を使って来たら救世主で使ってこないなら聖堂騎士だから戦闘に入ったらすぐに分かるからいいか。
俺が洗脳した連中の取っている行動に驚いているようだが、もう知りたい事は大体分かったから特に用事はないな。
「全員殺せ」
俺がそう言うと洗脳した連中とサベージが一斉に連中へと襲い掛かった。
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