第840話 「侵攻」
グリゴリが二体に増えた事により戦力的に充実はしたが、まだ足りない。
そう考えた彼等はエルフを通じてグノーシス教団と接触。
グリゴリは
何の目的で接触したのか? 理由は触媒の調達だ。
そしてそれはグノーシス教団にとっても何かと都合の良い申し出でもあった。
彼等にとって価値が失われつつあり、処分に困っていた組織があったからだ。
ヒストリア。 転生者の保護を主目的とし、それにのみ注力した結果、本来の役目である技術の発展と研究を疎かにした者達。
グノーシスからの要請などものらりくらりと躱し、指示にも従わなかった事と規模が大きくなった事で勢力として無視できなくなったという点もその決断を後押しした。
転生者は触媒として非常に優れている。
グリゴリにとっては大量の転生者は仲間を召喚する為に必要で、グノーシス教団にとっては言う事を聞かない反抗的な勢力の処分に使えると両者にとってこれはとても都合のいい取引だった。
――グリゴリから齎される見返りも彼等にとっては必要な物だったので、断るという選択肢はない。
グノーシス教団からの最後通告として転生者の引き渡しを迫ったが、ヒストリアは当然ながらこれを拒否。
結果、ヒストリアはグリゴリに滅ぼされ、彼等は大量の転生者の確保に成功する事となった。
転生者が手に入った事により、グリゴリは次々と仲間を召喚していく。
それと並行して領土の拡大を行い。 邪魔になった魔物の駆除を行う。
特に北部には馬型の魔物の群生地で、かなりの勢力を誇っていた事もあり彼等にとっては目障りな者達だった。 特に魔物を率いている馬の王は本来なら要封印対象ではあったが、事ここに至ってはもう封印する意味合いが薄かった事もあり、グリゴリ達はそのまま躊躇せずに殲滅。
ただ、グリゴリに取って最大の誤算は事態の進行が思った以上だった事だ。
魔物を殲滅した事で二つの辺獄の領域が同時に氾濫。
それにより彼等の予定は大幅に狂う事となった。 本来なら封印している存在は他にも存在するので、一体程度ならば滅ぼしても問題ない筈だったのだが、他の大陸の辺獄の領域の消滅と遥か昔に彼等が封印した存在が次々と滅ぼされている事を知らなかったからだ。
結果、本来行うはずだった仲間の召喚に必要な贄に逃げられるという失態を演じる事となった。
最終的に辺獄の鎮圧と領土の確保、兵士の
召喚されたグリゴリは全部で二十体。
その同胞達も十体が辺獄で脱落。 一体は辺獄攻略直後、いつの間にか現れた新たな聖剣使いに撃破されてしまい残りは九体となってしまった。
ただ、代償に魔剣を二本確保できたのは彼等にとって不幸中の幸いと言えるのかもしれない。
最終的にグリゴリは魔剣を全て集める事を目指していたので、早い段階で二本を確保できたのは犠牲に釣り合っているかは何とも言えないが目的には近づいていると言えるだろう。
ポジドミット大陸でのやるべき事を終えた彼等はその手を他の大陸へと伸ばす。
彼等の同胞を仕留めた聖剣使いは巧妙に聖剣の気配を隠していたので探知は不可能だった上、逃げ回っていた転生者集団も大陸から姿を消した事を考えると他所へ向かった可能性が高かったからだ。
それでも万が一を考え、戦力を残しつつ彼等は他所の大陸――ヴァーサリイ、リブリアムの両大陸へと侵攻。 各地に存在する魔剣と聖剣を回収する為に彼等は行動を開始。
魔剣四、聖剣三本を発見したが、全て撃退されるという結果に終わり入手はならなかった。
ただ、その副産物として以前に彼等が手に入れ損ねた存在を再度発見する。
その存在――
現在は気配を消したのか見失ってはいるが、魔剣の気配はいつまでも隠せるような物ではないので遅かれ早かれ発見には至るだろうと彼等は考えている。
その為、ローの確保は発見次第行う方針となり、目下の目的は所在がはっきりしている魔剣と聖剣の確保となる。
交戦した事により敵性勢力――オラトリアムとアイオーンの戦力構成は凡そだが知れた。
前者は全容とまではいかなかったが、どれだけの戦力を投じれば陥落させられるかの目安とはなる。
後者に関してはほぼ完全に掴んだと見ていいだろう。
グリゴリは傷を癒した後、再侵攻をかける予定を立てていた。
優先順位は魔剣、次いで聖剣。 その為、最初に狙うのはアイオーン教団の予定だった。
彼等にとって都合の良い事にアイオーン教団に存在する魔剣は気配を隠しているが聖剣使い――クリステラが所持している事ははっきりしているので、聖剣エロヒム・ギボールの気配さえ辿れば魔剣サーマ・アドラメレクへと至れると理解していたからだ。
――だが、すぐに侵攻とは行かない事情もあった。
グリゴリの肉体だ。
彼等の肉体は非常に消耗が激しい。 エゼルベルトがいつかローに語った所見は的を射ていた。
現在、彼等の使用している肉体はこの世界に干渉できる最大の物だ。
これ以上、体を大きくすると消耗と回復のバランスが保てずに遠からず自壊する事となるだろう。
特に自我を維持した――本体からの干渉を常に行った状態での顕現はそれが限界となる。
無理に肉体の規模を大きくすると存在するだけで精一杯となりそれ以上の事は何もできない。
つまり、今の姿がこの世界で最大の戦闘力を発揮できる状態という訳だ。
ただ、高い戦闘能力と引き換えに彼等の体は損傷の回復に非常に時間がかかる。
それを補っているのが聖剣だが、使用しても即座にとは行かない。
彼等が撤退した最大の理由がそれだ。
撃破されてしまえば再召喚を行わなければならず、召喚に必要なコストが捻出できない以上は現在の肉体を失う訳にはいかない。
結果、彼等は数を減らす事を嫌い、本拠へと引き上げたと言う訳だ。
現存しているグリゴリの数は九だが、雑兵である天使は時間さえかければいくらでも増やす事が出来るので総戦力自体は増して行っている。
――彼等の回復までには少しの時間がかかるが、遠い未来ではない。
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