第813話 「案求」

 「目的は聖剣、魔剣と転生者の身柄です」


 エルフの概要の話を終えて話題はグリゴリの話題に移行する。


 「聖剣と魔剣は何となく分かるけど、結局あいつ等ってなんで僕達転生者を欲しがってるの?」

 

 アスピザルの疑問は知らなければもっともだろう。 オラトリアムに仕掛けて来た連中も命を捧げよと抽象的な要求してくるだけだったので、具体的に何に使うかを言っていないのだ。

 

 「お友達を呼ぶ餌にするらしいな」


 それだけで察したのかアスピザルの顔から露骨に表情が消える。


 「……何それ? 要するに仲間を呼ぶ為の触媒的な感じ? ――と言うかその辺の情報はどうやって仕入れたの? あいつ等ってそんなペラペラ内情を話す感じじゃないよね?」

 

 そう言えばヒストリアの説明をしていなかったな。

 俺が小さくファティマに視線を向けると小さく頷いて説明を始めた。

 センテゴリフンクスでの戦闘で撤退した後、リブリアム大陸の北方にある珍獣女の島流し先である、魔導書の製造工場にする予定の島へ転移。


 傷を癒しつつオラトリアムへ帰還しようとした矢先にエゼルベルト率いるヒストリアが話がしたいと現れた。 その後はエゼルベルトが喋った内容と弘原海についてだ。

 一通り聞いた反応はそれぞれだった。 首途と夜ノ森は無言で小さく唸り、シルヴェイラは無反応。

 

 アスピザルは胡散臭いといった表情だった。

 

 「そのエゼルベルトって人、信用できるの? ぶっちゃけアメリアの同類でしょ? 偏見かもしれないけど裏切りそうで怖いんだけど……」

 「ちょっとアス君?」

 

 夜ノ森に窘められてアスピザルは小さく口を尖らせて黙る。

 

 「そのエゼルベルトっちゅう奴の事は見てへんから儂からは何とも言えん。 兄ちゃん的にはどうなんや? 信用できそうなんか?」

 「……今はまだどちらとも言えないな。 ただ、今の所、話に不自然な点はなかった上、使えるか怪しいが聖剣使いも保有しているので役には立ちそうだ」

 「ほー、そいつは大丈夫なんか? 話によるとやる事やって腑抜けとるんやろ?」

 

 まぁ、その通りだな。 あの状態でも戦えはするだろうが、スペックを完全に発揮する事は難しいだろう。

 正直、メンタルの問題とは余り縁がなかったので、どうすれば良いのか皆目見当が付かないのだ。

 聖剣使いは戦力としては非常に強力なので、可能であれば使えるようにしておきたい。


 最悪、グリゴリの一、二体でも道連れにしてくれればそれでいい。

 残りは九体らしいのでそれだけ減らしてくれれば充分だろう。

 本当か知らんがこれ以上は簡単に増えんらしいからな。 


 ……とは言っても成果を出せるならそれに越した事はない。


 「どうすれば良いと思う? 悪いが俺はこの手の事には疎くてな」

 「あー、もしかして僕達が集められたのってそう言う事?」

 「それもある」

 

 即答するとアスピザルは小さく頭を掻き、夜ノ森はどうした物かと首を傾げた。

 少しの沈黙。 アスピザルは何と言った物かと困った表情を浮かべ、夜ノ森も同様にオロオロと周囲を見回す。

 首途とシルヴェイラは黙って動かない。 ――というか、さっきから全く発言していないがシルヴェイラは何故ここに居るんだ? 会議だから一応、顔を出したとかか?


 「儂等はその弘原海っちゅう奴をよう知らんから月並みな事しか言えんぞ?」

 「それでいい。 正直、手詰まりでな」


 ヒントぐらいになればと思っているのではっきり言ってそこまで期待はしていない。

 

 「うーん。 取りあえず代わりになるような生きる目的――というよりモチベーションに繋がりそうな物を用意するとか? 梓は何かない? これがあれば自分は頑張れる的な物」

 「え!? ここで私に振るの!? ……えぇっと――お、お金とか?」

 「いや、それはないやろ。 よう知らん場所のゼニ貰うて何が嬉しいんや?」

 「梓ってこういう時、ちょっと即物的になるよね」

 「話を振っといてそれは酷くないかしら!?」

 

 少し不機嫌になった夜ノ森がじゃあ二人は何かないのかと振ると、アスピザルと首途は沈黙。

 ――ややあって口を開いた。


 「酒とかどうや? 話によると魔物ばっかりの未開地に居ったんやろうから飯と酒で釣るんや!」

 「即物的とか言っといて私とそんなに変わらないじゃない!」

 「いや、それ言うたの儂やないんやけど……」


 衣食住は割と重要だからな。 首途の話もあながち的外れではない、か?

 それでアスピザルはどうなんだと視線を向けると考え込むような素振のまま動かない。

 

 「……これってあんまり難しく考えない方がいいかもしれないね」

 「と言うと?」


 不意にそんな事を言い出したので何だと訝しむとアスピザルはそのまま続ける。


 「ほら、僕達ってそれなりの数の転生者を見て来たけど、大抵は変に願望満たそうとして自滅しているじゃない? でもさ、自滅する奴としない奴の差って結局、分別が付くか付かないかだと思うんだよね」

 

 そう言われて考えるのは今まで仕留めた転生者共だ。

 最初に仕留めた蜘蛛はゲーム脳全開だったが、奴隷に――いや、女に執着していたのか?

 思い返してみるとハイディを見てヒロインがどうとか言っていたような気がするな。


 他も程度の差こそあれ似たような物だった。

 蟻は自分の意見を押し付けて来るうざったい奴だったのでやや毛色は異なるが、後に仕留めた豚や蛙はそんな感じだったかもしれん。


 前者は女を後者は自分の強さを気持ちよく確認できる環境――要は快楽を求めていた。

 弘原海もその例に当てはまると? 


 「何だ? 女か何かを充てがえとでもいうのか?」

 「うん。 そうだよ」


 疑問をそのまま言葉にすると意外な事にアスピザルは真顔で頷いた。

 弘原海に好みの女を送り込んでその気にさせる? 試しに想像してみたが、その程度の事で果たしてやる気を出すのだろうか? 少なくとも俺の想像力では成功するビジョンが浮かばなかった。


 「確かにそれは行けるかもしれへんな! 女でやる気出すっちゅう話は割とよくあるし、もしかしたらあっさり行くかもしれへんぞ。 それにそいつ馬なんやろ? 一発、サカらせたらヤる気も出るんとちゃうか?」


 ガハハと首途が笑い、夜ノ森がやや呆れた眼差しを向ける。

 他に意見はとファティマと黙っているシルヴェイラに視線を向けるが、シルヴェイラは特にありませんと言って黙り、ファティマは反応を見ないと何とも言えませんと微妙そうだ。


 「……取りあえず、飯と女で釣ってみるか」


 弘原海に関してはそれ以上の意見が出てこなかったので、終了となりその後は敵の戦力構成の詳細とこちらの防衛態勢の確認を行い本日の会議はお開きとなった。

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