第786話 「報知」
ユルシュルを中心としたウルスラグナ騎士国の被害について。
事の経緯はユルシュルがオラトリアムとウルスラグナ王国の両方へと行った宣戦布告に端を発する。
彼等は魔導書という魔法道具を用いる事により、戦力を大幅に強化。
その武力を以って王国を制するつもりだったようだ。
王国側はアイオーン教団と共同してこれに対処。 国境付近にまで侵攻してきたユルシュル軍を聖堂騎士クリステラを前面に押し出した殲滅戦を実行。
聖剣エロヒム・ギボールを使用したクリステラの力は凄まじく、ほぼ単騎で魔導書で強化されたユルシュル軍を正面から粉砕。 戦力を大幅に削り取り、指揮官であったユルシュルの次男を捕縛。
その後、消耗がほぼなかった王国、アイオーンの合同軍はユルシュルへと逆侵攻を行う。
ユルシュルは同時にオラトリアムにも戦力を送り込んだのだが、その戦力も消息を絶った事により首都が丸裸となり早々に包囲される事となった。
追い詰められたユルシュルは魔導書の力で広域魔法(恐らく権能かそれに類する能力の可能性大)を展開し、術者である王自身が出撃。
総力を以って状況を打破しようと試みたが、聖剣を持ったクリステラの前に完膚なきまでに敗北。
命こそ失わなかったが、かなりの重傷を負って捕縛。 現在、武装解除後に最低限の治療を施して投降した者達と共に王都へと移送中。
戦闘終了後、王国軍はユルシュルの首都へと侵入。 内部の状況を把握しようとしたのだが、都市内部は死体の山だった。
恐らくユルシュル王が能力を発動する為に使用したと思われる巨大な魔法陣の触媒に使われたと思われる大量の死体に、能力による魔力搾取の影響で死亡した民の死体が散乱。
生存者は僅か数十名のみ。 それも幸運にも魔法道具で防御出来た者達だけだった。
防御手段を持たなかった民達は残らず死亡。 正確な数は集計中だが、万に届く物と予想される。
都市内部――主に城の内部の調査は現在進めている最中なので、詳細は不明。
「――なるほど」
纏めさせた報告書に軽く目を通した私――ファティマは読み終えた報告書の束を軽く机に放りました。
これはアイオーン側に提出させた物なので、オラトリアム側での出来事の詳細は記されていません。
オラトリアム側の報告書はヴァレンティーナに作成させて提出させましたが、向かって来たから返り討ちにしたというだけの非常にどうでもいい内容だったので軽く目を通すだけで興味を失いました。
精々、捕虜を取って尋問を行った結果、ホルトゥナの関与が明らかになった事が分かった程度でしょうか?
その捕虜も今頃はケイティとグアダルーペが可愛がっている最中なので遠からず全員死ぬ事となるでしょう。 あぁ、そう言えばヴァレンティーナが気に入ったのが居るから登用しても構わないかと許可を求めて来たので、処置を施した後なら好きにしなさいと返しておいたのでそれらは生き残るぐらいでしょうか?
何に使うかは知りませんが、私やロートフェルト様のお手を煩わせないのであれば問題はありませんね。
現在、私が居るのはセンテゴリフンクスにあった砦に用意した私の臨時執務室です。
本来なら用事が済めば早々にオラトリアムへと引き上げる予定なのですが、捕えた者達の洗脳作業と事情の聴取、戦後処理があったのでここしばらくは多忙でした。
特に洗脳作業はロートフェルト様のお手を煩わせてしまうので、なるべく快適に過ごして頂けるように気を配る必要があり、私だけが帰るなんてあり得ません。
妻として夫の仕事を支えるのは当然。 妻として。 えぇ、妻として!
今回の一件、我等オラトリアムが関わったのは完全に事態が済んだ後でしたので、色々と把握する必要があった事と気になる点もいくつかあったので今後の事を考えると情報は得ておく必要があります。
辺獄の領域攻略の経緯に関しては情報が出揃っていたので問題はありませんが、気になったのはその後の事です。
グノーシス教団はここ――ヴェンヴァローカを橋頭保として北方にある獣人の国であるモーザンティニボワールへの侵攻を目論んでいました。
地形的にも面倒なこのヴェンヴァローカを素通りできる以上、向かう際の障害は消え失せる訳ですから判断としては納得はできます。
……ただ、問題は送り込んで来た増援の数ですね。
いくら何でも多すぎます。 十数万もの人間を何処から賄ったのかが疑問でした。
最初は本国で別に用意していた予備だろうと考えていましたが、ロートフェルト様が吸い出した記憶によるとどうも少し事情があったようですね。
生かして捕らえた者はそこまで多くありませんでしたが、その全員にある共通点がありました。
それは出身地です。 その大半がポジドミット大陸の出身でした。
どうやら今回、予備として投入された戦力の大部分がポジドミット大陸から引き上げられた戦力だったようですね。
数が多い理由には納得しましたが、それだけの数を引き上げた理由には疑問が残ります。
これだけの規模の戦力を引き抜いた以上、ポジドミット大陸にはグノーシス教団の戦力が殆ど常駐していない事になりますが、一体何を考えているのか……。
吸い出した記憶からも詳細は不明。
単にリブリアム大陸に行って獣人の国を攻めるとだけ、説明されていました。
ただ、上の方で何らかの動きがあったと肌では感じていたようですが、詳細は不明。
……嫌な予感がしますね。
ロートフェルト様は次の行先をあの大陸に決めているようなので、万が一に備えて先に情報を集めておきたい所ですが誰かを送り込むべきでしょうか……。
今回はロートフェルト様に持って行って頂いた転移魔石のお陰で大陸間の移動も楽に済みましたが、一からともなると少し難しいですね。
リブリアム大陸の西は東に比べると厄介な魔物も少ないと聞きますが、時間もかかる上に目立つ事はできないので少数しか送り込めません。
脳裏でどうするべきかと思案し、送り込むのに適任は誰かと考えながらセンテゴリフンクスの後始末について考えます。
実を言うとこちらに関してはほぼプランが固まっているのでそこまで難しい事はありません。
ちょうど、適任者も居る事ですし任せても問題ないでしょう。
それが済めばオラトリアムへと引き上げる事になります。 ロートフェルト様も一度お戻りになられると言う事で、私と一緒に帰還となります。
用件は魔導書の解析の交換条件にとヴェルテクスからの依頼を果たす為。
詳細を聞いて私も一枚噛ませて頂く事になりましたが、あの男にそこまでする必要があるのかは少し疑問が――いえと内心で首を振ります。 出過ぎた考えですね。
この国でするべき作業もそうかからずに完了する事ですし、少しはゆっくりできるかもしれませんね。
ウルスラグナの問題も軒並み片付いたので、後は長い目で見るべき案件と例のンゴンガンギーニとか言うゴミの住んでいた山を掘り返す作業ぐらいですが、聖剣はなくなっている事はほぼ確定ですのでそちらの捜索もありますか。
どちらにせよ現地の者に任せる必要があるので、現場で指揮を執る必要がありません。
ロートフェルト様がしばらくオラトリアムに滞在する。
それを考えただけで私はとても幸せな気持ちになる事が出来ます。
脳裏で愛していますと念じながら私は早く仕事を片付けようと立ち上がりました。
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