第739話 「点灯」

 こんにちは。 梼原 有鹿です。

 最近は収穫とは別の仕事が入ってちょっと忙しく日々を過ごしています!

 その仕事内容と言うのは――


 「よし、穴開いたぞ! ゆっくり下ろすからな!」


 そう声をかけているのはアルマジロみたいな見た目をした、わたしと同じ転生者の石切さんだ。

 わたしははいと返事をして持ち上げた街灯をゆっくりと下す。

 石切さんがわたしが下ろした街灯の先端を掴んで誘導。 街灯の根っこ部分が地面に埋まっている木の根みたいなのに刺さると点灯して輝き、しばらくして消える。


 「よし、オッケーだ。 埋めるぞー」


 石切さんが穴から抜け出した所で、待っていたオークさん達がせっせと土をかぶせて穴を埋める。

 これは最近、オラトリアムで推し進められている大きな仕事で、街灯の設置作業だ。

 オラトリアムには――というよりはこの世界水準で街灯と言う物は珍しいので、夜は基本的に暗い。


 その為、視界が効き辛いので夜間に出歩く事は余り推奨されないのだ。

 ゴブリンさん等の一部の種族は夜目が利くので、夜間作業にも従事しているけど限度があるという話も聞いた事がある。

  

 やっぱり人の営みがある場所には灯りが必要と言う事がこっちに来てから良く分かった。

 そしてそれを実現まで持って行った首途さんは本当にすごい人だと思う。

 わたしも夜目は割と利く方だけど、深夜帯は月明かりだけになるので出歩くのは少し怖い。


 その為、街灯設置はオラトリアムに住む住民として諸手を上げて歓迎するべき事だと思う。

 

 「うーん、でもこれってどうなってるんだろう?」

 

 明らかに木の根だけど、それに突き刺したら街灯が光るって――何で?

 こっちでは余り深く考えたりするのは良くないけど、流石にこれは気になるなぁ……。


 「そう言えば首途さんが何か言ってたな」

 

 独り言のつもりだったけど、石切さんが何かを思い出したようにそう呟いた。


 「何か聞いてるんですか?」 

 「あぁ、何だったかな? ちょっと酔ってたからうろ覚えだが、確か魔力が無限に湧く玩具がどうのとか……」

 

 自信がないのか後半は少し尻すぼみになる。

 魔力が無限? 今一つピンとこないけどそれが本当なら凄い事だ。

 わたしは魔力に関しては余り理解していないので、精々便利なエネルギーぐらいの認識だけど無限と言うのはどういうことだろう?


 異世界版の発電所みたいな感じの施設を作ったとか? でも木の根だよね?

 

 ……と言うかこの根ってわたし達が収穫している作物の大本じゃ……。


 「まぁ、何か良く分からんが便利な代物って事だろ? 気にはならないかと聞かれれば嘘になるが、俺としては生活が楽になるならどうでもいいな」

 「……そうですね」


 石切さんの言葉に全面的に同意する。

 正直、ちょっと目を凝らせばあちこちに気になる事があるけど、考えても仕方がない上に下手に触れると危ないという気すらするのでこういう話は雑談レベルに留めておいた方がいいよね。


 「ま、無駄話はこれぐらいにして、今日はノルマが少ない代わりにあれがあるからな。 ちょっとペース上げて行くぞ!」

 

 切り替えたのか大股で歩き出した石切さんにわたしは大きく頷いてついて行く。

 今日は街灯の設置とは別で大きな仕事があるから、ちょっと急がないとだめだよね。

 オークさん達が掘って、わたしと石切さんで交互に持ち上げるのと突き刺す際の誘導を行って順調に消化する。


 他のポイントでは力自慢のトロールさんが運搬と設置を行っているので、順調に街灯はオラトリアム内にその数を増やしていっていた。

 流石に密集してはいないけど、一定の間隔での設置になっているので夜になれば道標のように道を照らしてくれるのは間違いないだろう。 こうして苦労して設置した所為か、夜になるのが待ち遠しい。


 自分達が設置した物がどう役に立っているのかを見てみたい。

 そんな気持ちが溢れて来る。


 「早く夜に光っているのが見たいってか?」 


 割り振られた分の設置を終えて歩いていると石切さんが、ちょっと笑いながらそう言う。

 

 「結構、しんどかったからな。 出来上がりをちゃんと見てみたいって気持ちは分かるぜ」

 

 まったくの同感だったのでわたしは笑って頷く。

 

 「ま、俺はこの後貰えるバイト代も楽しみなんだがな!」

 「それはわたしもですね。 単価凄いから何に使おうか迷っちゃいます」

 

 歩合制で設置した数に応じて報酬が支払われる形になるんだけど、単価が高いから貰える額を考えると期待するのは分かる。

 報酬出たら何を買おうかなという気持ちにはなるなぁ。

 

 ……取りあえず、ダーザイン食堂でちょっと高めの食事をするのは決定だけど後はどうしようかな?

 

 「取りあえず、皮算用は後にして今日の大仕事を片付けるとするか」

 「はい!」


 わたし達が向かう先は畑から少し離れた位置にある開けた場所で、普段はお昼の休憩等で食事をしたりしている。

 そこには組み立て待ちの資材が大量に並んでいた。


 「よっしゃ、これで全員集まったみたいやな」


 わたし達の他に設置を終えたグループが集まり、待っていた首途さんが声を張り上げる。

 

 「これから大時計の組み立てを始めるからちゃんと指示にしたがってやー!」


 今から組み立てるのは公園などにある屋根付きベンチを大きくしたような物だ。

 上部には鐘が付いた時計を取り付けるので、気を使った作業になりそう。

 設置後は一定間隔で鳴るようになっているので、今後は時報としてオラトリアムで活躍する事になる。


 それに広場に大きな屋根がある建物が出来るのもいい。 雨が降ったりしている時は遠くの倉庫まで行かないといけないので、お昼休憩の時も屋根のあるここで過ごせる。

 近い内にラジオも設置される事になるらしいので、いちいち持ってくる手間も省けて良い。


 首途さんの指示でわたし達はてきぱきと作業を進める。

 流石と言うべきなのか、首途さんは人を使うのが上手かった。

 全体がしっかりと見えているのか、気になる事や間違えそうになった所にはすぐにダメ出しをする。

 

 指示を理解しきれていないトロールさんには身振り手振りで説明するなど、動かし方も上手い。

 

 ……わたしも見習わないとなぁ……。


 同時に我ながらまだまだだと思いつつ、指示に従って組み立て作業を行う。

 日本では重機が必要な作業もこっちでは全て人力で出来るから、小回りが利くのでやり易いと言うのは後で首途さんから聞いた話だ。


 本来ならそれなりの日数をかける作業もその日の内に終わってしまう。

 基礎工事は事前に済んでいたので、土台を作って予め用意された資材を組み上げるだけだ。

 指示に従って黙々と手を動かして、日も傾いて暗くなって来た所で――


 「よっしゃ! 完成や! 皆、よう頑張ったな。 お疲れさん!」


 最後に首途さんが持っていた懐中時計と設置した大時計の時間を合わせて完了となった。

 周囲を見回すと設置したばかりの街灯が次々と点灯して、薄暗くなったオラトリアムを煌々と照らす。

 

 「へっ、こうしてみると達成感があって良い気分だな」


 石切さんがそう呟き、わたしも同じ気持ちだったので頷く。

 この灯りはわたし達が作った物だと考えるととても温かな気持ちになる。

 他の皆も同じ気持ちだったのか、ぽつぽつと灯る灯りをしばらくの間、見つめ続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る