第726話 「掃討」
……逃がしたか。
俺は魔剣を下ろして鞘に戻す。
辺獄の侵食部分からセンテゴリフンクスを直接狙うのは流石に無理があったようだ。
辺獄と外へ行き来できるでかい穴が開いているのでいちいち魔剣を使って移動しなくて済むのは楽だったが、魔剣の魔力供給が落ちるので外に出るのは若干の抵抗があった。 まぁ、辺獄に居る連中は皆殺しにしてしまったので殺す相手が居ない以上は出る必要があるが。
そんな時にイフェアスから連絡があった。 内容は例のウルスラグナの聖女とやらに遭遇したが勝てないのでどうすれば良いのかと言った物だ。
聖女か。 例のアメリアが持っていた聖剣を使っている奴か。
ファティマ曰く、アイオーン教団である以上、無理に仕留める必要はないとの事だったが、狙えるのなら一応は仕留められるか試して見るとしよう。 仕留める必要がないのは理解したが、仕留めない理由もないからだ。 誰だか知らんが脅威度はアムシャ・スプンタと同等と考えるなら、可能であればここで消しておいた方がいい。
辺獄から狙撃するので、射線まで誘い込めと指示を出して狙いをつける。
流石に離れすぎている所為で見え辛いがそこは肉体改造と魔法で視力を底上げして命中精度を向上。
少しすると聖女とやらが射線に入ってきたので、第二形態の光線を撃ち込んだ。
闇色の光は真っ直ぐに聖女を捉えたが――驚いた事に防がれてしまった。
充填した魔力を吐き出しきって出なくなるが、即座に魔力を再充填して射撃。
何発か撃ち込んだが仕留めた手応えはないな。 どうやら逃がしたようだ。
今の所は仕留める予定もなかったので、執着する理由もないな。
イフェアスからの連絡では転移で撤退したとの事なので、今回の一件には絡んでこないだろう。
連れて来た連中には途中の砦を制圧しつつセンテゴリフンクスまで侵攻しろとだけ伝えて、俺はサベージに指示を出して空中を移動。 一気に街まで向かう。
元々はセンテゴリフンクスを襲撃して南側に追い立ててから挟撃する予定だったが、これなら必要なさそうだな。
現状ではっきりしている脅威度が高い対象は聖女、聖堂騎士、枢機卿の三つ。
聖女は撤退、聖剣使いも死んだので、特に注意が必要なのは権能を使って来る枢機卿と聖堂騎士ぐらいか。
それも対策は取ってあるのでどうにでもなるだろう。
教団の内情を知りたいので可能であれば捕縛だが、細工をされている可能性が高いのでそこまで期待はしていない。 転移魔石も少ないが出回っている可能性もあるので、取り逃がす事も想定に入っている。
イフェアスもそれなりに傷が深いので一度下がり、サブリナと指揮を交代するようだ。
まぁ、俺が指示を出さなくていいなら誰がやっても問題ないな。
そんな事を考えている内にそろそろ街に到着だ。
雑魚は他に任せて適当に手強そうなのを片付ければいいだろう。
さて、どいつから始末するかな。 着地。
サベージから降りて視界に入る奴を適当に
街の中心でも目指していればそこそこ強そうな奴が絡んで来るだろう。
ここからでも見えるでかい砦が本陣のようだが、戦力が出払っているので消し飛ばす意味合いは薄い。
それに後で再利用するかもしれない事と、消し飛ばせば死体が残らないので死亡確認が出来ないのもあってあまりよろしくないと。
……それにしても弱いな。
比較対象がオフルマズドの所為か聖騎士、聖殿騎士レベルだともはや雑魚としか認識できない。
そろそろ聖堂騎士レベルが出て来てくれると話が早いのだが――出てこないな。
結局、聖殿騎士かこの国の傭兵らしき獣人が襲って来たぐらいか。
はっきり言って魔剣を使うまでもないレベルなので歩いていたら砦に到着してしまった。
この様子だと重要人物はとっくに逃げたか?
正面の扉を蹴破って中に入ると――おや?
入ってすぐのエントランスホールには大量の聖殿騎士と聖堂騎士が数名。
それに――
「よく来たな賊め! 貴様等が何者かは知らぬが、これだけの事をやって無事に帰れると思わぬ事だ!」
何か偉そうなおっさんが出て来たな。
服装は他より立派な法衣だ。 以前に見た覚えがある。
確かウルスラグナの王城で始末したペレルロとかいう奴と服装が同じだ。
間違いなく枢機卿とか言う奴だろう。 聞いた話では権能を扱うらしいが……確かペレルロは使ってこなかったような気がする。 全員が扱えるわけではないのだろうか?
まぁ、いいか。 使って来るなら新しい権能の実験台になって貰えばいいし、使ってこないなら半殺しにして記憶を引っこ抜けるか確かめるか。
魔剣を抜いて第四形態へと変形。 バラバラと円盤が周囲に展開される。
「な!? 馬鹿な! 魔剣だと!?」
枢機卿が驚いた顔をしているが、そんな余裕があるのか?
俺はそのまま円盤を周りにいる連中に嗾ける。
聖殿騎士以下の連中はこれで良いだろう。 後は――
円盤を掻い潜って来た聖堂騎士が斬りかかって来たので、第一形態に魔剣を切り替えて迎撃。
聖堂騎士の装備は全身鎧に剣と小盾。 盾でこっちの攻撃を流して斬りかかるつもりなのだろうが、ちょっと見積もりが甘すぎやしないか?
魔剣は盾ごと聖堂騎士の腕と胴体を粉砕。 悲鳴が上がる。
俺は剣を引きながら第二形態に切り替え、聖堂騎士の胸の真ん中に突き刺して刃を展開。
後続で襲って来る連中に向けて発射。 闇色の光線は突き刺した聖堂騎士の後ろ半分を消し飛ばして他に襲いかかるが、流石はと言うべきか射線上にいた聖堂騎士は全員が際どい所で回避。 それ以下の連中は反応できずに消し飛ぶ。
俺は刺さったままで薄っぺらくなった聖堂騎士の死体を投げ捨てて次を狙う。
残った聖堂騎士の数は――三人か。
装備はハンマー、槍、長剣と長物が多いな。 元々、野戦か何かを想定した装備か?
真っ先に間合いに入った槍が突き込んで来る。
回転の早い連撃は胴体ではなく手足を狙っている所を見ると、動きを止める気か。
隙を作って残りが仕掛けると、即興の連携にしてはいいんじゃないか?
脚に刺したいならさっさとしろよ。 槍の穂先が来るのに合わせて俺は前に出てわざと脚に刺させる。
槍持ちが驚いたように目を見開く。
刺さっている槍を無視して強引に一歩を踏み出して、第一形態で上半身を装備ごと血煙に変える。
「貴様ぁ!」
ハンマー持ちが仲間を殺られて逆上したのか思いっきり振りかぶっているが遅い。
スピードはこっちの方が上なので対処は楽だ。 槍使いを粉砕した魔剣をそのまま振ってついでに始末しようとしたがハンマー持ちは何かに引っ張られたかのように吹っ飛び、魔剣が空を切る。
どうやら枢機卿が魔法で何かをしたようだな。
「落ち着きなさい! 敵は魔剣、決して簡単な相手ではないのです!」
長剣持ちも下がって枢機卿の脇へ移動。 ハンマー持ちも構えつつ後退。
精神的には立て直したようだが、状況は変わっていない。 この程度の連中相手なら負ける気はしないし、さっさと仕留めるか。
今度はこちらからと踏み込もうとすると、誰かが走ってくる気配。
増援か? その割には足音が一つと少ないが……。
「お待ちなさい! 貴方の好きにはさせませんのよ!」
威勢よくエントランスに飛び込んで来たのは枢機卿と同じ法衣を身に纏った子供だった。
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