第571話 「劣勢」
徐々に押し込まれ始めたので俺は手を変えた。
回転して火花を散らす魔剣が紫電を放ち始める。 チャリオルトの連中が使っていた<
表面に帯電した水を纏うエンチャントなのだが、こういう使い方もできる。
水が聖剣を伝ってアムシャ・スプンタに電撃が走るが――効いてないな。
鎧の表面に弾かれている。 エンチャントを切り替えて炎、氷、風などに切り替えたが全て表面で弾かれた。 効果なし。 この様子だと魔法は殆ど駄目か。
ついでに膂力でも負けているので鍔迫り合いも危険だな。
蹴りを入れようとしたが逆に蹴りを入れられて吹き飛ばされた。 咄嗟に皮膚を硬質化して防御を固めるが、そのまま吹き飛ばされる。
いくつかの補助脳にダメージがあったが、そこまでじゃないな。
壁に叩きつけられると同時に第二形態に変形させて発射。 当たれば効果はありそうだが聖剣にあっさり防がれる。
……厄介な。
聖剣の脅威度は高いと認識して居たがここまでとは思わなかった。
場所が辺獄であるならば逆転も可能だが、境界を緩めようとすると聖剣に干渉されて無効化されてしまうのだ。 本当に厳しいな。
だが、色々と見えては来た。 まずは奴の攻撃に対する反応の良さだ。
恐らくは予知か予測――要は先読みの類だな。 自分に攻撃される場面を予め認識しており、事前に回避か防御に入っていると言った所か。
ただ、完璧ではないようだ。 こちらも恐らくだが、対象に起こる未来か行動を読める代物なのだろうが、どうやら俺の行動だけは例外のようだ。
俺が直接仕掛けた攻撃に対しては回避ではなくカウンターで防いでいるのがその証左だろう。
魔剣が干渉して俺の動きを読めないようにしていると見ていい。
だが、自分に起こる事は分かるらしく、攻撃を喰らった予知を行う事で俺の行動は読めなくても攻撃は予測できると言った所か。
奴が一息に攻めてこない理由もそこにあるだろう。
俺に起こる事が読めない以上、俺に攻撃を当てる場合は予知に頼れないからだ。
だが、そろそろそれも怪しくなってきたな。 奴は俺の引き出しを一通り確認して攻めても問題ないと判断すれば攻勢に出るだろう。
剣の腕自体は聖堂騎士の水準に届くだろうが、隔絶した技量とは感じない。
それを差し引いてもあの鎧と聖剣のお陰で脅威度は極めて高いと言わざるを得ないな。
権能は効果を発揮し続けているが効果は出ず、魔法も効かず、身体能力でも押されていると。
……これは参ったな。
果たして俺に勝ち目はあるのだろうか?
逃げる気はないし逃げ切れる気もしないが、突破口が見つからないのは不味いな。
魔剣は辺獄から持ち出して以来、これ以上ないぐらいに景気よく魔力を送り込んで来るので戦闘自体はまだまだ可能だ。
取りあえず、相手の主だった手札は出揃ったと見ていい。
奴を攻略するにはまずはあの先読みを越える必要がある。 次に聖剣を掻い潜って、あの鎧にこれでもかと付与された防御を突破すると。
最初の先読みの時点でどうにもならないんだがこれはどうすればいいんだ?
思いつく手は奴が反応できない攻撃を繰り出す事だが、転生者の高い身体能力が鎧により大きく引き上げられているのだ。 今の俺では厳しいと言わざるを得んな。
……やはり一番効果がありそうなのは物量による飽和攻撃か。
手数で押し潰す。 方針が決まれば後は気楽な物だ。
何せやるだけでいいんだからな。 よし、行くとしよう。
俺は再度、第四形態を起動。 無数の円盤を魔剣から生み出して射出。
走りながら第三形態を起動。 靄を産み出してそのまま嗾ける。
「無駄な事を」
アムシャ・スプンタが憐れむようにそう呟くが、生憎とそれしか思いつかないのでな。
靄が聖剣の一振りで消滅し、円盤が鉛の障壁に阻まれる。
まだまだ。 減った端から円盤と靄を追加。 次々と送り込む。
魔剣を左手に持ち変えて第一形態に変形させてさっきと同様に突きこみ、同時に再生が済んだ
聖剣が魔剣と接触して火花が散るが、さっきと状況が違う。 百足がそのまま奴に届こうとしたが――
「笑止」
アムシャ・スプンタが聖剣を捻ると円環状の刃が砕け散り、同時に発生した衝撃波で百足が千切れ飛ぶ。
それだけには留まらず、俺はその余波で体勢を大きく崩される。
こちらの防御が抉じ開けられた。 斬撃が来る。 回避は間に合わず防御は無意味だ。
なら――
――第
――受け止めるしかない。
柄に追従する形で肉厚の刃が弧を描く形状に変化。
第五形態――クラブ・モンスターの姿を模した形態だ。 オリジナルの用途に合わせたそれは大きな鋏となって聖剣の刃を受け止める。
膠着したと同時に<榴弾>を連射。 ただし地面にだ。
派手に爆風と衝撃が広がる。 やはり俺の行動が正確に読めないらしく、間接攻撃への反応は若干遅れているな。
……一先ず距離を取って体勢を――っ!?
流石にそれは許してくれなさそうだ。 アムシャ・スプンタは煙を突っ切って真っすぐに斬りかかってきた。
袈裟の斬撃。 咄嗟に魔剣を軌道上に割り込ませるが、若干反応が遅れてしまい左腕が宙に舞う。
魔剣は手から離れて即座にこちらに飛んでくる。
欠損した腕を再生させながら、宙に舞った腕を操作。
断面から毒液を噴射。 障壁で防がれるが、その間に魔剣を右腕で掴んで斬りかかる。
紙一重で躱され、カウンターで聖剣を一閃。
両足が斬り飛ばされた。 倒れるのは不味いので<飛行>で姿勢を維持。
切断された足が膝を屈伸させて蹴りかかる。
「小賢しい!」
胸部の光線で蹴りかかった足が蒸発。 あぁくそ、ザ・ケイヴが消し飛んだ。
構わずに第二形態に変形して至近距離で射撃。
例の防御障壁を展開。 角度を付けてから受けて強引に軌道を変えられた。
両目を魔眼に変えて動きを止めようと試みる。 一瞬止まったがすぐに振りほどかれた。
刺突が飛んでくる。 いかん、これは躱せそうにないな。
腹に深々と聖剣が突き刺さるが、腹を咄嗟に切り離して胸から上と下半身はそれぞれ避難。
聖剣の光に焼かれて残った腹部は消し飛ぶ。
その間に下半身と合体。 失った部分の再生を行う。
ガワは治ったが中身の再生が追いつかない。
アムシャ・スプンタは即座に追撃の体勢に入る。 いよいよもって不味くなってきたな。
……どうした物か。
俺のやや途方に暮れた思考に反応するかのように魔剣が一際大きく脈動した。
目の前の敵に対して魔剣はこれ以上ない程に怒り狂っていた。
仇敵である聖剣の持ち主であるというだけで万死に値するが、アムシャ・スプンタという男はもう一つ、魔剣に対して絶対にやってはいけない事を行っていたのだ。
辺獄の外では魔剣は聖剣に絶対に敵わない。
常に全力を振るえる聖剣に対して魔剣は辺獄でなければ力を出せない以上、この結果はある意味当然の流れ――その筈だったのだ。
――だが、限界を超えた魔剣の怒りが本来ならば結果の決まりきった戦いの趨勢に歪みを齎す。
魔剣の怒りが外へと向かい、渾身の力を振り絞って使用者に魔力を送り続けている。
そしてその結果、間隙を突いて魔剣の中で渦巻く怨念の底の底で制御を離れた何かが蠢いた。
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