第531話 「製作」
「その点は恐らく問題ない筈だ」
実際、俺も詳細は聞かされていないが、あの様子を見れば事を構えるに当たってかなりの戦力が必要なのだろう。
だったら士気が高いアブドーラと奴の部下の参加は歓迎すべきだ。
「それは誠ですか!?」
「あぁ、ファティマの奴、随分と数を揃えているようだし問題はないだろう。 難しいようなら俺から口を出してもいい」
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! このアブドーラ、必ずやお役に立って見せましょう。 そしてヒロノリ様を害した忌々しき者達に鉄槌を――」
アブドーラは余程嬉しいのか何度も頭を下げ、その表情には憎悪に近い壮絶な物が浮かんでいる。
聞けばアジードやラディーブと組んでオークやトロールからも戦力を調達しているようだ。
装備品などはドワーフから大量に仕入れており、窓から外を見ると完全武装した亜人種達が合同で訓練を行っていた。
連中の装備を見るとなるほど、随分と奮発したようだな。
明らかに金がかかっているのが分かる。
まぁ、やる気になっているのならそれに越した事はないし好きにすればいい。
用事はそれだけだったので飯だけご馳走になって俺はシュドラス城を後にした。
他にやる事もないので適当に山脈内をぶらぶらと見回って屋敷に戻る。
取りあえず今日は休むとしよう。
聞けば情報が出揃うまで身動きが取れそうにないので、どうやって時間を潰すか……。
俺はそんな事を考えながらサベージに指示を出した。
どうも慎重に動きたいと言う事でオフルマズドがある大陸南部にはダーザインから諜報に長けた連中を送り出しており、そう遠くない内に現地の詳細な情報が手に入るとの事。
オフルマズドという国は随分と出入りに厳しいらしく、俺が今まで得た知識からも場所ぐらいしか分からず、内部や国についての情報が驚く程出てこない。
……まぁ、南部出身者の知識を持っていないので偏っているだけなのかもしれんが……。
とは言っても地形までは隠せないので大雑把な立地などは分かっているし、折角だから新しい改造種でも作るか。
以前に使った牢獄でやろうかとも思ったが大型の個体を作ると手狭になるので首途の所で場所を借りるとしよう。
方針が決まれば後はやるだけだ。
翌日、早速首途の研究所に向かい、事情を話して場所を貸してくれと頼むと快く地下施設を貸してくれた。
大物を作るから地上がいいと言いかけたが、それを見て口を閉じた。
「どうや? 恰好ええやろ?」
やたらと長い、下に向かっていく資材の搬入出に使うであろう通路を下りた先には広大な空間が広がっていた。 地下にも拘らず強い空気の流れがあるのは空調を完備しているからだろう。
どうも格納庫を兼ねているのか一角には魔導外骨格――未完成ではあるが、明らかに他と形状が異なる機体がいくつか並んでおり、例の防護服のような服を着た連中が大量にウロウロしている。
他の従業員が居ない所を見ると、ここが首途が自分の為に用意したスペースである事が良く分かった。
そう言えば前々から気になっていたがあいつらは何だ?
「ん? あぁ、そう言えば言っとらんかったか。 おい、一人こっちこんかい」
のそのそと防護服が一人こちらに来る。
首途がそいつの被っている頭部分を取ると中には――あぁ、そう言う事か。
巨大な百足がぎっしりと詰まっていた。 王都で首途の家を守っていた連中か。
「儂の特性やな。 自分の分体を産み出せるんや。 ぶっちゃけ疲れるから偶にしかやらへんけどな」
なるほど。 死んだ古藤氏が作ったデス・ワームと同じか。
指示には従うし絶対に裏切らないからこういう重要区画で働かせるには適任のようだ。
……だが、それを差し引いても広すぎやしないか?
明らかに全体の一割も使っておらず、スペースが有り余っている。
内心で首を傾げるとふとスペースの一角に手摺りで仕切られている場所があった。
何の気なしに近寄ってみるとどうやら更に下があるようだ。
覗き込もうとすると強い風が吹き上がる。
下は真っ暗でぽつぽつと照明が灯っており普通なら輪郭しか窺えないが、俺なら問題はない。
それを見て俺は目を見開き、同時に納得もした。
以前にファティマが言っていたが、首途が執拗にタイタン鋼をかき集めていると。
なるほど、こんな物を作っているのならいくらあっても足りないだろうな。
後ろから首途の含み笑いが聞こえる。
「どうや? これ見せたんは兄ちゃんが初めてや。 ヴェル坊にすら見せてへん」
「大した物だ。 だが、これに果たして出番はあるのか?」
中々、面白い代物ではあるが用途が思いつかない。
一体何に使うんだ?
「使う使わんは完成してからやな。 正直、こつこつ組んどるからまだ目途は立っとらん。 ま、儂の道楽やな」
首途はそう言って笑うが、完成したら使いたくなるやろうなぁと楽し気に付け加えた。
まぁ、首途の作る物は今の所、役に立たなかった事がないからな。
もしかしたら将来必要になるかもしれん。 それに自腹でやっているし、この施設は元々奴がほぼ無傷で陥落させた場所だ。 好きにすればいい。
さて、何を作るかだな。
来る前にいくつか考えていたのだが、戦闘力と言う点ではそれなりの個体が多い。
例を挙げるなら一部のレブナントやシュリガーラ。
その為、半端に強い奴を作った所で役目が被るだけだ。
なら、戦闘以外で力を発揮する種を作ってみたい物だな。
「な、なぁ、兄ちゃん。 後でもええんやけど、儂にアイデアがあんねん。 良かったら考えてみてくれへんか?」
「アイデア? 聞こう、言ってみてくれ」
「ええんか!? えっとなぁ、兄ちゃんが何か作るって聞いてたから来る前にちょっと描いてみてん。 良かったら見てくれへんか?」
……ほう、どれどれ。
首途が寄越した紙に描かれた絵を見せて貰う。
イラストと言うには詳細に描かれており、パーツの配置に始まり用途に関しての注釈まで入っているのでちょっとした設計図だ。
その為、大変分かり易かった。
数パターン存在し、それぞれ違った用途で力を発揮するようなコンセプトとなっている。
いくつか眺めて冷静に吟味するが、俺が考えた薄ぼんやりした設計とは天と地ほどに差があるな。
……これで行くか。
「いいだろう。 試しに作ってみよう」
「おぉ! なら早速頼むわ! 作るに当たって必要な物あるか?」
「素体になりそうな物はなさそうだし、一から作る事になるから適当に食い物を頼む」
「よっしゃ! 任しとかんかい! リクエストはあるか?」
「とにかく量が欲しい」
俺がそう言うと首途は魔石でどこかに連絡を取り始めた。
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