第530話 「噎泣」
「お、おおおお、おおおおおおお!」
首途は歓喜に噎び泣いていた。
「ほ、ほんまに、ほんまにコイツ貰ってもええんか?」
「あぁ、好きにして構わない。 ただ、食わせた分だけでかくなるから養えないでかさにはするなよ」
首途は声にならない音を発して嬉しそうに俺が作った生き物を抱きしめていた。
ミドガルズオルム。 その幼体だ。 大きさはまだ十数メートルだが、成長すればどこまでもでかくなる。
最初は何やこの芋虫はと言っていたが、生きたタイタン鋼の鉱脈だと教えてやると歓喜に噎び泣き始め今に至る。
別に首途に独占させる気はない。
後でファティマにも同じ奴を作ってやれば文句も出ないだろう。
聞けばオラトリアム内で最もタイタン鋼の需要が高いのは首途の所だ。 例の新型の魔導外骨格に加えてこいつが遊び心を発揮して作った玩具で消費量が半端じゃないらしい。
そう言う事であるのなら一匹ここに置くのは正解だろう。
随分と喜んでいるようだし、これでやる気の一つも出してくれれば収支としてはプラスを見込める。
「さて、こっちの用は済んだ。 次はそっちの用事を聞こうか?」
「お、おぉ、取りあえず場所を移そか」
移動した先は工場の奥にある区画で、並んでいるのは銃杖やクラブ・モンスター、ザ・コアにチェーンソーや丸ノコ等の武器群が大量につくられていた。
「確かその魔剣っちゅう武器はザ・コアを喰いよったんやな?」
「あぁ」
「それでその機能を再現しているちゅうことやろ?」
「その通りだ」
案内された先は作業場らしく、作りかけの武器や組み立て前のパーツ類、設計図らしき物があちこちに置いてあった。
「新作を用意しとってんけど、使われへんのやったらその魔剣に食わしたらええ」
持ってきたのは――何だこれは?
形状はザ・コアに似ていたが大きさは一回り小さい。 試しに持ってみたが何か重心がおかしいな。
重量はそこそこだが、感じからして空洞でもあるのか?
持ち手に円柱状の本体。 ザ・コアと同様に線が入っているが間隔が細かい。
石臼と言うよりは円盤を並べて複数重ねたような感じだな。
「名付けて『魔力駆動遠隔切断棍棒 ザ・ジグソウ』や」
まぁいい、試しに使って――内心で舌打ち。
ジグソウに闇色の触手のような物が絡みついており次の瞬間にはジグソウは光の粒子のようになって魔剣に吸収された。
「ほー、そんな風に喰われんのかい」
首途は気分を害した様子はなく、興味深そうに魔剣を眺めていた。
逆に俺は不快だった。 折角、新しい武器を試そうという時に、この剣は横から掻っ攫っていったからな。
まぁ、吸収された事でこの武器の用途が理解できたのが救いか。
脳裏に浮かぶジグソウの概要。 なるほど、素晴らしい武器だ。 牽制から多数を相手にする場合と用途は中々幅広い。
出来ればそのまま使いたかったが、我慢するとしよう。
俺は無言で魔剣を抜く。
「第
俺が変形するように命じると魔剣はさっき喰らったジグソウの機能を再現した姿へと変形。
「こりゃ凄いわ。 どうなってんのやろうな?」
俺が知りたいぐらいだ。
その後、施設内を一通り案内して貰い、新型やカスタムタイプの魔導外骨格を見せて貰ったりと中々有意義な時間を過ごし、先々の事を考えて防具の新調だけ依頼して首途の所を後にした。
マルスランから貰ったらしい果物を両手いっぱいに抱えたサベージに乗り込んで次の場所へ。
確かアブドーラが面会を求めていたな。 予定が空き次第、来るように言っていたがどうせ暇だしこっちから行くとしようか。
サベージが空中を跳ねるように飛んで一気に移動。
シュドラス城へと向かう。
途中の様子を見たが道の舗装なども随分と進んでおり、オークやトロール、ゴブリンの往来もかなり増えていた。
畑の方も順調のようでゴブリンやオークに混じって例のアリクイ女が忙しそうに収穫しているのが見える。
山脈の方も同様で街道としての整備がかなり進んでいた。
しばらく景色を眺めているとシュドラス城が見えて来た。
最後に見た時も随分と様変わりしていたが、今回も随分と変わっている。
監視塔が増え、それぞれに魔法道具――恐らく望遠鏡の類が大量に設置されており、ゴブリンが定期的に森や空を監視していた。
恐らくハイ・エルフ関係への備えもあったのだろうが、最近では気象台として成果を出しているらしい。
正門を守っていたゴブリンにアブドーラへの取次ぎを頼むと、慌てた様子ですぐに現れた。
別に急いでないからゆっくりでいいぞ。
「ろ、ロー殿! こちらから伺うつもりだったのだが――」
「特にやる事もなかったのでな。 何か俺に用事と聞いたが?」
「ま、まずは中へ。 ここで立ち話をするのは流石に……」
そうだな。
案内されるまま応接室に通されて茶を出された。
今日は良く茶を出される日だな。
というか出て来る茶が違うな。
ファティマは紅茶。 首途は緑茶。 アブドーラは――ほうじ茶かこれは?
さっぱりとした味だな。 気に入ったのでお替りしていたらアブドーラがちょっとそわそわしていたので、何だと用件を催促した。
「近々、
「確定ではないが、予定にはあるな」
「相手はテュケなる者どもと聞き及んでおります」
「狙いは連中だから居た場合はそうなる」
アブドーラは少し間をおいて意を決したのか口を開く。
「その者共がヒロノリ様の殺害に関与しているのは誠ですか?」
「断言はできないがかなり怪しいと俺は睨んでいる」
実際、古藤氏が死んだ状況には不可解な点が多すぎる。
グノーシスとダーザインが合同で襲って来た? その時点で怪しい。
しかもアブドーラの記憶を見る限り、連中天使と悪魔を召喚して使役していた。
触媒を使い潰して行うオーソドックスな代物だろうが、ダーザイン、グノーシス両方の知識をある程度得た現状とエンティミマスで聞いたヴェルテクスの話を鑑みれば色々と見えて来る。
何故なら、ダーザインは技術として悪魔召喚の方法を確立していたが、研究以外ではほとんど使っていない。 実際、出て来たのはオールディアの一件ぐらいな物だったしな。
次にグノーシスだ。
こちらはもっと怪しい。 裏で動いている連中以外、まともに天使を繰り出してこなかったからだ。
ムスリム霊山の時はタイミングを考えると追い詰められた結果に繰り出して来たと言う事は容易に想像できる。
奴と戦りあった後に仕留めたサリサとか言う腰巾着の記憶を見る限り、あの女がその手の憑依を日常的に行っている感じはしなかった事がそれを裏付ける。
つまり複数の勢力に狙われていたと言うのはアブドーラの主観で、実際は一つ――テュケのみに勧誘されていたのではないかという仮説が成り立つわけだ。
完全に状況証拠のみになるが、俺は間違っていないと考えていた。
正直、やり口を考えるとダーザイン、グノーシスの両方に襲われましたという話よりはすんなりと腑に落ちるからな。
「なるほど。 仮に違ったとしてもロー殿の敵ではあるのですな」
「そうだな」
取りあえず差し当たっては蜻蛉女は殺すか捕らえてから殺すかしないとな。
可能であればどれだけのお友達に俺の事を言いふらしてくれたのかを聞き出す必要がある。
喋ったのならそいつらも皆殺しにしないとな。
「どうか、その戦いに我等を一翼としてお加えください」
そう言うとアブドーラは深々と頭を下げた。
……まぁ、言うと思った。
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