第501話 「隣人」
こんにちは! 梼原 有鹿です。
最近は仕事にもすっかり慣れて楽しく毎日を過ごしています。
定期的に人員も補充されていて日に日に仕事が楽になって行くので、負担も減って気持ち的にもお財布的にも余裕が出来て来ました。
オラトリアムは日々変化し続けており、業務も少しずつ変わって行っている。
最近の変化は例の首途さんが詰めている工場の近くにある施設が出来た事だ。
何かと言うと何と教習所。 ただ、受講できるのはゴブリンさん限定でこっちの部署にも通達が来ているので時折宣伝をしている。
最初は車か何かとも思ったが、何と魔導外骨格というロボットみたいな機械の免許のようだ。
説明と案内の為に概要を聞かされたけど、凄そうな機械だった。
受講するゴブリンさん達はまず、練習用の機体で歩行や操作などの訓練を行い、定められたカリキュラムを消化した後に試験を受けて免許の取得となる。
最初に手に入るのはブロンズ免許。
練習でも使う小型の機体のみが扱えるけど、取得後に受講可能になる追加カリキュラムを受けて試験に合格するとシルバー免許が取得できる。
シルバー免許は大型の機体が扱えるようになり、森林などでの作業に従事できるようになる。
つまり重機と同じ扱いと言う訳だ。
そしてその上にあるゴールド免許とプラチナ免許。
この二つは取得がかなり難しいけど、手に入れば給金に手当てが上乗せされるので欲しがる人は多い。
ゴールド免許以上は作業用の機体以上に扱いが難しい戦闘用の機体を任せられる事になる。
いざと言う時はオラトリアムの防衛を担う事になるらしい。
そして最後のプラチナ免許は首途さんが直々にチューンした試作型のカスタム機を扱わせて貰えるらしく、その姿を見て一目惚れしたゴブリンさん達が挑んでは散って行く難関だ。
取得者には免許証――それぞれの色に対応した素材で作られた首から下げるプレートを貰える。
今のオラトリアムではプレートを持っている事がちょっとしたステータスなので持っていると尊敬されるらしい。
実際、わたしの部署でも免許を取得して部署を移った人もいる。
その際は盛大にお祝いした物だ。 そのゴブリンさん達はちょっと照れながら大森林の開拓部署へと向かった。
少し寂しいけど彼等の為にも良い事なのだろう。
扱っている魔導外骨格も首途さんが用意した物だし安心できそうだ。
そうそう、その首途さんなんだけどちょっと前に完全に工場に引っ越してしまった。
ちょっと寂しいけど会えなくなったわけじゃないので折を見て遊びに行こうと思う。
それで首途さんが今まで使っていた家が空いたんだけど――
カンカンと小さな鐘が何度も鳴る音が響き渡る。
「皆さーん! 昼食の配給ですよー!」
次いで響いたのは若い女性の声。
何故か頭が二つある大きな犬が引く荷車の周囲には麦わら帽子を被り、薄手の半袖の服と半ズボンを被って木製のメガホンで声をかけている。
ぞろぞろと作業員の皆が手を止めて荷車に集まって行く。
彼女達は最近入った売り子さん達だ。
お弁当の調理も行っているので、配っている物は全て彼女達のお手製となっている。
わたしもお弁当を貰うべく列に並ぶ。
「はいはーい、こっちは有料販売よ。 果実水は銅貨十枚、こっちのアウズンブラの肉を使った高級弁当は――」
新しくできた有料メニューを取り扱っているのはジェルチさん。
元々はわたしも居たダーザインという組織にいた人だけど、最近は組織ごとオラトリアムに転職したらしく、こっちで働くようになったらしい。
周りにいる女性は皆彼女の部下達だ。
最初はいつもの黒ローブを着ていたのだけど暑かったみたいで、随分と汗をかきながら来ていたけど思い直したのか早々に脱ぎ捨てて涼しい格好で売り子をやっていた。
今では日に焼けて、浅黒くなった肌に首にタオルを巻いて楽しそうにお弁当を売っている。
「あら、ユスハラじゃない。 お疲れ様」
「あ、こんにちはジェルチさん」
わたしの姿を見て声をかけてくれた。
何だかんだでジェルチさんは私の事を気にしてくれるので、取っつきやすい。
以前はわたしが引き籠っていた拠点の管理をしていたのでここに連れて行かれたわたしの事は気になっていたらしく、再会した時は何だかほっとした表情を浮かべられた。 ちなみに夜ノ森さんには抱きしめられた。
「どう? 本日限定五十食のアウズンブラの肉入り弁当よ!」
最近はこうして高いお弁当を買わせようとしてくるぐらいには仲良くなった――と思う。
ま、まぁ、ほら、わたし、責任者だし? お金結構持ってるからお弁当の一つや二つ楽勝だからいつも買っちゃうんだよなぁ。
それにお弁当美味しいから割と病みつきになっちゃうんだよね。
「二つ下さい」
「はいありがとう。 さっき温めたばっかりだから気を付けてねー」
配給分を含めて三つのお弁当箱を受け取った私は少し離れた場所に移動。
「ふぅ、いい場所ね」
一通り配り終えたジェルチさんが隣に座る。
お弁当を食べるわたしを見てジェルチさんが小さく笑みを浮かべた。
「アンタ、ほんと変わったね。 拠点に居た頃は震えて引き籠ってばかりだったのに」
「あー、えっと、その節はご迷惑を……」
「いや、別に迷惑じゃなかったからそれはいいんだけどね。 だって手間がかからなかったから楽でよかったし」
ジェルチさんはひらひらと手を振る。
「まぁ、真面目な話、アンタがあのローって化け物に連れて行かれた時はもう生きて会う事はないだろうなとは思ってたけど、見に来てみれば元気になってるし現場の責任者とか出世しちゃってー」
このこのと肘でわたしを軽く小突く。
くすぐったかったのでちょっと笑って身をよじる。
「最後に見た時はガリガリに痩せてたけど、今は随分肉もついた――と言うよりは何か大きくなってない?」
言われてみれば体が一回りぐらい大きくなった気がする。
「そうかもしれませんね。 こっちに来てからトレーニング――じゃなくて訓練もやっているので筋肉が付いてきた事もあるかも」
「へー、そんな事もやってるんだ? やっぱりこっちでも戦闘訓練は義務なの?」
「そうですね。 一応、従業員は全員、何かしらの武器の扱いと体力作りは義務付けられていますよ」
毎日の農作業で体を動かしている事もあるけど、かなり体力が付いて来たと自負している。
今ならフルマラソンでも休みなしで余裕で走破できるだろう。
「まだあたし達は何も言われてないけど、研修終わったら走らされるのかな?」
「そうなると思いますよ。 特に長距離走は結構きついから覚悟した方がいいかも」
「うへ、そんなのやらされんのかー。 ま、殺し殺されをやらされるよりはよっぽどいいか」
そう言いながらジェルチさんはその場に倒れ込むように横になる。
「正直、こっちで世話になるって話聞いた時、どうなるんだろうってハラハラしてたけど蓋を開ければ料理と弁当配りだから何だか拍子抜けしちゃったわ」
吹いて来る風を受けたジェルチさんが気持ちよさそうに目を細める。
「もしかしたらアンタは知らないかもしれないけど、あたしらは今までヤバい現場ばっかりだったからさ、死ぬ娘も結構多くてね。 あたしはそれがどうしても我慢できなかった。 だからずっとあの娘達が死なずに済むような場所を探し続けてたのよ」
ジェルチさんは身を起こす。
「まさか、一番
世の中どうなるか分からない物ねと彼女は苦笑。
「諜報関係で定期的に仕事が入るけど、それ以外はここで働けば生活が保障されてるから悪くない条件だと思うわ。 ま、そんな訳だから部署は違うけどこれからは同僚だからよろしくね」
「はい、こちらこそ!」
「あたし達ダーザインは例のカドデって人が使ってた家に住んでるからいつでも来ていいよ」
「えぇ、休みになったら遊びに行きます」
こうして首途さんの代わりに新しい隣人が出来ました! 嬉しい!
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