第499話 「滝行」

 俺は持って来ていたタオルで体を拭きながら目の前の景色を眺める。

 ウルスラグナにあったアスピドケロン大瀑布ほどではないが、立派な滝があった。

 さて、俺は何をしていたのかと言うと、さっきまで滝に打たれていたのだ。


 所謂、滝行って奴をやっていた訳だが――まぁ、特に得る物はなかったな。

 手っ取り早く龍脈とやらを感じるには有効な方法だと知識にあったので試してみたのだ。

 今いる場所はチャリオルト――今は旧チャリオルトか――の山中で、あれから俺は空いた時間を使って色々と模索していたのだが、最近ではあるがようやく成果が出て来たと言った所か。


 カンチャーナを始末した後、俺はドゥリスコスの所で適当に時間を潰していたのだが、流石に暇になったのでチャクラを使えるようになろうと色々と研究を行う事にしたのだ。

 結論から先に言うと、扱う事はできた。 結局の所、ナーディとチャクラの関係性をある程度理解できれば再現はそこまで難しくなかったからだ。


 ナーディとは全身に巡る魔力の流れでチャクラは人体に生じたその増幅器となっているが、正確には構造上、魔力が溜まり易い位置と言った所か。

 取りあえず、買った奴隷で実験して凡その構造を掴んだので後は自分の体で実践すればいいだけの話だった。

 別に体内を人間と同じにする必要はなく、チャクラを形成できるように配置を弄ればいいだけだったので、自分の体に応用するのに少し時間はかかったが、できてしまえば訳はない。


 何とか一から六までのチャクラは扱えるようにはなったが、肝心の七番目のチャクラに関してがさっぱり分からん。

 チャリオルトの本堂に残されていた文献などを漁ってみたものの今一つ理解が出来ん。

 その文献によれば龍脈を感じる事で開眼できるとかできないとか小難しい事が書いてあったので、柄にもなくそれを感じる修行とやらに手を出しては見たが結果は芳しくない。


 カンチャーナが抱え込んでいた魂から修行や技のノウハウは吸い出せたので、四方顔の戦い方に関しては大体分かった。

 一人でも第七まで使える奴がいれば早かったんだが、居ない以上は自力で習得しなければならんので面倒極まりないな。


 とはいえそろそろ国境の封鎖が解かれて、移動が可能になる事を考えるとそろそろタイムリミットか。

 

 さて、俺が山籠もりをしていた間に何が起こったかだが、まずは戦後処理だな。

 カンチャーナの影響が消えた以上、操られていた連中は残らず死亡し、チャリオルト側の戦線は瓦解。

 ここぞとばかりにアラブロストルの猛反撃が始まり、碌に抵抗もままならずチャリオルトは陥落となった。


 余談だが最も功績を上げたディビルは国から大層褒め称えられ、区長にまで抜擢されて上機嫌で凱旋したらしい。

 敗北したチャリオルトはまともな国家ではなかったので、数少ない生き残りは捕縛された後、背後関係を吐かせる為に尋問を受けるか使い道がない奴は賠償金代わりに奴隷として売り飛ばされたようだ。


 四方顔の剣士は貴重なので奴隷落ちした連中は裏から手を回して買い取り、洗脳を施した後ドゥリスコスにくれてやったので奴も戦力の拡充が出来たと喜んでいたな。

 こうして今回のカンチャーナと言う女に端を発したチャリオルト、アラブロストル間の戦争は幕を閉じた。


 正直、カンチャーナを始末した後の事は俺には何の関係もないのでそうかで片付け、さぁ次へ行くとしようと考えていた所で――


 つい先程、関係なくもない話がファティマから入ったのだ。

 ウルスラグナにあった辺獄の領域――バラルフラームが攻略されたらしい。

 内部にあったらしい魔剣はアイオーン教団が回収し、現在聖女とやらの管理下に置かれているようだ。


 それを聞いて随分と驚いたものだ。

 ザリタルチュと同様に飛蝗のような強者に守られている物かとも思ったが、こうもあっさりと魔剣を回収できるとはと思ったのだが――どうやら守り手は居たらしい。


 又聞きレベルの話なのでどこまで信用できるかは怪しいが、恐ろしく強いアンデッドが居たらしく、一緒に攻めたグノーシスの聖堂騎士と束になってかかってようやく仕留めたとの事だ。

 その中にはあのクリステラも含まれていたと言う事を聞けば簡単な相手じゃなかった事は想像がつく。


 かなりの犠牲を出したがアンデッドを撃破して魔剣の回収に成功し、流出の危機は去ったと。

 可能であれば魔剣は押さえておきたかったが、話を聞く限りまともに扱う所か触る事すら危険と認識されているようだし問題はないだろう。

 

 ファティマは管理の名目で奪いますかと提案してきたが、放っておけと言っておいた。

 執着する理由もないしアイオーン教団とやらが面倒を見てくれると言うのなら任せておけばいい。

 ただ、魔剣を拘束した手段には興味があるので、その手段については探りを入れさせた。


 ……まぁ、心当たりはあるがな。


 大方、くたばったアメリアが使っていた鞘と鎖だろうなと当たりは付けているが、どう言った物かの正体さえ分かれば俺から魔剣を引き剥がす役にも立つだろう。

 以上がここ最近の近隣とウルスラグナで起こった大きな事件らしい。


 後はオラトリアム内での業務の進捗と俺に判断を仰ぎたい事柄についてだが――

 判断したのはダーザインの連中が傘下に入りたいと言って来た事ぐらいだな。

 ファティマの方に問題がなければ好きにしろとだけ言っておいた。

 

 下手に敵に回られるよりは抱え込んで使った方が得だろうと言うのは俺とファティマの共通見解だ。

 その為、許可を求めてはいたが受け入れる方向で考えていたようなので、もう引っ越しの準備は済んでおり、シジーロや散っている拠点は最低限の人数を残してそろそろオラトリアムに合流するそうだ。


 さて、最後に俺の今後だが、大陸を南下して次の国へと向かう事になる。

 目的地はチャリオルトから南に少し行った所にある国――エンティミマス。

 国土はチャリオルトより広く、フォンターナ王国よりやや狭いと言った所だろう。


 とある事情で変わった鉱物がやたらと取れる事で有名だ。

 それをあちこちに売り飛ばして資金を得ている場所で冒険者がとにかく多いらしい。

 実際、アラブロストルで使用している魔導外骨格の材料はそこから仕入れた物だ。

 また、アラブロストルと大陸南部の間にあるので交通の要衝としての側面もあり、訪れる者は多い。


 少し興味もあるし足を運んでみようと思っていたのだ。

 俺は目的地へと向かう為のルートと必要な準備を考えながら山を下りる為に荷物を纏めた。

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