第400話 「技術」

 「魔導外骨格ソルセル・スクレット?」

 

 自分の言葉をそのまま反芻するローさんの言葉に自分は大きく頷く。

 アラブロストル独自の技術で最近開発に成功した武力にして最新技術の象徴だ。

 元々は魔導人形ゴーレムから派生した物で、様々な分野での応用が期待されている。


 魔導人形と言えば主の命に従って動く大型の兵器とも言える存在だったが欠点も多く、お世辞にも使い勝手がいい代物ではなかった。

 技術自体は確立されているので動かすだけならそこまでの問題じゃない。

 ただ、長時間の稼働やコスト、手間を考えると割りに合わないと言うのが共通認識だ。

 

 巨大な物体を動かすのは大型の魔石を使っても長時間は厳しい。

 ならばと発想を変えたのが外骨格だ。

 最小限の魔力で最大限の成果をという目的の下、考案されたそれは順調に結果を出していた。


 人が乗り込み、魔力を供給する事で稼働時間を大幅に伸ばす事に成功したのだ。

 従者として扱うのではなく、人間の手足の延長線として捉える。

 発想の転換というべき閃きだ。


 魔石と直接供給に大きさを最小限にする事で今は実験段階だが、工事に始まり兵器としてもかなり期待されている。

 この技術が完成すれば向こう百年はこの国の安寧を脅かされないだろうと方々で噂されていた。

 自分も概要しか知らされていないが、なるほどと思う。


 それさえあれば魔物の襲来や他国の侵略があったとしても容易く跳ね返す事が出来る。

 そう確信させる程の画期的な武装だった。

 

 「……なるほど。 使用者の魔力と魔石を併用する事で稼働時間を大きく延ばし、消耗も大きさを削ぎ落す事で抑えた。 だが、戦場などで通用するのか?」


 ローさんの言葉に自分は思わず首を捻る。

 話に聞く限りではあるが攻守に優れた欠点らしい欠点のない兵器と聞いている。

 何か気になる事でもあるのだろうか?


 「それはどういう事ですか?」

 「魔物相手ならまだしも相手が人間であった場合、稼働時間という明確な弱点があるのだからそこを突かれるのでは?」


 ……なるほど。


 彼の言う事ももっともだ。

 要するに使える時間が延びたが、完全に克服できたわけではないのだから同じ事ではないのかと言いたいのだろう。

 確かにと自分も思った。 破壊力や頑強さにばかり目が行くが根本的な解決になってないという見方もできる。


 「……ですが、戦闘を行う上で充分な時間を確保できれば問題ないのでは? それか、弱点を踏まえた作戦を立て、適切な運用を行えばあるいは……」


 そうは言ったが、言葉は弱い。

 確かに魔物相手では強力無比かもしれないが人間相手だと難しいかもしれないとも思う。

 時間まで逃げて動けなくなった所を襲う、または適当に消耗させてから奇襲という手もある。

 

 武に関しては門外漢である自分ですら簡単に思いつく答えに他が辿り付かない訳がない。

 

 「それも今後、技術が発展していけば克服される問題でしょうね」

 「……そうかもな。 察するにある程度の配備は進んでいると言った感じかな?」

 「いえ、今の段階では噂ですが、近い将来には配備が進むでしょう。 区長の特権の一つに国有の戦力を一部自由にできると言うのがあるので、まずは区長の手元に行くと思います」

 

 許された権力の範囲内ではあるが国が開発した最新の装備、最高の人材を私兵として得る事が出来る。

 

 「なるほど、区長の権限を逸脱しない範囲でその戦力とやらを自由にできると」

 「そうです。 使い方に関しては区長に一任されていますので……」


 そう、ローさんの言う通り、権限を逸脱しない範囲で得た戦力を自由に扱えるのだ。

 極端な事を言うのであれば、都合の悪い人間を理由を付けて消す事もできる。

 今は知らないが過去には区長の椅子を守る為に自分を脅かす存在を消して回った者がいたという話を聞いた事がある。


 不意にパチリと音を立てて火にくべた薪が小さく爆ぜる。

 ローさんは空を見上げると小さく息を吐く。


 「……そろそろいい時間か。 食事が済んだら横になるといい。 見張りはやっておく、明日の移動経路を考えると寝ておかないときついんじゃないか?」


 言われて自分も空を見上げると雲間に隠れてはいるが月はすっかりと傾いていた。

 確かにそろそろ寝ないと不味い。

 見張りをやってくれるそうなので先に横になる事にしたが、交代はいつ頃かと聞いたが不要と一言で片づけられた。


 「でも、明日の事を考えるなら……」

 「問題ない。 その分の報酬は貰っている」

 

 そう言って押し切られた後、さっさと寝ろと付け加えて彼は視線を焚火に移した。

 自分は何かあれば起こすように念押しして持参した毛布にくるまって横になる。

 何だかんだで疲れていたようで、目を閉じて少しすると寝入ってしまった。




 ――……う……。


 どれぐらいの時間が経ったのだろうか?

 薄く目を開けると空はまだ暗く、ローさんは無言でたき火を見つめている。

 サベージは蹲って眠っているようだが、視線を向けると僅かに身を動かす。

 

 どうやら自分が目を覚ました事に気が付いたようだ。

 流石は魔物。 変化に敏感だ。

 当のローさんは気が付いているのかいないのか、たき火を見つめたまま微動だにしない。


 ……というか自分が寝る前と体勢が変わっていないような……。


 まさかあれからずっと微動だにせず居た?

 そんな馬鹿なとくだらない考えを打ち消す。

 目を閉じて視界を塞いで、別の事を考える。


 残念ながら詳しい話を聞く事もそうだが、聞けたとしても実践も難しそうだ。

 可能であれば彼から魔物の使役の方法を聞きたかったが、恐らくは才能と言った余人ではどうにもならない類の物が必要なのかもしれない。

 

 サベージもソッピースも道中にさり気なく観察したが、魔法道具の類で操られている気配もないし、明らかに普通と違って賢い。

 聞き出せた話を纏めると、恐らくだがローさんは人と意思疎通ができる魔物を見分ける事が出来るのだろう。 それも無意識に。


 隠し事や嘘を吐いている可能性もあるが、言えないなら言わなくていいと前置きしている以上、その可能性はそう高くない。

 彼の口にした事は事実なのだと考えると自然とそう言った答えが導き出される。


 ……空振りか。


 新しい商売の種になるかもと思い期待していたが、当てが外れてしまったようだ。

 それでも収支としては釣り合っていると考える。

 貴重な他国の冒険者――それもウルスラグナへ渡る手段を持っている人物と縁を結べたのだ。


 将来、何らかの形で利益になるかもしれない。

 関係は金では買えない。

 こうして結べた縁を素直に喜ぼう。


 そう前向きに考えて、思考を明日の移動へと移行させる。

 脳裏で道程を思い浮かべて、どれぐらいで目的地にたどり着くかを考えた。

 

 ……この調子で行けば明日か明後日には目的地にたどり着けそうだ。


 かなり早く移動できた。

 サベージが荷物を引き受けてくれている事と、少人数と言う事がかなり効いている。

 考えれば考えるほど、サベージの有用性が際立つ。


 馬と違って地形を選ばない点も大きな魅力だ。

 何とか譲ってくれない――いや、二頭目が手に入ったら貰えるように交渉してみるか?

 それもいいがいっそ、捕獲の依頼を発注する? その方が通しやすいか?


 結局、元の考えに戻っていたが気付かずにぐるぐると考えているといつの間にか再び寝入ってしまった。

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