第364話 「散策」
森は大きく切り開かれており、地均しも済んでいるのか綺麗に道が出来上がっていた。
そこを馬車や荷車が行き来しているのが見える。
道は旧エルフの都市まで伸びており、途中に枝分かれしている部分はダーク・エルフの集落へ向かっているようだ。
そろそろ都市の方へ向かおうかなと考えていると道から外れた場所で木が倒れるのが見えた。
……?
その後、衝撃や爆発の様な物が近くで炸裂する。
どうやら戦闘のようだ。
トロール共のハゲワシ退治といい、荒事が多いな。
視力を強化して目を凝らすと戦闘の光景が見えて来た。
相手は――また鳥か。
対するはタッツェルブルムにモノス、それにレブナントだが――はて?
あんな連中居ただろうか?
形状に統一感がないのはそうだが、見覚えがな……いや、思い出した。
あいつ等はゲリーべで作った奴等だ。 何でこんな所に?
あそこで籠城させて放置していたはずだが……。
タッツェルブルムが胴体に付いたでかい口を大きく開き、嘴を突き出しながら突っ込んで来た鳥共を捕食。
後続が回避しようと大きく旋回。 そこを狙ってモノスとレブナントが襲いかかった。
随分と洗練された動きだ。 完全に相手の動きを先読みして潰しているのが分かる。
<交信>が使えるとは言え、あの数で連携の取れる動きが出来るのは凄いな。
あれはあくまで一対一での会話なので、数が増えれば増えるほど連携という点ではムラが出て来る――
――筈なのだが、それが見えないと言うのは全体に効率よく指示を出している奴が――いた。
答えはすぐに分かった。
奥で指示を出している奴に見覚えがあったからだ。
サブリナだ。 ゲリーべに置いてきたはずの奴が何故いる?
……まぁ、こいつが居るのなら他が居ても不思議ではないが……。
あそこに関してはファティマに任せていた。
十中八九あいつの仕業だ。
どうやったのかは知らんがゲリーべから連れ出したのだろう。
視線の先に居るサブリナは手に持つ錫杖を小さく振るうと奴に従う改造種やレブナント共が手足のように素早く動く。
鳥共も善戦はしているが、あれはどうにもならんな。
量はともかく、質と統率力に差があり過ぎる。
見ていると鳥共は瞬く間に数を減らし、半数を割り込んだ所で逃げようとしていたが、それすらも許されずに退路を断たれ、やがて最後の一羽がモノスに捻り潰されたところで戦闘が終わった。
サブリナは満足げに頷くとこちらを見て小さく会釈。
……気付かれていたか。
特に相手をする気はないので頷きで返して森へと下りる。
さて、どこへ行くか?
少し迷ったが、比較的近いダーク・エルフの集落へと向かう事にした。
久しぶりに訪れた集落は随分と様変わりしており、具体的には建物が増え、ゴブリンやオークの姿が多くみられる。
元々、木をくりぬいて家屋を形成していた物が大半だったが、切り開いて一から建てた店舗や住居もあった。
店では物々交換での取引がメインらしく、織物と食料を交換したり、数は少ないが金銭も取り扱っている者も見え、随分と染まっているようだ。
ファティマの報告では上手くやっていると聞いていたので心配はしていなかったが予想以上だな。
何の気なしに集落を見て回る。
シュドラス城もそうだったが、妙に物見櫓が多いな。
随分と索敵や警戒に力を入れている。
ぐるりと一周して一通り集落を見て回った後、先へと進む。
次は元エルフの都市だ。
急ぐ旅ではないのでのんびりと舗装された道を歩く。
こうして道を進んでいると様々な者達とすれ違う。
ゴブリンに始まり、オークやシュリガーラ、レブナントと多種多様だ。
ゴブリンとオークは基本荷運びで、シュリガーラやレブナントは武装している所を見ると警備だろう。
道の舗装もしっかりしており、一定間隔で鐘が設置されている。
何だと思ったがすぐに思い至った。
傍にゴブリンが控えている所を見ると、異常があれば鳴らすのだろう。
そうすれば警備が飛んでくると。
警報装置代わりと言った所だろうな。
何だかんだでまだ安全とは言い難いのだろう。
途中の休憩所で休みを挟みつつ、のんびりとエルフの都市へ。
以前の半分以下のスピードで移動しているにも拘わらず、道程の消化は早い。
数日もかからずに一番近くの南側の都市へと到着。
こちらもかなり変わっていた。
元々、樹上に作られていた都市だったが、木の下にも建物が多く建てられていた。
加えて樹木自体にかなり手を加えたらしく、窓のような物が見える所を見ると中を完全にくり抜いているようだ。
…こうなるとちょっとしたビルだな。
見上げると網の目のように樹木が橋で繋がっているのは変わらないが、妙な物が追加されていた。
樹木の一部が大きく迫り出しており、広場のような――いや、違うか。
見ていると空からコンガマトーが現れ、そこに着地。
なるほど。
発着場と言う訳か。
内心で納得しつつ先へと進む。
軽く見て回ったが、あちこちが使い易いように改良されている。
ゴブリンやオークでも使い易いようにと言った工夫が見て取れるからだ。
ただ、大型のレブナントやトロールにはここは狭いだろうな。
その証拠に姿が見えない。
なるほどと感心しながら次へと向かう。
その後、他の都市も軽く見て回ったが、南側の都市と同様に整備されていた。
エルフの都市は何に使っているのかと言うと、物資の集積や仕留めた魔物の解体等を行っているようだ。
その証拠に開けた場所では伐採した木材の加工や仕留めた魔物を解体している光景があちこちで見られた。
……それをコンガマトーで空輸か。
定期的に飛び交っているのが見えるのはその為だろうな。
木材を足に括り付けて飛び上がるコンガマトーを見ながら俺は先へと進んだ。
次に向かったのは道の終端。
現在、開拓中の場所だ。
そこでは――――
ライリーをはじめとしたシュリガーラとジェヴォーダン達が樹木の伐採作業を行っていた。
――何故かチェーンソーの様な物で。
バリバリと唸りを上げて樹木に切れ込みを入れて、半ばまで切った所で仲間に合図して離れる。
自重で圧し折れ地響きを立てて巨大な樹木が倒れる。
倒れた樹木を同様にチェーンソーで解体して、運び易い大きさになった所で巨大な荷車に積み込み、それをジェヴォーダン達が引いて運び出す。
恐らくは首途謹製の武器だろう。
チェーンソーだけでなく丸ノコの様な物まで装備していた。
「ガウ?」
途中で俺に気が付いたのか、ライリーがやや驚いたように小さく仰け反って、慌ててこちらに駆け寄る。
どうかしましたか?と言った感じで首を傾げているところ悪いが何もないぞ。
特に用事はないし、視察みたいな物なのでそのまま続けろと言って追い返す。
ライリーは不思議そうにしていたが、納得したのか作業に戻って行った。
さて、一通り見たしそろそろ戻るとしよう。
何だかんだでやる事はある。
動けるようになるまでにやる事をやっておくか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます