第363話 「開拓」
しばらくの間は身動きが取れないので、自然と領内の散策が日課となってしまった。
今日は畑をぶらついていたのだが、これと言って面白い物はないな。
周囲を見るとゴブリンやオークが収穫や運搬作業を行っている。
くれと言ったら野菜や果物をいくらでもくれるので、貰った
ファティマは付いて来ようとしたが仕事に戻れと追い返した。
数日、ぶらついてこの近辺の地形は粗方把握できたな。
最後に見た時と比べると随分と様変わりしている。
山脈より南側は大半が畑で、他は首途の工房に始まり、使用人やゴブリンなどの亜人種の宿舎、訓練場、馬車などの駐車場や厩舎、後は図々しい客専用の宿泊施設。
最後にファティマが住んでいる屋敷に使用人の住居といった所か。
数日観察していたが、かなり繁盛しているようだ。
毎日、何度も馬車が戻って来ては作物の詰め替えと買い付けて来た物を入れ替えて出発している。
俺も随分と世話になっているからその辺は分かっていた。
ファティマが早い段階で行ったのは流通関係の整備だ。
多数の商人を抱き込み、取り込む事によって国内にネットワークを構築。
国内全域で行商を行わせ、近くにいる者が俺と接触して金銭や物資の支援を行うと。
逆に俺が得た戦利品を受け取ってオラトリアムに輸送するのもこの連中の仕事だ。
お陰で冒険者ギルドで依頼を請けて稼ぐ必要がなくなったのはありがたい。
……まぁ、その所為で階級は青で止まってはいるがな。
元々、路銀稼ぎと身分証を得る為だけの肩書だ。
そこまでのこだわりはない。
さて、ここ等は一通り見た事だし、山の方を覗いてみるとしようか。
サベージを呼び出して山へと向かう。 何故か骨付きの巨大な肉塊を齧りながら現れたがスルーした。
久々に山脈まで来たが、こちらも随分と様変わりしている。
道はかなり力を入れて整備されているようで、しっかりと舗装されていた。
途中、野菜の収穫作業を行っているマルスランに何故かサベージが視線を注いでいたので、どうしたと尋ねると最近頑張っているらしいとどうでも良さそうにそう伝えて来た。
意味が分からん。
その後は黙々と進み、畑を抜けると山脈の入り口が見えて来た。
以前攻めた際、前線基地として作成した場所には小さな集落が出来ており、亜人種達が出入りしている。
聞けばトロールの大半は戦闘専門の職種で、現在は山脈の制圧作業に力を入れているらしい。
元は亜人種の巣窟だったが山脈全体がそうではなく、一部の場所では空を飛ぶ魔物の巣になっている場所も存在する。
現在はそこへ攻め入って版図を広げようとしているらしい。
亜人種は取り込んだが山脈全域の掌握はまだまだかかるようだ。
少し興味があったのでサベージに指示して方向転換。 その現場へと向かう。
数時間程で辿り着いたそこはちょっとした戦場だった。
トロール達が喚きながらでかいバリスタで巨大な矢や岩をドカドカ飛ばしている。
相手は全長数メートルのでかい鳥の群れだった。
見た目はハゲワシに似ているがとにかく数が多い。
トロールに群がって喰い殺そうとしているが、そうはさせるかとばかりに仲間が救援に入る。
バリスタから引っ切り無しに射出される矢や岩を喰らって数は減っているのだが、元が多い所為で減っているように見えない。
幸いな事に飛び道具を持っていないのかハゲワシ共は仕掛ける際に必ず降りてくるので戦えてはいるようだ。 見た所、どうも苦戦しているようだな。
トロール側の負傷者も多く、下がって傷の治療を行う者も多い。
だが、途中で戦況に変化が起こる。
別の影が空から現れたからだ。
それを見たトロール達から歓声が上がる。
来たのはコンガマトーだ。
連中は口から派手に火を吐き出してハゲワシ共を片端から火達磨にする。
ハゲワシの羽は燃えやすいのか少し触れただけで瞬く間に燃え上がっていた。
仲間が火達磨にされているのを見て不利を悟ったのかハゲワシ共は慌てて反転して逃げ出す。
敵が居なくなった所で一際巨大なトロールが拳を突き上げて勝鬨を上げる。
他もそれに倣って叫んだり吼えたりしていた。
それが済めば後は戦後作業のようだ。
ハゲワシ共とやられた仲間の死体を回収。 慣れた動作で荷車に積んでいく。
中々面白い見世物だった。 大半はトロールで構成されており、ゴブリンやオークはバリスタの操作に専念していたようだ。 動きも良く、統率もしっかりとなされていた。
終わったのを確認した後、サベージを反転させて元来た道を戻る。
山脈内も周囲と同様に開発が進み、小さな集落は勿論、街と呼べる規模の物まで建築が進んでおり、最後に見た時とは完全に別物となっていた。
最大の違いは街だろう。
ドワーフの武具店に始まり、宿舎、銭湯、食事処と言った物は驚かなかったが、娯楽施設まであるのは少々驚きだ。 賭場は勿論、風俗店まであるのは意外だった。
入口に入店の際に必要な注意事項が書いてあり、最後に料金表が添えられている。
ちなみにここでの金銭だが、ウルスラグナで流通している硬貨を使用しており、それを給与として支給しているようだ。
流石に独自の通貨は現状では厳しいらしく、ファティマは今後の課題と力説していた。
……おや?
何の気なしに視線を巡らせていると見知った顔があった。
アリクイ女だ。
オークに混ざって荷車を引いており、中にはバリスタ用の矢や石が大量に詰まれていた。
どうやら物資の運送を行っているらしい。
最後に聞いた時は畑で収穫と――そういえば部署転換がどうのとか言っていたな。
何だかんだで上手くやっているようだし問題ないか。
話しかける理由も必要もないので特に構わずに無視。
サベージに指示を出して次の場所へと向かう。
奴はさっきからちびちび齧っていた肉塊が骨だけになって名残惜しそうにしていたが無視した。
次に向かったのはシュドラスだ。
元々、ゴブリンの大都市だったが、足を踏み入れてみるとこれまた凄い。
建物のデザインが統一され、並びも整っている。
これはアブドーラの手腕らしく、区画整理にかなり力を入れたらしい。
街の一角ではデス・ワームが穴を掘り、隣でゴブリンとドワーフが図面片手に指示を出している。
城の近くには大きな広場があり巨大な石碑が鎮座していた。
見覚えがあったので目を凝らすと表面に古藤氏の名前が刻まれていた所を見ると、移された墓標か。
墓前には花や様々な物が供えられているのが見え、ゴブリンが水をかけて掃除していた。
……そう言えば場所を移したと言っていたが、ここだったか。
特に関心がなかったので視線を巡らせる。
すると警備兵なのかトロールやシュリガーラがジェヴォーダンを連れて巡回しているのが見えた。
この様子だと治安の方は全く問題なさそうだ。
……大した物だな。
シュドラスの治安の良さに内心で少し感心した後、更に先へと進む。
視線を上げると目に入るのは山をくり抜いて作った天然の城塞シュドラス城だ。
こちらも随分と手を入れているようで、テラスや監視塔の様な物まで増築されていた。
中の様子にも興味はあるが、一々話を通すのも面倒だ。
少し惜しいがここはスルーして次に行くとしよう。
次は森だな。 指示を出すと骨を未練たらしくしゃぶっていたサベージはついに我慢が出来なくなったのかばりばりと齧り出したが無視した。
さて、森は特に力を入れて開拓していると聞いたが、どうなっているのやら。
以前は越えるのにそれなりに苦労したのに今となってはフリーパスか。
随分と変わった物だと自嘲して山脈を越えるとそこには――
「おお」
思わず声を漏らす。
――一目で分かる程に切り開かれた森が広がっていた。
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