第348話 「謁見」

 やってくれる。

 最後の最後まで厄介な女だった。

 銃杖の存在を認識しているにも拘らず拳銃があるのではと疑わなかったのは俺の油断だ。


 正直、かなり効いた。

 まさか至近距離で顔面に<爆発>を喰らう羽目になるとは予想外だ。

 聖剣とその弱点を見破る事を見越しての奇襲。


 業腹だが見事にやられたな。

 不快感もあったが、見事な手際だったので素直に感心した。

 実際、俺じゃなければ即死だっただろう。


 それで当のアメリアはどうなったかと言うと。 


 「ごふっ……」


 恐らく俺の拳に腹を貫かれて派手に血反吐を吐いている。

 顔面を吹っ飛ばされたお陰で見えてないが手応えからして間違いないだろう。

 炭の塊になった眼球や感覚器官を最優先で修復。


 特に視界の確保を優先し数秒で視界が戻る。

 目隠し状態で殴ったので、ちゃんと致命傷を叩き込めたか心配だったが、しっかりと胴体に風穴が開いているので間違いなく致命傷だな。

 アメリアは口元を血に塗れさせながら口の端を吊り上げて笑う。


 「ふ、ふふ。 素晴らしい、力だ。 私は、君が羨ま……しいよ。 なぁ、どん、な景色なんだ? 人を超越した、力と肉体を手に、入れたのは……」

 

 この状態で喋れるとは思ったより元気だな。 特に答えてやる義理はないので質問は無視して作業に集中。

 さっさと脳を押さえて支配下に――。


 「使い……たくは、なかったが……仕方がない。 これ、で……最後だ。 私と、来て……貰おうか」


 アメリアが笑みを深くし、その表情が不意に消える。

 同時に体が発光。

 内心で舌打ち。 自爆か。


 せめて記憶だけでもと思ったが間に合わんな。

 爆散。 例の黒い霧を至近距離で浴びる。

 全身が爛れて溶け落ちるが再生力で捻じ伏せた。


 やってくれる。

 アメリアは完全に消滅して死体すら残らなかった。

 結局、記憶が抜けなかったのが残念だが、仕留めたし問題なかろう。

 

 これでアスピザルへの義理は果たしたので、報告をしようかと思ったが通信用の魔石はアメリアの自爆のお陰で溶けて使い物にならなくなっていた。

 まぁ、報告なら後でもできる。 やることはやったし、ここからは俺の好きにさせて貰うとしよう。

 その前に――


 「服だな」


 肉体は再生したが装備はそうはいかなかった。

 また全裸になってしまったじゃないか。

 俺でも着れそうな物は――あった。


 死んだ加々良の装備だ。

 破損して防具としての機能は殆ど失われているが下半身の部分はほとんど無傷だったのでまぁいいだろう。


 他に使えそうな物はと思ったが不意に右手に視線を落とすと香丸の鉤爪もさっきので溶け落ちていた。

 結構使えたのに勿体ない。

 小さく嘆息して辛うじて溶け残った部分を右手から引き剥がして捨てる。


 加々良の装備もサイズの自動調整機能があったようなので身につける事はできた。

 上半身は裸だが腰から下の格好はついたので問題ないだろう。

 最後にザ・コアを拾い上げて肩に担ぎ、準備完了。


 行こうかとも思ったが、その前にやる事がある。

 奴の使っていた武器だ。

 まず剣に視線を落とす。 鎖を砕いた事で奴も触れなくなって取り落としたようにも見えたが……。


 柄に触れようとすると指先に衝撃。

 手が弾かれて痛みが走る。

 

 ……これは触れんな。


 なら鞘はどうだと触れてみるとこちらは問題なく触れた。

 持ち上げてみるが、思ったより軽い。

 欲を言えば何とか使ってみたい物だが――ん?


 手に伝わる重みがどんどん軽くなっていく。

 何だと思ったが答えは直ぐに出た。 剣が浮かび上がって勝手に鞘から抜けたのだ。

 剣の全体像が露わになる。


 オレンジ色で水晶のような刃に文字の様な物が中に見える。

 それが脈打つように輝き、空中で静止。

 一目見ただけでそこらの剣とは一線を画した存在であることが分かる。


 ……そもそもこれは人に作れるものなのか?


 そんな感想が自然と出て来る程度には異様な物だった。

 剣は少しの間静止していたが、急に切っ先を壁の方に向けるとそのまま飛翔。

 壁を貫通して視界から消えていった。

 

 「……なんだったんだ?」


 訳が分からないが飛んで行ってしまった物は仕方がない。

 気を取り直して拳銃を拾い上げるが……。


 ……これも駄目か。


 発射の際に不具合でも起きたのか熱であちこち溶けていてとてもじゃないが使えそうにない。

 本体が溶けた事により内部機構が露出し、入っていた魔石が顔を覗かせている。

 それを見てなるほどと思う。


 こちらは魔石を弾にするのではなく魔法自体を射出する用途で作られた物か。

 手の平に収まるサイズだったので腰に差しておく。 首途への土産にでもするか。

 この場に用事はなくなったので俺は先へと駆け出した。


 


 さっきの戦闘で城に詰めていた戦力は軒並み死んだのか、先へ進む道中特に騎士に出くわす事はなかった。

 全滅したと考えるのは楽観だろう。

 この先にある場所を考えるとそこを固めていると見て間違いないな。


 やる事は決まっている。

 玉座とその周りにいる奴等を皆殺しにして王を洗脳してしまおう。

 王を押さえてしまえば、残りの面倒事はどうにでもなる。


 後は晴れて自由の身だ。

 特に妨害を受けずに城内を進み。

 最上階に辿り着き、巨大な両開きの扉が現れる。


 ……ここか。


 扉を開けるとそこには予想通りの光景が広がっていた。

 百近い近衛騎士と魔法使い。 聖騎士が居ない所を見ると教団から来た連中はさっきので全部だったようだな。

 他は豪奢な服を着た公官らしき連中が数十、さっき取り逃がしたペレルロ。


 そこでおやと眉を顰める。

 抱えていたアーヴァとか言うガキが居ないな。

 あの魔法は厄介なので可能であれば記憶を吸い出して身に付けたい所ではあったが、どこへ行った?


 まぁ、仕留めるのが必須ではないし、居ない者は仕方がないと棚上げして視線を正面へ向ける。

 玉座に堂々と座っている男が一人。

 国王だ。

 

 王は半開きの眠そうな目でこちらを見やると少し驚いたかのように目を少し開き、興味深いといった感じに細められる。

 室内にはテラスのような物があり、窓が開け放たれているので外の音が風に乗って流れて耳に入った。


 微かではあるが悲鳴や叫び声、レブナント共の物と思われる咆哮。

 外はまだまだ盛り上がっているようだ。

 

 「賊め! 玉座の間まで土足で踏み込むとは命を以って贖え!」


 問答無用とばかりに近衛騎士共が武器を次々と抜き、魔法使い共は後ろで魔法の準備を始める。

 俺は修復が済んだザ・コアを起動。 唸りを上げて回転させ、向かって来た連中を迎え撃つ。

 

 「おかしな武器を! そんな見掛け倒しでひるぶぎゃ」


 最後まで言わせず先頭の騎士を瞬時に挽き肉にする。

 俺は特に何も言わず、淡々と近くにいる順番に騎士を磨り潰していった。

 魔法使いが撃ち込んで来た魔法はザ・コアで吸収して無効化。


 順に粉砕し、騎士が全滅した所で魔法使い共も同様に作業的に処理していく。

 途中、逃げようとした公官は左腕ヒューマン・センチピードで頭を粉砕して仕留める。

 

 「ま、待っ――」


 最後に命乞いをしようとした魔法使いを血煙に変えてその辺にまき散らすと辺りはすっかり静かになった。

 残ったのは呆然としているペレルロ、恐怖に震えている公官共、最後に無言でこちらを見ている国王のみとなった。


 「ま、待て!」


 不意に公官の一人が転がるように前に出る。


 「わ、私はウルスラグナ王国特等公官、ルチャーノ・ペルティ・パカーラだ」


 小太りのおっさんはまくし立てるように名乗る。

 周りは特に動く様子もないので無言で先を促す。

 ルチャーノはふうふうと顔面を汗に塗れさせながらこちらを恐怖の混ざった眼差しで見ていた。


 「取引、取引がしたい。 こうなった以上、我々に勝ち目はない。 そちらの要求を可能な限り呑む。 代わりにこの場に居る人間を見逃しては貰えんか?」

 「悪いが、時間が経てば反故にされるような口約束をする気は無い」


 特等公官――つまりは国で言えば大臣クラスといった所だろう。

 なら、生かしておいた方がいいな。 使い道がある。

 一人いれば充分だし、他は要らんな。


 ルチャーノの背後にいる連中に<榴弾>を撃ち込む。

 爆発と同時に大半が即死。 残りが火達磨になる。

 

 「な、なに――」


 左腕ヒューマン・センチピードでルチャーノの片足を粉砕。

 

 「あ、がぁ」


 傷口を押さえて床を転がる所を踏みつけて止め、魔法で傷口を焼いて強引に止血。

 その痛みに耐えかねたのか気絶してしまった。

 巻き込んで死なれても困るので、壁際まで加減して蹴り飛ばす。

 さて、雑魚は居なくなったな。

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