第158話 「強襲」

 里の制圧率は四割と言った所かな?

 一部炎上している所すらある。

 後で使うかもしれないから片付いたら消しておくか。

 

 ……にしてもおっそいな。


 こんだけやられてるのにドルイドは何やってるんだ?

 早くしないと里が滅ぶぞ。


 轟音。

 雷のような物が迸り、タッツェルブルムが直撃を受けて体勢を崩して倒れる。

 お出ましか。


 『皆!怯むな!我等が道を切り開く!』


 ハイ・エルフが数名、杖を構えて魔法を連射しながら周りを鼓舞している。

 それにしても随分とゆっくりだったな。

 もう里は半分ぐらい滅んでるぞ?


 距離がある所為か連中、俺には気づいてないっぽいな。

 取りあえず、お手並み拝見と行こうか。


 真っ先に突っ掛けたのはジェヴォーダンに跨ったライリーだ。

 先頭のハイ・エルフ三人が杖を重ねる。

 これは大技を使ってくるな。


 ライリーは構わずに突っ込む。

 おいおい、せめて動いて狙いを散らすぐらいは……。

 次の瞬間、俺が喰らった奴より規模は小さいが、例の光線が真っ直ぐにライリーを射抜いた。


 ……あぁ、馬鹿。何やってんだ。

 

 胴体にでかい風穴を空けられたライリーはジェヴォーダンから放り出される。

 彼の騎獣は相棒の危機に即座に反応し、尻尾でライリーを確保すると反転して逃走。

 入れ替わるようにタッツェルブルムと他のシュリガーラが前に出た。


 まぁ、あの程度では死なんだろうがライリーよ。 

 清々しい位の瞬殺だったな。

 これがほんとの噛ませ犬ってか?


 ははは……はぁ。

 俺のギャグってホント寒いな。

 悲しい気持ちになった。


 それにしても連中、あのビーム攻撃を普通に使えるのか。

 厄介だな。あいつらを仕留めたら記憶を抜いて俺も使おう。

 見ている傍からタッツェルブルムが頭部を吹き飛ばされて即死する。


 あー……。何て事しやがる。

 作るの苦労したってのに……。

 ハイ・エルフが参戦し、立て直してからのエルフの動きは流石だった。


 火力の低いエルフが弓と魔法で牽制して、ハイ・エルフが大技で確実に仕留めて行っている。

 シュリガーラ達も連携では負けておらず、タッツェルブルムが大きな動きで敵の注意を引いて、その陰に隠れていたジェヴォーダンがエルフに喰らいついて首を噛み千切っていた。


 どうやら騎乗するより、降りて個別に仕掛ける戦い方に切り替えたようだ。

 単純に手数が増える上に、そもそもシュリガーラは騎乗しなくても充分動けるしな。

 お陰でエルフ側の処理が追いつかなくなってきている。


 ……と言うよりエルフの連中、まともな前衛が居ないから魔法使いメイジやウィッチが攻撃と防御を同時にこなしているので負担が半端ないだろうな。


 基本的にこいつ等の戦い方は主に地形を活かして、遠距離から削る戦法だ。

 ここまで踏み込まれている時点で、厳しい状況なんだろう。

 対するこちらは様々な能力に特化しており、大抵の事はこなせる布陣だ。


 ……まぁ、どうしてこうなったのかどいつもこいつもカチコミが大好きな脳筋だが。


 観察して気づいた事がある。

 連中、性格等はベース依存の筈だが、やたらと好戦的になる傾向にあるようだ。

 逆に一から作った連中は自我が弱く、命令には忠実だがあまり柔軟に物を考えない。

 まぁ、何と言うか指示待ちみたいな印象がある。


 見ている傍から弓で牽制を繰り返していたエルフがジェヴォーダンに攻撃されて躱すが、仲間と分断された後、シュリガーラに群がられて文字通り餌食になった。

 斧やハンマーで滅多打ちにされて、連中が離れた後に残った死体は……まぁ、控えめに言ってグロ画像だな。原型を留めていない。


 さて、エルフ達は頑張っているが時間の問題だろう。

 明らかに減ってきている。

 それに――君達、ここが木の上だって事を忘れていやしないかい?


 ……それにしても妙だな。 


 ハイ・エルフの連中、グリゴリを呼び出さんのか?

 それとも呼び出せない・・・・・・のかな?

 

 どちらにせよ呼べるのなら早くしないと死んでしまうぞ?

 

 『なっ!?』

 『い、イーマ様!?』


 必死に魔法でシュリガーラとジェヴォーダンを仕留めていたハイ・エルフの頭が弾け飛んだ。

 顔面にハンマーの直撃を喰らって顔がパイ投げ喰らったみたいに色々な物が飛び散る。

 赤いけど。


 そのハンマーが飛んで来た方向には何も居ない――ように見えるが、そいつらは魔法による偽装を解除して滲み出るように現れた。

 シルエットはオークとトロールに近いが完全に別物だ。

 

 形状は人型。濃い緑色の体に装甲のような外皮。

 真っ黒な目と赤い瞳が特徴的だ。

 外皮は魔法を弾き、弓矢を通さない。


 タッツェルブルムもそうだが、思いっきり対エルフを意識して作った連中だ。

 名称はモノス。

 オークとトロールの改造種だ。


 元ネタは――どこだっけか?

 スペイン?かどこかに現れた未確認生物だったはず。

 連中は見かけによらず隠形や撹乱を得意としており、姿を隠しての奇襲役として配置していた。


 因みにアブドーラの采配だ。

 上手い事、貸した兵を使ってくれて何より。


 ちなみに連中が何処から現れたのかと言うと姿を消して下から這い上がって来たのだ。

 その後、ゆっくりと忍び寄ってからの奇襲。

 ハイ・エルフが死んだ事といきなり現れたモノスに驚いたエルフ達が生んだ隙は致命的で、一度崩れた状況はどうにもならずにエルフはあれよあれよと皆殺しにされ、残ったハイ・エルフもシュリガーラ達を捌き切れずに沈んだ。


 『や、やめ――』

 『助けて!死にたくな――ガッ』

 

 一部必死に命乞いしている連中も居るが、残念ながらそいつらエルフ語分かんないから無駄だぞ。


 仲間が殺られて怒り狂ったシュリガーラ達の攻撃は苛烈で、馬乗りになって殴打している者、手足を人形のように次々と千切られる者、ジェヴォーダンやタッツェルブルムの餌になった者等とエルフ達はどいつもこいつも碌な死に方をしなかった。


 憐れ。

 所でハイ・エルフから記憶抜きたいから頭――あー、あれは残らんなー。

 俺は小さく溜息を吐く。


 ……次は加減するように言わんとな。






 『急げぇ!皆ここから離れるんだ!』

 

 燃え上がる家々の間を駆け回り私――マニュエルは必死に皆を逃がしていた。

 里へ入り込んだゴリベリンゲイと空を飛ぶ魔物の攻撃は苛烈を極め、死傷者が次々と増えて行く。

 そもそもゴリベリンゲイは魔法に対する高い耐性と、弓を通さない頑強な肉体と我々とは相性がとても悪い難敵だ。


 仕留める場合はどこかに誘い込んでから罠にかける必要があり、正面から戦うのは愚策を通り越して無謀とさえ言われる相手だ。

 それが複数、しかも里の内部にまで入り込まれている。


 こうなってしまっては全て始末するのは難しい。

 悔しいがここは放棄するしか……。

 その事を西の里を束ねるミラードへ話さなければならない。


 何故だ。何故こんな事が唐突に起こる?

 脳裏にあのローと言う男の姿が浮かび上がる。


 ……まさか奴の仕業か?


 それ以外考えられなかった。

 ここ最近でこの里で起こった変化は奴が現れた事ぐらいだ。

 そう考えると様々な事が腑に落ちる。


 あの化け物共をどうやって手懐けたのかは分からんが、奴の仕業と考えれば納得できてしまう。

 奴は我等の態度に腹を立てているようであったし、報復の為にこの惨状を引き起こしたのだ。

 そうだ。そうに決まっている。立て直し次第、奴を仕留める算段を整えよう。


 私は急ぎ神殿へ向かう。

 この非常時だ。ミラードは家ではなく神殿で指揮を執っているはずだ。

 戦火が里全体に拡大しているのが分かる。


 あの魔物共は里に入ると同時に散ってあちこちで暴れているのだ。

 被害の拡大を意識した動きだ。どう考えても血の気の多いゴリベリンゲイの行動ではない。

 明らかに何者か――それも高い知能を持った者が指示を出している。


 視界の隅でゴリベリンゲイが家を破壊して中に隠れていた住民を引きずり出した上で叩き潰しているのが見えたが、内心で歯噛みしながら無視して先を急ぐ。

 つい先程まで平和だった里が変わり果てて行く様は胸に刺さる。


 ……何故、我等がこのような仕打ちを受けねばならん。

 

 この理不尽な現実に気が狂いそうになる。

 本当は一刻も早く家に帰る家族の無事を確認したかったが、私はこの里のウァテスだ。

 役目を放り出す訳には行かない。


 もう少しで神殿という所でゴリベリンゲイが道を塞ぐように降り立った。

 私は小さく舌打ちして懐から短杖を抜く。

 目の前の魔物は魔法に対する抵抗力が高く、仕留めるのは難しい。


 ならば。


 ……仕留めずに足止めを狙う。

 

 勝てないまでもやりようはある。

 化け物め。

 ハイ・エルフに授けられた叡智の一端を見せてやろう。


 私は足を止めずに走り開いた手の中で魔法を発動。

 <肥沃ファータル>。

 手の中に小石のような感触が現れる。


 ある程度近づき、敵の間合いに入る前に投擲。

 投げた物に杖を向ける。

 

 『喰らえ化け物め!』


 <繁茂グロース>。

 空中にいきなり樹木のような物が現れ、ゴリベリンゲイの胴体に絡みつく。

 流石に予想外だったのかゴリベリンゲイは振り解こうとするが無駄だ。

 

 今使った魔法は二種類。

 <肥沃ファータル>は植物の種を生み出す魔法だ。

 その種は地に植えると急速に成長して樹木となるがすぐに枯れてしまう。


 本来なら即席で木材を確保するぐらいにしか使い道はないが、もう一つの魔法<繁茂グロース>と組み合わせる事で瞬時に相手を拘束する魔法に変わる。

 <繁茂グロース>は植物に魔力を送り成長を促す魔法で、本来は植物の育成を促すだけの魔法だが魔法で生み出した種は元々成長が早く、効果は目の前の魔物が身を以って体験している。

 

 とは言っても急速に成長した樹木は直ぐに枯れるので長時間の拘束は難しいが、短時間なら絶大な効果を発揮する。

 一人で使うには消耗の激しい魔法だが、一度なら問題ない。


 私は拘束を剥がそうと踠くゴリベリンゲイの脇を通り抜けようとして――。


 『……あ?』


 脇腹に熱い感触。

 そっと触れると湿った水気。

 手を見ると真っ赤に染まっていた。


 ゆっくりと自らの体に視線を落とす。

 脇腹に何か刺さっていた。

 円形の刃物だ。たしか円刃チャクラムだったか?


 あの五月蠅いゴブリン共の一部が好んで使っていたはずだが……。

 それが何故こんな所に?ゆるゆると飛んで来たであろう方へ顔を向ける。

 ゴリベリンゲイはいつの間にか暴れるのを止めており、その傍らには武装したゴブリンが居た。


 ……ゴブリン?何故ここに?


 その疑問に答えが出せぬまま灼熱する傷の痛みと共に私はその場に崩れ落ちた。

 頬に当たる血の感触から、自分がかなりの出血をしていたんだなと最後にそんな事を考えて意識がふっと遠のいた。

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