第14話 「集団行動」

 朝から晩まで働き続けられるので、宿を取らずに現場を転々としていた。

 仕事を取って現場へ行き、終えてギルドへ戻り報酬を貰う。

 そんな生活を十数日繰り返していた。


 現状は下級の最上位、黄一級を目指して働こう。

 その辺まで行けば、王都を目指して旅に出る予定だ。

 でも、単純作業はちょっと飽きてきたな。


 何か面白い依頼はないかな…。

 ギルドのコルクボードに貼られている依頼書を眺める。

 討伐系の依頼をやってみるか?


 「なぁ、あんた」


 振り返ると、戦士風の男が声をかけてきた。


 「何か?」

 

 何だこいつ?ここで初めて見る顔だな。

 

 「中々いい体をしている。結構やるんだろう?どうだ、俺達と組まないか?」

 「それはパーティーに入れって事かな?」


 正直、人付き合い面倒だからパーティーとか嫌なんだけど。

 戦士の後ろにはパーティーメンバーらしき男女が居る。3人で組んでるのか。


 「いや、正式にって話じゃねえよ。ちょっと俺たちが受けた依頼が手強い内容でな。戦力が欲しいんだよ」

 

 話を聞けば、彼らが受けた依頼は街から離れた所にある廃棄された砦に妙な連中が出入りしており、その調査依頼だそうだ。

 ならず者などの害のある集団であった場合は排除。

 事情があった場合は確認して報告。


 近辺で盗賊の被害が確認されているとの情報もあり、もしその連中が砦を根城にしているようなら人数次第では自分達だけでは対処が難しいかもしれないので助っ人を探しているらしい。


 「報酬は人数で頭割りだ。どうだ?あんたに取って、悪い話じゃないと思うぜ?」

 「……」


 どうしたものかと思案する。

 賊の討伐はやってもいいんだが、こいつらと組むのに抵抗がある。

 体質とか見られるの嫌だな。


 「ま、すぐには返事し辛いか?なら、酒でも飲みながら少し話そう。ついでに、飯も食おうじゃないか。当然、俺が奢るよ」

 「分かった。話を聞こうじゃないか」


 しまった。

 飯に釣られてつい返事をしてしまった。

 空腹だけはきついからなこの体。




 近くの酒場で食事をご馳走になった。

 その間、彼らは今までの冒険の話や駆け出しの頃の話を俺にしてくれた。

 話は適当に聞いて料理を大量に食った。


 会計の時、三人の顔が引きつっていたが奢ってくれるという話なのでお礼だけ言って店を出た。

 飯を喰って空腹感としばしの別れを告げられたので、俺は快くパーティーに入る事にした。

 どうせ今回だけだしな。


 三人はもう何人か勧誘すると言って俺と別れた。

 出発は明日なので準備しておこう。

 




 翌日、街の出入り口集合との事だったので集合場所に行くと俺以外の面子は揃っていた。

 例の三人に加えてもう三人。俺を含めて七人か。

 

 「よく来てくれたな。では、出発と行こう」


 目的地は徒歩で一日もかからない距離で、夜には到着するらしい。

 道すがら俺達は自己紹介をする事になった。


 俺達を勧誘した戦士はハング。武器は腰の剣。

 ハングの仲間のホンガムこちらも大柄の戦士で大きな戦槌を持っている。

 もう1人の仲間はクインハム。こっちを見て「ふん」と鼻を鳴らす。


 回復魔法が使えるらしい。髪を短くした女性だった。でっかい玉の付いた杖を持ってる。

 顔は――普通? 個人的には可もなく不可もなく。感じ悪そうだから距離を取ろう。

 昨日もろくすっぽ会話してないのに何故か睨まれていたな。


 ひどい女だ。俺はただ君達の財布で飯を食っただけなのに……。


 残りはハングが勧誘した連中で、男三人。

 まずは戦士のガービス。武器は腰の二本の剣。

 次は武闘家?のバリル。武器はなく頑丈そうな小手を付けている。

 最後に、狩人のコーラウ。大弓を持っている。

 

 「んじゃあ、最後にあんただ。名前と武器を教えてくれ」

 

 他が自己紹介を終え、ハングが俺に水を向けてくる。

 

 「ローという。武器はこれだ」


 簡単に自己紹介して、腰のマカナを見せる。

 カタールは…見せなくていいか。


 「変わった武器だな? どこで手に入れたんだ?」

 「貰い物でね。出所は分からない。使い勝手もいいし手に馴染むので使っている」

 

 ハングは俺の武器に興味があるのか、やたらと聞いてくる。

 俺は当り障りのない受け答えをしながら、ハングの話に付き合ってやる。

 ハングを見る。話すと気さくないい奴だというのが分かるが…何だろうな…。


 昔、前世でこいつと似たような奴を見たような気がする。

 ……誰だったかな。

 喉まで出かかってるのだが、思い出せない。


 ハングと適当に話しながら思い出そうと唸っていると、いつの間にか先行していたコーラウが戻って来た。

 

 「ゴブリンとオークの集団」

 「数は?」

 「ゴブリン十。オーク六」


 コーラウの報告にガービスが素早く反応する。慣れた感じだな。

 ああ、こいつらも元々パーティー組んでたのか。

 ガービスはハングの方に顔を向ける。

 

 「ハング。リーダーはあんただ。どうする? やり過ごすか?」

 「数は倍以上か…まぁ、ゴブリンだしやれるだろう。仕留めよう」


 ハングの言葉に全員が武器を構える。

 俺もマカナを握る。


 「陣形はホンガムとローが正面、俺が左。ガービス、バリルが右に展開。クインハム、コーラウは後ろで援護。急造のパーティーだ。お互いの動きをなるべく意識していこう」


 体格が良く頑丈そうなのを前に、元々組んでいて息を合わせやすいガービス、バリルを組ませたか。

 良い感じの指示だ。慣れてる奴は違うな。

 

 ……にしても、街から出て半日も経っていない所でゴブリンか。


 連中は恐らく、シュドラス山を根城にしてる連中とは別口だろう。

 山を下りて独自に群れを作っている同族から「はぐれ」と言われている者達だろう。

 特に訓練をしているわけではないので、シュドラス山のゴブリンに比べると質はかなり落ちる。

 

 ゴブリンが雑魚扱いされる所以はこいつらのせいだろう。

 強い奴は本当に強いんだけどなゴブリン……。


 ゴブリン達が目視できる距離まで近づいてきた。

 俺達を見つけると、喜びとも怒りとも取れる雄たけびを上げ、武器を構えて走ってくる。

 

 「俺の合図で前衛は突っ込んでくれ。クインハム、頼む」


 ハングの指示にクインハムは無言で頷いて杖を構える。

 魔法の詠唱に入ったか。

 

 ゴブリン達が近づいてくる。

 五十メートル――四十メートル――三十メートル――二十――十。

 クインハムの杖が光を放ち、ゴブリン達に熱風が襲いかかる。


 いきなり砂を孕んだ熱風を喰らったゴブリン達はとっさに顔を背ける。

 

 「今だ! 行け!」


 ハングの合図で前衛が突っ込む。

 俺とホンガムが最初にぶつかり、俺のマカナがオークのテンプルを打ち抜いて頭部を爆散させた。

 隣を見るとホンガムがオークの脳天に戦槌を叩きつけて陥没させていた。


 ガービスとバリルも慣れた動きでゴブリンを撃破している。 

 バリルが派手な動きで注意を引き、隙ができたところでガービスがゴブリンの首を刈っている。

 コーラウは大弓で敵の脳天を次々と射抜いている。


 ハングは――早いな。もう終わってる。

 足元には彼が受け持っていた敵の死体が転がっていた。

 クインハムは支援できるように身構えていたが、不要と悟ったのか警戒は緩めずに戦闘の推移を見守っている。


 俺も向かってくるゴブリンの頭を爆散させる。 

 俺が3体目のゴブリンを仕留めたところで戦闘が終わった。

 

 「……ふう。楽勝だったな。大した値にならないが、剥ぎ取りをしておくか」


 ゴブリン達が動かなくなったところで、ハングが指示を飛ばす。

 他の面子は無言でゴブリンやオークの耳を切り落としている。

 俺もやった方がいいのかな?


 「ああ、ローは駆け出しだったな。ゴブリンやオークの耳はギルドに提出すると報酬が出るんだ」


 ああ、なるほど。

 依頼とは別口で報酬が出るのか、小遣い稼ぎにいいかもしれないな。

 俺も金に困ったら、その辺にいるゴブリン殺して耳を切り落とそう。

 体は喰えばいいしな。


 剥ぎ取りを終えた俺達は死体をクインハムの魔法で焼いた後、移動を再開した。

 その後は、特に問題なく距離を消化できた。

 日が暮れたところで、ハングの指示で休憩と仮眠をする事になった。


 

 「皆、これからが本番だが、まずはここで休憩を取って状態をベストに持っていこう」


 全員でたき火を囲み、金を出し合って街で買った食材を放り込んで鍋にしていた。

 

 「……とまあ、堅い話はここまでにして。今日のこの出会いに乾杯!」

 『乾杯』


 ハングの音頭に全員がカップを掲げる。

 各々、食事をしたり酒を飲んだりとこの食事の時間を楽しむ。


 「ところで、ガービス、ロー、今までの冒険の話を聞かせてくれよ」

 

 駆け出しの俺に面白い話なんぞできる訳ないだろう。


 「すまないが、まだ駆け出しでね。冒険と言うほどの経験はないんだ」

 「ああ、駆け出しだったなすまないな」

 

 ハングが軽く頭を下げる。

 俺は気にするなと軽く手を振る。

 

 「そうだな。面白い話ではないが……」


 ガービスが話を始める。


 「大陸の南にある湿地帯で悪魔に出くわした話を聞いた事がある」

 「悪魔ってあの悪魔か?」


 悪魔?


 「ん? あぁ、ローは知らないか? 悪魔は文献などでは良く存在するとは言われているんだが、目撃証言が少ないから実在が疑われている魔物だよ。一説には亜人種とも言われているが、何分情報が少なくてな」


 都市伝説みたいなものか。


 「すまない。ガービス続けてくれ」

 「ああ、そいつはリザードマンの住処に行く途中だったらしいが、夜に湿地帯を歩いている時だった。空に光る物が飛んでいる事に気づいた」


 ガービスがカップに入った酒を一口飲む。


 「何だろうとそいつは目を凝らした。よく見ると光は2つあって、お互いがぶつかり合っていた」


 いつの間にか、他も食事の手を止めて話に集中していた。


 「動き回っている上に距離もあった。細かく見えた訳ではないが確かに羽の生えた人のような姿だったらしい」

 「そいつらは戦ってたって事か?」

 「それは分からない。数十分も経たずにそいつらは消えてしまったらしいからな」


 あぁ、知ってる。未確認飛行物体フライング・ヒューマノイドだ。

 異世界でもいるんだなー。


 「……俺の話は以上だ。あまり面白くはなかっただろう?」

 「いや、興味を惹かれる話だった。俺も南に行く事があればそこに足を運んでみるよ」

 「俺は話したぞ? 次はハング。アンタの番だ。面白い話を期待してるぞ?」


 ハングは苦笑した後、話し始めた。

 彼の話は面白かった――というよりも話し方が上手かった。


 大渓谷を根城にしているドラゴンの群れの話。

 巨大な廃城に住むアンデッドの王の話。

 大山脈を支配するゴブリン王国の話。あ、それ知ってる。

 

 他の皆も実体験や、眉唾物の噂などの話を持ち寄り、食事の席は盛り上がった。

 中々楽しいひと時だった。

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