#2.<ナゾ解きとランチタイム>謎解き
三人は密室にこめられ、四角いタイルのはまった小さいプレートを前にしている。空中には文字が浮かんでいた。
一、三ツ目の子を辰に向け辰を申に向けよ。
二、青月と白日の卯と午と酉を番いにして子と辰を申に導け。
「これは簡単アル」
「ですね」
「子と辰、申、それに卯と午と酉。これがエトなのはミーにもわかるヨ。だけどこの平面パズル、タイルが3×3の9枚しかないデショ!」
「問題は数じゃないアル。位置と方角ヨ」
「スタート地点をこことすると……」
「あ! ハラキリ・ブレード、勝手に何するのヨッ」
「自分、その名前で呼ばれるのは、なんか、とても嫌です」
「あっソウ。Mr.ブシドー、予告なしに動かしてチームワーク乱さないでヨ」
「自分、ガイです」
「ナスビ食べる馬鹿デショッ」
「アキナスはただのナスビじゃありませんからっ」
「二人のケンカは心底どうでもいいアル。『三ツ目』がヒントヨ」
「あっ本当ヨ。三つの角に数字が書いてあるヨ」
「あんた……だから自分はここだと思ったんですよ。左上!」
「オマエうるさいヨ。ナスビの臭いがするから、しゃべらないでヨ」
双方、にらみ合い、背中を向け鼻を鳴らした。シャオメイが軽く肩をすくめ、何を感じた風もなく、言った。
「じゃあ、ここはジェインが動かすよろし」
「OK.ミーに任せるヨ。ネズミさんが東南東を向くとー、ちょうと右端の真ん中のタイルにたどりつくからー、そこから西南西を向くとー、左下のタイルにくるヨ」
「辰が東南東で申が西南西ってよくわかりましたね。もしかして、ウエストバンクでも、方角はエトで表したんですか」
「ミーが優秀なのは相応の努力をしたからヨ。こんなの余裕デショ!」
「じゃあ、じっさいに動かしてみるアル」
「この四角い部屋のど真ん中にあるネズミの石像を、念力で動かします」
「一回でも失敗できないヨ。慎重に回すアル」
「えっ、移動させるんじゃないんですか。台座ごと回転させるとなると、ナビが欲しいですよね」
「ミーが透視したところによると、東南東はあっちヨ」
「こちらですね。あっ、時計回りに回りますね……」
「こっちのドアロックが開いたアル」
「わーっ、広いところへ出たヨー」
「なんだか特殊な臭気がするアルヨ」
「オゾン臭でしょう……あまり人の手は入っていないようです」
「Mr.ブシドー、次はあれヨ!」
「……オリエンタル・ドラゴン……ですかね」
「ワーオ! 金に輝く
「ここから見て西南西には部屋があるヨ。歩いて見にいくヨ」
「何考えてるか。ジェイン、スタンドプレーはよすアル」
「自分、行ってきます!」
「あっ、ガイ……」
「ハイ……?」
「ジェインと二人っきりになってどうするアルか」
「え……っ、でもすることは済ませましたから、ついていくべきでしょ」
見ると黄金龍の頭がジェインの向かった部屋を向いていた。
「ニクイ男アルね」
ガイはよく働く男だ。
シャオメイがつづいて扉をくぐると、急に廊下が青く光った。
「ああ……これはさすがに理解できたアルよ……」
「ユー! ここに次の問題があるヨ。北の空から朝日をのぞめって。これって北の扉から出て東を見ろってことデショ」
「この部屋にサルの絵がかかってました。あんたが部屋に入ってきた瞬間、壁からはずれましたけど、見てのとおりです」
絵がかかっていたという壁面にはジェインの言ったとおりの言葉がきざまれていた。
「ゴールはこの扉の向こうアル」
「よし、残念ナスビの出番デショ!」
「自分、ガイですってば」
「他と違って蝶つがい式だから、ピンポイントでひねれば一発ヨ」
「残念なのはあんたの頭アルよ。ジェイン」
「……なんでヨ」
「ロジカルに考えるアル。まだ二問目を解いてないヨ。ここに三、とは記してない以上、他に問三があるかもしれないし、問四も問五もまだまだあるかもしれないヨ」
「つまり、この扉をこじ開けたところでミッションは終了しない、ということでしょうか」
「そういうことと思うヨ」
「それなら最初のネズミの部屋にあった平面パズル、誰かが持ってこなくちゃデショ!」
「じゃあ、自分が行ってきましょうか」
「だったら臭い口をとじて、さっさと行けばいいデショ」
「待つアル」
シャオメイの言うとおりに、三人は共にネズミの部屋に戻った。
「ガイ、なぜこの三人なのか、考えたアルか」
ネズミの部屋から出て正面の部屋の南の扉が開くと、西南西の方角を向いた例の金龍の背中が見えた。
「さあ。得意分野が違うことからしたら、せいぜい分業しろというのでは」
石像でできたネズミを出すと、向かいの部屋から
中には……。
「ふんふん、いいにおい……これ、ミーの憧れのテリヤキバーガーヨ! そうデショ!」
ジェインにつられて中へ入ると、石像を抱えたガイが苦情を言った。
ジェインはトレイの置いてあるカウンターに手を伸ばし、それにかぶりついていた。
「イヤ……食事をするなら『いただきます』ぐらい言ってから、それからみんなでいただきましょうよっ」
食前の挨拶をしないジェインにガイは絶句し――なぐさめるように、シャオメイからさし出されたマーボーナスをそしゃくして――さらに絶句した。
シャオメイの食べているラーメンを見ると、彼女はガイの方を見て……にっこり。
「ラーメン、好きアルよ」
「すみません――自分、間違え……っ」
シャオメイはのびきったラーメンをおいしそうにすすり、うなった。
「とんこつのこってり感としょうゆのあっさり感は最高アルねー!」
冷たくなったマーボーナスをガイは残した。
ジェインのテリヤキバーガーと、冷めきったラーメン、マーボーナス。
それらは彼らがコールドスリープから目ざめた時に、一番初めに食べたいものとして、あらかじめバンク施設に登録しておいたもの。
予定では彼らはもっと早くこの食堂にたちよるはずだった――そういうことだろう。
彼ら以外に生活音を立てる者は……ない――その施設は不気味に静まり返っていた。
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