閑話01 誰が一番?

 私の名はアデーレ、冒険者になるのを夢見て王都にやって来たけれど現実を知らなかった私は、悪い男に騙されそうになり娼婦に落とされかける寸前だった。偶然にも戦乙女クランのメンバーに助けてもらって、今は私もその一員になれたという過去があった。


 助けてもらった縁を大事にして、戦乙女クランで活躍できるように冒険者として日々活動をしながら自分を鍛えて、今ではそこそこの実力を手に入れることが出来ていると思う。そんな私の最近の楽しみは、仲間の皆と戦乙女のメンバーについて話し合うことだった。


「やっぱり、一番はレオノール様だと思うわ」


 戦乙女クランに所属するメンバーの中で、彼女にしてもらうなら誰が一番だろうかという話し合い。先輩の1人である彼女は、もっとも心酔しているクランマスターの名前を挙げた。


 戦乙女クランを立ち上げた偉大な人で、戦乙女クランが王都三大クランと呼ばれるほどに大きな組織になるまで、皆を率いてきたカリスマ性は本当に凄いと思う。容姿も凄く美人で、常に冷静さを保って物事を対処しているので慌てた姿なんか見た事がない。あの人の為なら、死ぬまでついて行こうと思えるような人だった。


「ケチを付けるつもりじゃないけれど、レオノール様は完璧すぎて近寄り難いというか、遠くから眺める事しか出来ないと思うなぁ」


 別の先輩が対抗する意見を発言する。確かにレオノール様は、完璧すぎて畏れ多く感じるから、気安く近づきにくいという意見には賛成だった。完璧故に、近寄り難いという気持ちはよく理解できる。私なんかが好きだと言うのもおこがましい、というような気持ち。


「それじゃあ、親しみやすさで言うとティナ様とかは?」

「どちらかというと、彼女と言うよりも友達っぽいかな」


 同年代の仲間である1人が、ティナ様の名前を挙げた。確かにレオノール様と比べたら圧倒的に親しみやすいし明るく元気で人懐っこい人だ。クランメンバーの中でも飛び抜けた実力があるのに自惚れることはなく、とても親切な人でもあった。でも、と誰かが反論をした友達っぽいというイメージが確かにあった。好きな人だけれど、友達として好き。友達止まりで、恋愛感情には発展しなさそうなイメージ。


「頼り甲斐があって、親しみやすさもあるって言うと新人のエレーナは?」

「うん、一番条件に合っていると思う」


 エレーナの名前が挙がった瞬間、賛同する声が多数上がった。つい最近になって、戦乙女クランに入団することになった新人。徐々に実力が評価されてきてクランの中でも評判になっている彼女。男に負けないほどの、いや、男と勝負をしても明らかに勝っているだろう身長の高さと鍛えられた筋肉は、頼り甲斐があると感じる部分だった。彼女にしてもらいたい、と思える有力候補だった。


「じゃあ逆に、クラリス様とか!」

「うーん」「あー」「えっーと」


「えっ!? 皆、クラリス様はダメ?」


 クラリス様の名前が挙がると、皆は一斉に反応に困るというような感じの声を上げていた。メガネの似合う美人だし真面目な性格で頼りになる人だけど、ただ……。


「真面目過ぎる、と言うか仕事が一番って感じがしてね。プライベートでも厳しそうなのが、ちょっと」

「その厳しさが良いのに……」


 皆がクラリス様の厳しい性格に遠慮気味な中、その性格が魅力なのにと主張する人も居る。


「じゃあ、癒やしを求めてソニア様という選択?」


 ソニア様は、いつもクランの食堂で美味しい料理を作ってくれている人。あの人となら、毎日一緒に過ごし癒やしを得られて、充実した冒険者生活を送れること間違いなしだと思う。


「でもソニア様はお母さん、って感じだから」

「なるほどね」

「それもある」


 ソニア様がお母さんっぽいという意見は満場一致していて、彼女にしてもらいたいと思う候補からは外されてしまった。


 皆があーでもないこーでもないと話し合っている中、私は満を持してある人の名前を挙げてみる。


「ギル様は、どうでしょうか?」


「「「あー」」」

「「「うーん」」」


 私の挙げた意見に賛同する人と、納得出来ないという感じの声を上げる人の半々に別れていた。


「ギル様は、やっぱり可愛い系? だから違うと思う」

「でも、やる時はやる人だから頼りになるよ?」

「あの可愛さは守ってもらう、と言うよりも守ってあげたいって感じるのよね」

「でも、実力は私達じゃ絶対に敵わないぐらいだからなぁ」


 喧々諤々とギル様に関しての意見が交わされる。やはり、見た目の可愛さと実力の凄さによって意見が別れているようだった。


 そんな議論が行われている状況の中で私は、今回の議題である彼女にしてほしいと思うクランメンバーは誰という選択で、一番なのはギル様だと思っていた。


 というのも、私が悪い男に騙されそうになっていた時に助けてもらった、というのがギル様だったから。戦乙女クランに入団するキッカケとなった人であり、今でも私が夢中になっている人だったから。


 その後も話し合いは続き、色々と意見が交わされてクランメンバーの中で誰が一番かという順位付けが行われるのだった。私は自分の持っている意見を一切変えること無く、熱狂的なぐらいにギル様を一番に推していった。

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