第7話 女のくせに
レオノールが戦乙女というクランを立ち上げたのは、女性の地位を向上させる為にという目的があった。そして男性の力を借りることなく、女性だけでも生きていける手助けが出来るような組織を作りたい。という考えを持っていると僕は彼女から直接説明されていた。
昔から、女性のみという冒険者パーティーというのは存在していたらしいけれど、異端で珍しいと言われるぐらいに稀だった。基本的に男性と比べて女性は体力や筋力が劣っているから、戦闘に不向きだと言われていたから。女性だけで集まっているのも珍しいから色々な出来事で標的にされやすく、自衛できず周りから向けられる悪意によって女性パーティーは崩壊させられてきたという。当然、女性のみ男性は入団を拒否するというようなギルドは存在していなかった。
そんな状況の中、レオノールというカリスマ性を持っている女性が新たなクランを立ち上げた。能力も飛び抜けていた彼女が先頭に立ち、女性だけが入団できる特別なクランを。
戦乙女と名付けられたクランを立ち上げた当初は、周りから色々と言われて批判的な意見も多かった。だが、レオノールと立ち上げに関わったメンバーたちは折れる事も無く、活動を続けていった。
「言いたいやつには言わせておけばいい」
レオノールはそう言って、周囲の意見は気にも留めずに戦乙女クランの運営を続けた。冒険者ギルドから依頼される仕事を確実に達成していって、多くの実績を積んでいった。
徐々に戦乙女クランは評判を上げていくと、能力の高い女性冒険者達が噂を聞いてクランへの入団希望で訪ねてくるようになった。
そして今では、戦乙女というクランは王都でも名の知れた女性冒険者集団となっていた。数あるクランの中でも、一番多くの実績を積んでいて優れた結果を残しているクランとして知られている。
それなのに、この世の中には凝り固まった思考で女性冒険者の集団だというだけで批判する連中は、まだまだ多く居た。
***
「また、この場に相応しくないクランが重要な会議の席についているぞ」
「女のくせに生意気そうに席に座りやがって、まったく恥を知れ」
「……」
僕とレオノールは今、冒険者ギルドの建物の中にある会議室に来ていた。今日は、定期的に行われている冒険者ギルドのクラン会合の場。僕らの他にも、多数のクランマスターと副マスターを務めている冒険者達が集まって、各々で雑談をしていた。
多くのクランマスターと冒険者達が部屋の中に集まっている状況の中、小声で誹謗中傷をしてきたのはフレーダーマウスという集団のクランマスターをしている男と、ドラゴンバスターのクランマスターをしている男たちだった。
二人で顔を近づけて、小声で話し合っているのが僕の耳にはバッチリと聞こえていた。というか、会議室の中に居る他の皆にも聞こえてしまうような小声。
彼らは、会合の席に座っているクランマスターのレオノールに忌々しそうな視線を向けて、誹謗するような言葉を口にしていた。
嫌味を言っているクランマスターは、既に50歳も超えているような経験豊富なベテラン冒険者。そんな歳になってもまだ人を馬鹿にする態度をとってくる奴らに呆れてしまう。そんな人物をクランマスターに据えているメンバーも、馬鹿なんじゃないだろうかと、内心で思っていた。
彼らは、小声で”女のくせに”と悪口を言っている。この部屋の中には、レオノール以外に女性は居なかった。ということは、明らかに彼女を指して中傷している言葉だった。
……いや、周りから見れば性別を偽装している僕も女性だと思われているのだから、僕を指した言葉なのかもしれないけれど。
でも僕は今、戦乙女クランの副マスターとしてレオノールが座っている席の後ろに控えるよう立っているので、席に着きやがって、という男が口にした言葉には当てはまらないだろう。やはり、彼らのターゲットはレオノールのようだった。
レオノールや戦乙女クランのメンバーを傷つけるような言葉を口にする無礼な奴らに僕は少しムッとして、誹謗中傷してくる彼らに言い返してやろうとした直前、彼女に止められた。
「ギル、怒る必要はないぞ。駄犬が無駄吠えしているだけなんだから。我々はただ、結果を示せば良いだけだよ」
不敵に笑みを浮かべて前を向いたまま、堂々とした態度で言い放ったレオノール。僕に向けた言葉ではあったものの、大きな声でその場にいる全員にも聞こえるほどのボリュームだった。明らかな挑発行為だった。
「駄犬だと! き、貴様は我らを愚弄する気か?」
「愚弄ですって? 駄犬が吠えていると言っただけですが」
「フッ、我らフレーダーマウスとドラゴンバスターの二大クラン、その歴史と実績を知らぬようだな」
「ならば、冒険者らしく腕くらべでもしましょうか? 生死は問わない真剣勝負を。周囲に実力を示すことが出来るでしょう。さぁどうします? 皆に駄犬ではない、という事を証明して見せて下さいな」
簡単な挑発に乗ってきた彼らを、心底バカにしたような口調で勝負を挑もうとするレオノール。もちろん彼女は少しも負けるつもりは無く、相手を返り討ちにして殺すつもりの真剣勝負を望んでいた。
「ぐっ……」
「……」
彼女の本気度を悟ったのだろうか、ベテラン冒険者らしく危険察知能力はそれなりに備わっていたのだろう、レオノールの挑発に対して口を閉じて視線を逸した彼らはもう何も言わなかった。毎回同じように絡んできて、同じように引き下がるのだから学習して突っかかってくるのは止めたらいいのにと僕は思う。
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