第8話 会議を始めます

「「「「「……」」」」」


 クラン同士の会議が始まる前から、室内の雰囲気は最悪と言っていい状況だった。突っ掛かってきた、フレーダーマウスとドラゴンバスターのクランマスターを務める男性たちを返り討ちに挑発をして黙らせたレオノール。その後、黙りこくった二人と同じ様にその場にいる他のクランマスターまでもが口を閉じて、室内は静まり返っていた。


 なぜなら僕達の戦乙女、フレーダーマウス、ドラゴンバスターという三つのクランは王都でも三大と呼ばれるぐらいに代表的になっているクランだったから。


 その場には、他のクランマスター達や副マスター達がいたけれども、トップ同士の面倒事に巻き込まれるのは御免だからと考え、レオノール達の争いには不介入というスタンスを取っているようだった。


 口を閉じたまま傍から様子を眺めるだけの者、争い合うのを面白そうに眺める者、鬱陶しそう迷惑だという感じで表情を不快げに眉をひそめたりする者、レオノールを睨んでいて、口には出さないが女の方が悪いと女性蔑視で見ている者も居たりする。


 おそらく、最近好調が続いている戦乙女に対する嫉妬もあるのだろう。レオノールに批判的な目を向ける者が多数いるみたいで、フレーダーマウスとドラゴンバスターのクランマスター二人には、そんな目を向ける者は少ないようだ。


 荒くれ者と呼ばれる事の多い冒険者らしく、争い合う様子を単純に面白がって見ている者たちも多かったようだったが。


「あー、いや、申し訳ない、遅れてしまいましたな」


 すっかり静かになった会議室の中に、空気を読まず脳天気な声を上げて中年の男が頭を下げて謝りながら入室してきた。先程まで感じていた刺すような緊張感が一気に変わって、室内はお気楽なムードになっていた。


 部屋に入ってきた男性のはベルントという名前で、今回のようにクランマスターを集めて定期的に会合を開くようにと冒険者ギルドに要請した人であった。


 そんなベルントの見た目というのが、既に40歳を超えている中年男性そのものであり、日頃から苦労人というような疲れた雰囲気を漂わせている、自信が無さそうに常に謝りっぱなしで、いつも腰を低くしているような人だった。


 けれども、そんな見た目だけで判断して油断するのはマズそうな人だった。その男は、この国の中心である王城で働いている結構地位の高い役職に就いている、偉い人だった。見た目通り、ただの無能では無いのだろうと僕は感じていた。


「では、早速会議を始めさせてもらいますね」


 ベルントはいつものように落ち着き無くおどおどした態度だったけれども、会議室の中に多数居るクランマスター達の視線に晒されながら会議の進行役を務めていて、しっかりと話し合いを開始させていた。




「皆さんもご存知の通り、最近この国ではモンスターの異常な変化、突然変異が多発しておりますよね」


 確かに最近、冒険者ギルドから受ける依頼の中に突然変異したモンスターの討伐が多くなってきたような気がしていた。なるほど、それに関する話かと議題に挙がった内容を聞いて僕は納得する。


「王都の付近だけでなく、王国各地からも多数報告が上がってきているので、冒険者の皆様にはぜひ解決の手伝いをお願いしたく、今回の議題に挙げました」


 額に流れる汗を拭いながら、深刻そうな表情を浮かべてそう語るベルント。


 モンスターの突然変異が多発している現象というのは、王国でも非常事態だとみなされているらしい。そして今回の会合に集まった各クランにも手伝いを要請してきたということは、かなり切迫した、対処に急を要する事態らしい。


 つまりこれは王国から直々の依頼というわけだから、解決の為に動いて貢献できたならクランの名を上げる大きなチャンスでもあるという事か。


「モンスターの突然変異についての問題は、私共のドラゴンバスタークランにお任せ下さい」

「同じく、フレーダーマウスも問題を解決する為に協力します」

「……」


 先ほど突っかかってきた、ドラゴンバスターとフレーダーマウスのクランマスター二人の男たちが勢いよく名乗りを上げていた。レオノールだけ、腕を組み口を閉じて黙ったまま前を見据えている。


「おぉ! 王都三大クランと呼ばれている内の二つ、ドラゴンバスターとフレーダーマウスが問題解決に乗り出してくれると言うのならば、安心ですね!」


 ベルントは既に問題は解決した、というぐらいに表情を明るくさせ嬉しそうに喜ぶ声を上げていた。確かに、実力はある二つのクランが問題解決のために手伝いを申し出たのだから期待しているのだろう。


 ただ彼らクランマスターは、王国の為に志願した、というような感じでは無いようだなと、様子を見ていた僕は少し不安だったが。


 そして、戦乙女のクランマスターであるレオノールは沈黙を続けていて、今回の件には関わる気が全く無いようだった。僕は、そんな彼女の判断に従うだけだ。

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