第9話 ぜひご協力して頂きたい
会議前の挑発に対する報復というような感じで、当て付けるように手助けを立候補したフレーダーマウス、ドラゴンバスター、二つのクラン。それに対して、戦乙女のクランマスターであるレオノールは口を閉じて事態を静観していた。
「最近のモンスターの突然変異について、現時点で判明している事を皆さんにも情報共有しておきますね」
そう言って、ベルントは王国の調査部隊により判明したというモンスター突然変異に関する情報を開示してくれた。会議室に居る皆が、熱心に彼の話す情報を聞き逃さないように黙って集中していた。
どのような突然変異が起こっているのか、各地でどのくらいの数が増加していて、どの地域で主に発生しているのか、等など重要そうな情報をその場に集まっている皆に惜しげなく共有していく。
森の奥やダンジョンに生息しているようなモンスターが、突然変異したことにより姿形が変わったり巨大化するという事は、たまにある出来事だった。しかし、最近は頻繁だと感じるくらい依頼が集まってきていた。どうやら、地方の被害は甚大で迅速に対処しなければ、さらに大きな問題に発展しそうな感じだった。
しかし何故、最近になってモンスター突然変異が増えたのだろうか。疑問に思っていると、ベルントが原因についての予想を教えてくれた。
「実は過去にも、今回と同じ様にモンスターの突然変異が増加するという現象が歴史に記録されていました。その歴史書に突然変異が増えたのは、魔核による影響だったと書き記されているんです」
「魔核?」
聞き馴染みのない言葉だったけれども、そんな魔核という物が原因だという。確か魔核というのは、鉱物のように地中に埋まっていたりする存在するだけで環境や生物に悪影響を及ぼす、というような物質だったと何かの本で読んだ覚えがある。
うっすらとした記憶で、確かではないが。
ベルントは懐から大きな麻袋を出してきて、中から布にくるまった何かを取り出して皆の目の前に置いた。そして厳重に封印されていたソレを何十回も解いていくと、ようやく小指の爪ぐらいな大きさの紫色をした石ころが出てきた。見た目は、凄く禍々しい感じがする。ベルントも、取り出すときは手袋を装着して素手では触らないように注意しているみたいだ。本当に危なそうな物質だった。
「これが魔核です。今現在、王国内で起こっているモンスター突然変異も魔核という物質が引き起こしている現象だろうと我々は結論付けました。皆さんには、まず突然変異の原因になっていると思われる、魔核を見つけ出して頂きたい」
単純に各地で発生した突然変異のモンスター駆除だけではなく、増加している突然変異の原因まで解決するのが今回の依頼、という事なのだろう。
「この通り、魔核は非常に小さいので見つけ出すのも困難だと思われます。捜索するのに多くの人員が必要になるでしょう。だから、そのぉ……、フレーダーマウスと、ドラゴンバスター、二つのクランだけでなくギルドに所属している冒険者全員、一丸となり協力して今回の依頼解決に挑んでもらいたいのです」
「なんだと! 我々だけでは不満、という事か?」
ベルントの言葉に、声を荒げて指摘するドラゴンバスターのクランマスター、横に座るフレーダーマウスのクランマスターも不満顔を浮かべている。
「いえいえ、不満だなんてそんな事は有りませんよ! フレーダーマウスクランに、ドラゴンバスタークランからの協力を得られるのは我々としても非常に助かります」
クランマスター達から詰められているベルントは必死に言葉を選びながら、言いにくそうにしつつ対処していた。傍から見ていて、彼らの相手は厄介だろうなと思う。
「ただ、その……。今回は速やかに問題を片付けたく、他のクランに所属する皆様もぜひ今回の事件解決ご協力をして頂きたい。それから、戦乙女クランの皆様のお力をお借りできれば幸いなのですが」
その場に集まっている、その他のクランにも必死に協力を求めていた。と言うか、戦乙女クランは名指しで協力を求められていた。
「申し訳ないが戦乙女は現在、早急に対処しなければならない依頼を多数抱えているので、今回の件については手助けする事はできそうにない」
だがレオノールはそう言って、王国からの要請をやんわりと拒否するのだった。
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