第10話 私達は、何時も通りに

 ベルントが現在の王国内で多発しているというモンスター突然変異についての話をしてから、あらかたの情報を周知された後。クラン会合は解散となった。


 魔核という名の物質、モンスター突然変異の原因だと思われているソレを発見して破壊し、調査した結果を報告したクランには報奨金が与えられるという。更に、魔核を王国に持ち帰ることが出来たなら、報酬が上乗せられるという依頼内容。


 王国が依頼達成の報奨金として提示した金額は、結構な大金だった。羽振りの良いことに、最上級S級ランクと言われているモンスターを一体討伐した時に受け取れる報酬と比べてみて同程度の金額であった。小粒の鉱石を持ち帰るだけで、その報酬額を受け取れるというのは破格だと思う。通常の依頼ではなかなか、到達し得ない金額だった。


 会合が終わるとすぐに、そそくさと会議室から去っていったベルント。他のクランマスター達も、それぞれに付いている副マスターと一緒に部屋を出ていったり、会合の内容について確認したり、話し合ったりしている。


 僕とレオノールは、さっさと会議室を出ていく連中の一組だった。そして、会合が行われていた会議室のある冒険者ギルドの建物から出てくると、僕と彼女の二人きりになって戦乙女クランの拠点へと帰っていた。その道中、歩きながら先ほど聞かされた内容について話し合う。


「どうするの? 依頼は受けなかったみたいだけど、魔核は探す?」

「いいや、今回の件は関わるのを止めておこう」


 魔核を探すのかどうか、クランマスターであるレオノールの方針について僕は尋ねてみた。モンスターの突然変異によって各地では被害が出ている。王国からの依頼は受けなかったけれど、困っている人が居るから戦乙女クランは独自で動いて対処するのだろうかと予想していたけれど、違うようだった。


 レオノールは、即答で関与しないでおこうという考えを口にした。彼女の中では、既に方針が決定済みのようだった。


「どうして? 報奨金とか結構貰えるようだったから、探してみるのもアリかと思うけど」


 やはり依頼の達成報酬は大きい。あれだけの大金を貰えるなら、多少は苦労しても魔核を探してみたほうが良いと僕は思ったので意見してみた。


「なんだか今回の件については関わると、面倒な事になりそうな予感があるからな」

「なるほど、分かった。今回の件は、絶対に関わるのを止めておこう」


 歩いている最中に腕を組みながら少し考える素振りを見せるレオノールが、口に出した答えを聞いて、僕はすぐに納得して彼女の方針に従うことにした。今まで何度も彼女の勘に従って動いた時に、色々とうまくいった経験があったから。


 レオノールの勘に従えば、間違いはない。


「一応、王国からの依頼だから適当に他のクランを支援して取り組んでる姿勢だけは見せておこうか。後は、誰かが見つけて処理するのを期待して解決するのを応援するとしよう。私達は、いつも通りにギルドから送られてくる通常の依頼をこなすだけでいい」

「そうだね、そうしよう」


 王国からの依頼を受ける事は断ったけれども、他のクランをフォローして協力する姿勢は見せておこう。クランのトップであるレオノールは、早々に意思決定して進むべき方針を固めていく。そういう判断の早い所にカリスマ性が有るんだろうなぁ、と僕は考えていた。自分とは違う彼女の判断力の速さに、憧れすら感じる。


 彼女のような判断力の速さや意志の強さが僕にあれば、早々に戦乙女クランからも脱退できていたのだろうか。


「だから今回は、あの二大クランの活躍に期待しようじゃないか」


 あの二大クランとは、先ほどのクラン会合が始まる前や、会合の最中に色々と言ってきたりした、フレーダーマウスとドラゴンバスター、二つのクランの事だろう。


「皮肉だよね、それ」

「まぁな」


 会合中は冷静に振る舞っていたレオノールも、意外とあの二人に苛ついていたようだった。

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