第20話 凛々しい名前だね
王国から助っ人として派遣されてくるという勇者パーティーについて、まずは彼等と面会することになった。場所は王城に場所を借りて、戦乙女クランの拠点内部には招かなかった。男子禁制である戦乙女クランの拠点は男性の立ち入りも禁止しているので、よほどの理由がない限り拠点内部には呼ぶことはなかった。
そして今回、よほどの理由だとは考えなかったので、王城にわざわざ場所を借りて会うことになった。
それと王国からの急な話について事情を確認する為にも、今回の助っ人を寄越してくる事になった経緯について関係者に詳しく話を聞く為にも、僕らの方からを訪ねて行く事にしたのだった。
「初めまして、戦乙女クラン代表代理のギルです。よろしくおねがいします」
会見の約束をしていた時間。王城の中にある一室に入り挨拶をした僕を、じーっと見つめてくる長身でイケメンの男性。年は20歳になったばかりぐらいだろう、まだ若そうな見た目をした青年が居た。どうやら、彼が勇者と呼ばれている人物だろうと思う。今はラフな格好をしていて、武装もしていなかった。
「彼女はクラリス。戦乙女クランのメンバーです」
「初めまして」
僕の紹介に合わせて、頭を下げて礼儀正しく挨拶をするクラリス。話し合いの場に同行してくれた彼女の紹介をしたのだが、目の前の青年はチラリと目線を送った後、またすぐ僕に視線を向けてきて、じっと見てきた。
そんな彼の側に、3人の見目麗しい女性たちが寄り添っていた。一緒に組んでいるパーティーの仲間達なのだろう。あんなに綺麗な女性を3人も引き連れているとは、なんて勇者に対して嫉妬心を抱いている僕がいた。男らしくて長身で、しかも顔までかっこいいとは。羨ましい限りだった。
「僕の名はアラン。よろしく、ギルちゃん」
「は、はぁ……」
相手の観察を続けていると、自分の名前を名乗って握手を求めるように僕の目の前に手を差し出してきた。なんだか、とても馴れ馴れしい感じだ。とはいえ、王国から助っ人として紹介された人物だし無下には出来ないか。
正直言って、こんなにイケメンでモテモテそうな奴とは、宜しくとはしたく無い。だが、これから一緒に仕事をする仲間となるかも知れないし。代理とはいえ、戦乙女クランの代表でもあるので、愛想をよくしておかないといけないか。そう思って営業スマイルを浮かべて彼の差し出した握手に応じる。
「よろしくおねがいします」
「ギル。可憐な見た目とは反対の、凛々しい名前だね」
「っ!?」
普通の女性ならば可憐だと言われたら嬉しいんだろうけれども、性別が男である僕にとっては何にも響かないアランの言葉を受け流す。というか、さっさと握った手を離して欲しい。
僕の方から握手した手を離そうと試みるが、手はキツく握られていた。振り払うのもなんなので、僕は強引に手をパーに開いて離してくれと示す。すると、彼は何かを確かめるようにギュッと僕の手を握った後、ようやく手を離してくれた。
異様に長い時間、握手をしていた。
もしかして、手を握った時に何か気付かれたのかと思った。けれども、手を離した後も彼は何も言わず。それに長年女性のフリをし続けてきた僕には、初見の人に男性だとはバレないでいる自信があった。目の前に立って、手まで握ったアランもまさか僕が男性であるとは気付かずに、女性だと思ってくれているだろう。
色々なことがあって少し焦りつつも、挨拶を終えて会話を続ける。
「その人たちは、アランさんの仲間ですか?」
彼の側近くに立っている女性達が何者なのか、僕は尋ねた。すると、アランは仲間だと紹介してくれた。
「コッチに居るのがタチアナにメラニー、それとコラという名前の僕の仲間達だよ。ほら皆、しっかりと挨拶して」
「こんにちは」
「よろしくおねがいします」
「どうも」
アランは自分の仲間である女性達に対して、子供に言い聞かせるような優しい口調で自己紹介を促していた。
僕に向けて挨拶をしてきた女性3人の表情は、どうも不愉快だという感じだった。発する言葉も態度も適当だった。どうやら僕の事をあまり良くは思っていないようで、友好的ではない感じ。雰囲気も刺々しいような気がする。
別に仲良くする必要も無いので、僕も彼女達とは仕事上の関係だと割り切り簡単な対応で済ませようと思った。
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