第18話 私も辞める

「それなら、私も辞めるよ」

「は?」


 今回の依頼によって、僕が男性である事がバレる可能性が高まるだろう。だから、危険を避けるために、それから何よりもレオノールに面倒をかけないためにもクランの脱退を申し出たら、なんとレオノールまで辞めると言い出した。


「いやいや、チョット待って。本気?」

「もちろん」


 力強く頷いて、肯定する。彼女の浮かべる表情に冗談という感情は無かった。真剣そのものだった。


「戦乙女クランを立ち上げたのは、叶えたい夢があるからって言っていただろう? それを簡単に辞めるなんて言って」

「もう叶えたい夢は十分に達成した。後はもう、後輩達も育ってきたから彼女たちに戦乙女を任せても大丈夫だろう」


 彼女は本気のようだった。本気で、戦乙女クランのマスターを辞めるつもりのようだった。


「ギルが戦乙女を出て行くんなら、私も後をついていく為にクランを辞めるよ。一生貴方に付いていく」

「ちょ、ちょっと待って!?」


 レオノールの口にした言葉は、遠回しのプロポーズのような言葉だった。彼女は、僕を真っ直ぐ見据えながらそう言った。


 いつものクランマスターとして振る舞う凛々しい表情を浮かべているのだが、彼女は耳だけ真っ赤にさせていた。恥ずかしがっている事が丸わかりだった。こんな反応を見るのは初めてかもしれない。


 僕は彼女と長年一緒に居たけれど、普通の友達としてしか思われていないのでは、恋愛感情が無いのではないかと疑っていた。そもそも、レオノールは僕が男である事もちゃんと認識しているかどうか怪しい、と思えるぐらいだった。そう思ってしまうぐらい、今まで何も無かったから。


 そんな彼女が、今のような言葉を口に出して恥ずかしがっていた。僕の後を一生、追いかけると発言して。


 苦労しながら大切にして育ててきた組織である戦乙女クランを、後輩に渡してでもついてくるつもりで居るというほどの本気。


「……っ!?」


 正直に言って、彼女の言葉を聞いた僕は身体が熱くなるほど凄く嬉しいと思った。どう考えてみても、彼女が僕に対して好意を抱いている、という事が分かったから。今までレオノールが、恥ずかしがっている反応を見たことも無かったから、より一層そう思う。


 けれども、同時にマズイとも思う。今の戦乙女クランが成り立っていられるのは、レオノールという存在が持つカリスマによってだろうと僕は考えていた。他のクランメンバーに聞いても、そうだろうと答えると思う。それが突然、彼女が戦乙女クランを脱退すると言って去ってしまえば大混乱が起こるだろう。最悪の場合には、戦乙女クランは即日崩壊しそうだ。


 魔核という存在によって王国に大問題が起こっている今、王都の二大クランも解体されて残っている大手のクランは戦乙女だけ。そしてなによりも、レオノールの脱退する原因が僕だったとクランメンバー達に知られたら、性別が男であるとバレた場合よりも上回って僕は批難されるだろう。レオノールを追いかけて、クランメンバーの皆が追手になりそうだった。


「ごめん、そこまで言うのなら僕はクランを脱退しない。なんとか、皆にはバレないように今までの生活を続けるよ」

「……そうか、辞めないのか。よかった」


 戦乙女クランから脱退する、という言葉を僕は撤回した。ちょっとだけ残念そうな表情を浮かべるレオノール。

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