第5話 僕が先に仕掛ける

 今日の仕事は王都近辺に発生した厄介なモンスターの駆除だ。放置をしていると、旅人や商人が襲われて安全に通れない。そこで、国から冒険者ギルドに駆除の依頼が発行されて、その依頼が戦乙女クランに流れてきたという経緯。


 森の中に突然変異で巨大化したという、グランドワームという名前の大きなミミズのような、ウニョウニョとした形をしているモンスターが発生しているという。


 通常のグランドワームでも人間と同じぐらいの大きさがあるモンスターなのだが、今回の依頼ではその何十倍も大きくなっていると報告があった。


 戦乙女クランに依頼が流れてくる前、三組ぐらい他のクランに所属している冒険者パーティーが依頼を受けたけれど、駆除に失敗しているらしい。


 標的が大きくなりすぎていて表皮が鋼鉄のように固くなっているらしく、並の戦士ではダメージを与えられなかった。その結果、討伐に失敗したそうだ。


 戦乙女クランからは僕がリーダーとなって、何人かのクランメンバーを引き連れて標的の目撃情報があった森の中を進んで行く。すると早速、討伐目標であるグランドワームを発見することが出来た。身体が大きいから、見つけるのは簡単だった。


「皆、準備はいいかな?」


 僕は後ろについて来ていたクランメンバーの方に振り向いて、戦闘の準備は出来ているか確認を取る。もちろん、僕以外は全員が女性であるメンバーだ。


「はい」

「オッケーです」

「準備万端」

「行きましょう!」

「お願いします」


 森の奥深く、緑の景色が見える中に青い空との間から、ヒョコッと茶色い身が姿を見せていた。見上げるぐらいの大きさに、一面を覆うような身の長さがあるようだった。遠目で見ても、だいぶサイズが大きいだろうという事が分かった。報告で聞いていた通り、かなりのデカさだ。討伐するのに苦労しそう。


 まぁ発見することは出来たので、後は全力であの標的を討伐するだけ。


「エレーナ、僕が先に仕掛けるからタイミングを見て追撃をお願い。他の皆は、森に潜んでいるモンスターの奇襲に注意しながら、観察して戦い方を勉強してみて」

「わかりました」

「「「「はい!」」」」


 一緒に連れてきた、クランメンバーの中でも戦闘能力がナンバーワンである彼女。僕の身長と比べてみると、倍近くの身長差があるぐらいに背の高い女性。エレーナに後ろからの援護をお願いしておいて、まずは僕が先に1人で突っ込んでいく。


 他のメンバーは万が一の場合に備えて来てもらっただけで、戦闘に参加する予定はない。彼女たちには僕の戦い方を見せて、学んでもらうことが連れてきた一番の目的だった。何かあれば戦ってもらうので、戦う準備させておく。


 全員、用意ができたのを確認してから僕は飛び出していった。


「ハァッ!」


 僕もモンスターの奇襲に注意しながら、目の前にいる巨体なグランドワームの相手をする。あちこちに動いて、スピード重視でモンスターを手玉に取っていった。


「ッ! っと、やっぱり硬いな」


 一足飛びで近づいた勢いのまま、手に持ったロングソード、騎士が使用するような鉄剣で斬りつけて一撃を加えてみる。だが事前に聞いていた通り、グランドワームの硬い皮膚に阻まれて刃が思うように入っていかかない。これでは、ダメージを与えることは出来そうになかった。


 巨大化しているグランドワームは、その見た目からは想像つかないが意外と動きが早かった。そして大きい身をちょっと動かすだけで、体の重さにより何十本もの木がバリッバリッと一斉に倒されていった。辺りに大きな音を響かせている。あの巨大な身の下敷きになれば、ひとたまりもないだろう。


 踏み潰されないように動き回って、何度も攻撃を繰り返してグランドワームを翻弄する。そうしている内に獲物である奴の視線がギロッと、僕の方に向いている事が分かった。グランドワームに攻撃して注意を引く、という目的は達成。


「ウォォリャ!」


 後ろで攻撃の機会を伺っていたエレーナが、一気に接近して大斧を振り下ろした。僕に注目していたグランドワームの意識外から、致命傷となる一撃になるだろう。


「ギグギャアッッ!?」


 グランドワームが、悲鳴のような音を口から出していた。


 巨大女として世間では有名になっているエレーナの代名詞、本来は両手で使う用の大きな斧を片手で、彼女が力の限り全力で振り回していると、硬化していたグランドワームの皮膚でも阻むことは出来なかったらしい。


 大斧の刃がグシャッとグランドワームの身の半ばまで食い込んで、破れた皮膚から大量の血が流れ出ていた。


「エレーナ、ありがとう! 一旦離脱して!」

「はい!」


 エレーナが僕の指示に従って、グランドワームの側から離れる。エレーナの与えた傷跡の上から攻撃を重ねて、傷口を広げてダメージを与えていく。そうして、獲物から離れる。


 攻撃を受けて血を流し、身をよじっている巨体に巻き込まれないように一旦離れて様子を見るためだ。近くにいると踏み潰されそうだから暴れいてるモンスターの体力が無くなり、落ち着いてからが勝負。


「あれで大分弱ったから、後は簡単かな」

「お疲れ様です」


 今回の戦いで、標的に致命傷を与えるという一番の手柄を立てたエレーナが、大斧を肩に担いで近寄ってきた。いつもの無表情が、今は少しだけ微笑んでいて嬉しそうだった。

 

「うん、エレーナもお疲れ様だよ。援護ありがとう」

「はい」


 遠くから敵の様子を観察してみると、もう作業の大半が終わったと確信していた。あとは時間を掛けて、絶命するのを待つだけで簡単に終わり。少し早めに作業を終わせるために、攻撃を加えるのも良いかもしれない。


 予定していたよりも、だいぶ早く終わってしまったグランドワームの討伐。あとの処理や、依頼とは別のモンスターを探して討伐しに行く。今回の依頼の為に連れてきたメンバーの訓練をするのに森の中を探索するのはいいかも、色々と考えながら今日この後のスケジュールについて、頭の中で組み立てていった。

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