第7話 準備完了

 世界各地で、魔王による被害が出ていると報告を受けている。一刻も早く、勇者を魔王のもとへと連れて行く、そしてトドメを刺させる。その準備を急がなければならない。


 必要なのは魔王にトドメを刺す為の、勇者による最後の一撃だけ。幸いにも勇者達は今、文句も言わずに訓練を受けてくれている。そして、そろそろ訓練も終了で良いだろう。彼らの中から、旅に連れて行く2名を選び出す。


 1人は、召喚初日に王の言葉を受けて勇者達を鼓舞した青年を選んだ。魔王を倒す為に召喚された事をすぐに受け入れて、他の勇者達も言葉を掛けて皆を巻き込んで我々の都合がいい感じでスムーズに事を運んでくれた彼だ。


 彼の果敢な性格を表すかのように、訓練も真面目に受けて勇者達の中で一番に能力が高い者になるまで成長していった。その結果、旅に同行することを最初に決めた。彼なら、魔王にとどめを刺してくれるだろうと信じて。


 そしてもう1人は、少し前に僕の部屋を訪れて僕が仁音だと正体を突きつけてきた彼女。2人目の彼女は万が一の予備として連れて行くのだが、実は魔物に対して容赦のない攻撃を見せる、攻撃する事への躊躇いの無さ、僕の部屋を1人で訪れて真実を暴こうとした度胸を評価して連れて行く事を決めた。一人目が失敗したなら、後始末を彼女に任せることになる。


 バイアトロル城に残す数十名の勇者達には、城に目掛けてやって来るかも知れない魔王の配下に備えて、フラヌツ王を守るための最後の盾として残していく。


 各地から集ってきた被害報告の情報を整理して、魔王の居場所を特定する。そして旅のルートを決定した。目的地の場所なら、急げば一週間で到着できるであろう距離だった。魔王のもとへ向かうまで馬を使い潰すつもりで一日中走らせて、スピードを上げて片道だけ進むのを想定して、帰り道は一切考慮しなければ一週間で到着できる距離。


 魔王の元にたどり着くまで、多く見積もっても10日でトドメを刺す所までは辿り着けるだろう。そして無事に魔王を倒すことが出来たなら、その時の帰りはゆっくり急がなくても大丈夫だから。


 勇者達を連れて旅に出て10日後には魔王を打倒して、それで世界の混乱は収まるはず。終わりが見えてきたように思える。ただ、最期まで油断は禁物だった。


 急ぐ旅の為に食料は必要最低限だけ携帯して、武器もそれぞれに使い慣れたモノを一つだけ選んで装備しておく。勇者2人は、訓練で習得した剣を腰から下げて武装をしていた。


 道中で遭遇するモンスター達は、同行する兵士たちが蹴散らしていく予定となっている。魔王に戦いを挑み弱らせるのは、僕の役目となっていた。勇者達が武器を使う状況となるのは最後の瞬間だけ、トドメを刺させる時に留めたいのだが、さてどうなるか。




「では、皆さん。行きましょう」

「「「「はい」」」」


 出発の号令をする。静かな声で返事をする兵士と勇者2名を引き連れて、王都から旅立つ。皆、馬に騎乗して準備は万端だった。目標は魔王討伐。


 魔王を打倒するためにと用意した手段は3つ、念には念を入れて用意した数々だ。このどれかの方法を使って魔王を倒す。


 1つは、僕が以前から研究を続けて用意をしていた対魔王用の魔法。効果は何度か実践で試してみて、今まで魔王を倒すまでには至っていない。改良を何度も行ってきたから、今度こそは。その結果を、ぜひ検証しておきたい。


 2つ目の方法が、言い伝えによって発覚した方法。当初の予定となっている勇者の手によってトドメを刺すやり方。勇者の称号を持つ者によって魔王にトドメを刺せるという言い伝えが本当ならば、今回は魔王との戦いで、倒しきれずに敗走という事にはならないだろう。


 そして3つ目の用意した手段が1つ目、2つ目の方法が失敗した場合に用意をしている最終手段。ずばり魔王を封印する、という方法だった。と言っても、コレは問題の先送りにしかならない方法であるし、成功率も低いので可能な限り使いたくない。まさに最終手段である。


 周到に用意しておき準備も万端にしておけば、心構えもバッチリだった。これだけ用意して、失敗してしまったとは言えない状況まで完璧に備える。実行するだけ。


 僕たちが対魔王戦の準備を万端にしてバイアトロル城を出発したのは、勇者召喚を行った日から、ちょうど一ヶ月が過ぎた頃ぐらいの事だった。

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