第6話 多事多端
僕は、もともと日本が有った異世界から転移をしてきた元日本人だった。そういう訳だから、この世界に来た当初は自分が居た世界に帰りたいとも思っていた。
元の世界に帰る為には色々と調べる必要があって、世界中を旅して情報を集めたりして、帰還の魔法について研究を重ねて、自分で生み出した新たな魔法の実験を繰り返し行い、数えるのが馬鹿らしくなるほどの数の失敗を重ねた。
その結果、召喚士として評判となり、僕の能力は歴史に名を残すと言われるぐらいには成長することが出来た。けれど、本来の目的である元の世界に戻るという方法は遂に見つける事が出来なかった。
帰還の魔法は、いくら研究を重ねても編み出せなかった。問題となったのは、どの世界から僕はやって来たのか、分からない事だった。元の世界がある位置が判明しなかった、と言うべきか。
自分の行きたい場所の名前は分かるけれど、どう行ったら辿り着けるのか、というのが分からない。
進むべき方向は? どれぐらい離れた場所にあるのか距離は? 道標が無いから、手当たり次第に探してみた時期もあったけれど、見つけることは出来なかった。
それなのに、今回の勇者召喚で異世界に住む日本人を召喚する事が出来た。偶然か必然か、今となっては分からないけれど呼び出すことに成功した。
この時に記録しておいた召喚の魔法の情報を解析することで、勇者達の住む世界がある位置を特定することが出来る。
世界の有る位置が分かれば、後は過去に研究してきた帰還魔法の成果を組み合わせ彼らを元の住む世界に戻す、という事が可能であった。それはつまり、僕も元の世界に戻れる方法を手に入れた。
ずっと求めて手に入れられなかった帰り道。20年越しに、ようやく見つける事が出来たんだけれど……。
「20年も経った今更になって、元の世界に帰る必要も感じないよなぁ」
それが、僕の出した結論だった。
***
フラヌツ王から雑に命じられて丸投げされていた、勇者達を元の世界に帰す準備が完了した。勇者召喚の時に行った魔法を解析して、元の世界の位置について調べる。その調査はとても大変で、凄く時間が掛かったけれど不可能な事ではなかった。
あとは、僕の生み出した帰還の魔法を使うことによって問題なく彼らを元の世界に帰すことが出来る。
帰還の魔法で勇者達を元の世界に帰すという準備を行っている合間に、勇者達には魔王を倒すための訓練を施していた。
しかし、僕たちが彼らに求めるのは魔王と戦って勝つ事ではなく、長旅に耐えうる体力を付けること、自分の身を守れる程度に戦闘力を身に着けてもらう事だった。
勇者の称号というモノが有るおかげなのか、少し訓練を受けただけで彼らは一気に戦闘力が成長していった。その御蔭で、もう旅に出ても問題ないと判断できるぐらいに準備が整ってきている。
後は、魔王が居る場所を目指す旅をする為の人員を選別して、旅の準備をするだけだ。魔王を倒すための勇者を最低1人。勇者に何か有った場合の備えとして、勇者をもう1人。旅に出る勇者2人を守るための護衛を何人か。旅の間の世話をしてもらう人員も何人か必要か。
当然僕も、彼らと一緒の旅に同行して魔王と戦う準備を進めている。結構な大所帯で魔王討伐の旅に行くことになりそうだった。最短で魔王の居場所に辿り着けるように、移動スピードを重視して持ち物は必要最低限だけ。武器や食料など、必要となるものを選り分けて用意しておかないと。
旅の準備を進めている隙間の時間で他にも、魔王を倒すための魔法の研究は続けて行っていた。勇者の称号が無くても、魔王を倒し切る方法が無いだろうか諦めず僕は調べ続けていた。前回の失敗を踏まえた、幾つかの仮説を立てて用意した新たな魔法の数々。
前回失敗した時とは違って、今回の旅では勇者の称号を持った者も居る。なので、魔王を倒すのは確実。けれど、僕の準備してきた魔法によって魔王を打ち倒せないか実験する為の準備も進めている。勇者が居なくても、今後は自分たちの力だけで対処出来るようにしておきたい。
城から抜け出していった勇者達3名の監視も続けて、実施していた。彼らの監視役として付けている部下たちからの報告によれば、楽しそうに3人組で旅を続けているらしい。
最近では冒険者ギルドに登録して、魔物を狩って依頼を達成し報酬を得て生活しているという。なかなか、異世界生活に馴染んで楽しんでいる様子だという。
勇者の称号によって、彼らも多少は戦闘が出来るぐらいに実践を重ねて成長していると報告を受けていた。少しの戦闘で成長できるなんて、羨ましいことだ。
そのまま彼らには、自由気ままに旅を続けて楽しんで欲しいと思う。この世界でも罪を犯さず、死にさえしなければ良い。後は、魔王を倒して元の世界に帰還する時に彼らは連れ戻せばいいだろう。
もしかしたら、この世界に馴染みすぎて残りたいと言い出すかも知れない。
……その時は、どうしよう? まぁ、その時は本人の意向に従えば良いだろうか。彼らが元の世界に戻るのか、異世界に留まるのか、どう判断するのか楽しみになってきた。
勇者達が元の世界へ帰還する為の魔法を用意して、勇者達には訓練を施し、魔王を倒すための旅に出る支度をして、それに加えて魔王を勇者の称号無しで倒せないのか新たな魔法や対策法も準備する。城から出ていった、勇者達3名の監視も続けて行っていた。
こうして僕は、生まれてきて一番だと言えるぐらいに、仕事で目が回るほど忙しい時期を経験した。
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