第8話 最終決戦
「え? もう到着したの?」
魔王討伐の旅に同行をしている勇者の一人である少女が、驚きながらそんな言葉を発した。バイアトロル城から旅立って、約5日目の今日。想定では、もう少し日数が掛かるだろうと予想をしていたけれど、ソレよりも早く到着していた。
「えぇ、魔王はもう近くに居るのを感じ取っています。一晩、ここで休んでから体力を回復して、万全の状態で戦いに臨みましょうか」
魔王が居る場所を探し出すのは、僕にとって簡単な仕事だった。ある程度、近づくことによって奴の禍々しい魔力を感じ取る事が出来るので、近づきさえすれば比較的楽に見つけることが可能だった。
あとは戦う準備を整えて、奴に挑むだけ。終わりが見えてきたけれど、倒すまでは油断はできない。万全の体制で臨むためにも、今日はココで休憩を取る。
僕たちが今いる場所は、森のように木々が生い茂っている森の中だった。魔物たちから姿を隠して、しばらく休んで行くのには都合のいい場所だろう。
旅に同行をして露払いを務めてくれた兵士達や、魔王にトドメを刺すために重要な働きを任せる勇者達の様子も確認しておく。
旅の道中には、目的地にいち早く到着する事だけに集中して馬を無理に走らせた。そのせいで何頭か馬を潰してしまったけれど、何とか最速と言える速さで目的地には到着する事が出来ていた。
周りの様子を見ている暇も無く急いだ旅だったが、魔王によって荒らされた土地の跡に残された悲惨さを目にしないで済んだのは、不幸中の幸いと言うべきか。
ここへ来るまでに5日間は無理をした強行軍である。そして何度かモンスターとの戦闘を繰り返して、兵士たちも疲労が溜まっているだろう。
優秀な兵士たちのおかげで、何度か遭遇をしたモンスターとの戦闘でも勇者2人は予定通り戦闘に参加させないで済んでいた。勇者達は、魔王に対する最後の切り札であり、トドメの一撃になり得る。勇者達には傷一つ無くココまで連れて来れたのは、予定通り最善の結果だった。
明日には魔王と実際に対峙してもらう。実際に奴と戦って弱らせるのは僕の役目で、最後のトドメだけ勇者にお願いするだけ。
「ようやく明日、魔王と戦うことになる。トドメは当初の予定通り、君に任せるぞ。指示の通りに動いてもらいたいが、大丈夫だろうか?」
勇者の少年に向かって、魔王にトドメを刺せるか問いかける。人の形をしていて、人語も理解するという魔王を、その腰に下げている武器で魔王にとどめを刺す一撃を加えることで、殺すという決意が出来るのかどうか。その最終確認を行った。
「……はい、大丈夫です。それで、多くの人の命が助かるのなら!」
僕が問いかけた青年は苦悩しながらも仕方ないと、人助けのためには必要な事だと割り切ろうとしている様子だった。
これは、もしかしたら本番直前になって躊躇うかもしれない。彼の動向に注意しておく必要があると、僕は、口に出さず感じていた事を脳裏に記憶しておく。
「君は、どうだい? 大丈夫そうか?」
そして今度は、少女の勇者の方にも僕は魔王にトドメを刺せるかどうか問いかけ、少年と同じように決意を確認してみる。
一応、青年の方がダメになった場合の保険として連れてきているんだと、彼女にはハッキリと説明してあるし、話を聞いていた彼女も納得して予備という事を受け入れている。そして、万が一の場合があれば魔王にトドメを刺す必要もある事を理解してもらいたい。そう思いながら、問いかけた。
「私なら、問題はないです」
少女の勇者の方は、僕の問いかけに対し躊躇いなくハッキリ大丈夫と言い切った。少年に比べると少女の戦う能力、肉体的な能力は低かったけれど精神的に勝っているようだった。迷う気持ちが無い様子は、頼もしい。
少年の方が魔王にトドメを刺すのを躊躇って計画がダメになった場合には、すぐさま彼女に任せればいいだろう。予備として連れてきていた勇者の少女に、魔王討伐の為の重点を置いておく。
この旅の最終目的は、魔王を倒して世界に平和をもたらす事だけだ。少年の勇者が魔王にトドメを刺そうが、少女の勇者が奴にトドメを刺そうが、どちらでも結果には変わりがない。結果に変化なんて無いのだから、すぐに判断してどちらに任せるべきかは考えておこう。
魔王戦を目前にした、最後の休憩になるのだろう今日。僕と兵士達数十名、勇者が2人。全員が、明日の戦いに臨む準備を整えていく。
***
翌朝になって最後となる休憩が終わって、皆の体力も無事に回復していた。戦いに臨む準備は万端で、あとは魔王と戦うだけという状況。
「さぁ、行こうか」
僕の号令で、再び移動を開始した兵士達。後ろに付いて歩いてくる勇者2人。昨日から探知している禍々しい魔力の在り処を目指して、ここからは注意して慎重に歩き進んで行った。
山間部にあった、開けたような平らな場所に到着する僕達。そこで僕は足を止めた。後ろに付いて歩いていた兵士たちも同様に足を止めて、辺りへの警戒を強めた。
勇者2人も、腰に下げている剣に手を伸ばした。不穏な空気を感じ取って、訓練で鍛えてきた能力で、周りを警戒している。
「再び相見えるか、愚かなる人間よ」
そして、魔王が僕たちの目の前に姿を現した。
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