第3話 戦闘訓練

「皆様、お疲れ様でした。これから皆様に生活してもらうために用意した部屋に案内します。今日からそこで自由に寝泊まりをして下さい」


 王様との謁見が終わると、紹介された勇者達がこれから生活するためにと用意した部屋へと案内することになった。


 まさか数十人もの大人数が召喚されるとは想定していなかった為に、急遽用意した部屋である。だが城の中は意外と開いている部屋があったので急いで女中に準備させることで、なんとか対応することは出来ていた。



***



「おはようございます皆さん。早速ですが、魔王討伐のための戦闘訓練に入ります」


「「「はい」」」

「「「……」」」


 翌日から早速、勇者たちを城の訓練場へと連れ出して魔王を討ち果たすための訓練に入った。まずは彼らの能力がどれくらいなのか調べるため、一人ひとりに剣を振らせてみたり、魔法の使い方を教えてすぐに実践してもらおうと訓練のスケジュールを立てていた。


 素直に指示を聞いてくれる勇者達と、僕を疑っている様子で無言の返事で警戒心を強めているという姿勢を見せる勇者達。2つのグループに分かれている。だが、僕はどちらにも特に指摘すること無く訓練を淡々と進める。


 言い伝えによると、勇者という称号を持つ人間だけが唯一魔王を倒しうる可能性を持っているという他に、神から授けられた特別な能力によって普通の人間とは比べ物にならないぐらい強大な力を持っていると言われていた。


 一つ懸念だったのは、本来なら1人の勇者だけ召喚することを目的とした召喚魔法陣だったはずなのに、現れたのは数十人の勇者の称号を持った者達。もしかしたら、勇者としての力が人数の分だけ分散したのではないか、と危惧していた。それも今から調べようと思う。


「まずは、あそこにある剣の中から好きなのを選び、手にとって適当に振って見せてください」


 今まで、本物の刃がついたロングソードなんて手に持った経験がない者達ばかりなのだろう。恐る恐ると言った感じで並べられていたソードを手に持ち始める。


 しかし、ロングソードを振り始めると様子は一転して、初めてとは思えないような慣れた手付きで剣を振り始めて、勇者達は危なげもなく剣を取り扱うことに何の問題があるようには見えなかった。すぐ実戦に出ていっても、戦えるだろう。


 危惧していた勇者の弱体化について、調べてみた結果そんな事は無かった。幸い、皆が優秀な力の持ち主であるようだった。


 更に詳しく調べてみると32人居る勇者である彼らは、それぞれ得意なことが別々ではあった。


 剣を振ることを得意とする戦士タイプの者達に、魔法を得意とする魔法使いタイプの者達。それから、支援を得意とする僧侶タイプの者達などに分かれていた。


 人数が多い分パーティーを組んで戦わせたりすることも出来る、当初想定していた勇者1人だけの時には考えられなかった戦術を取れるだろう。人数が多い事で新たな戦闘プランを検討できるようになったのだ。


 こうして僕は初日から彼ら勇者に対して剣を振れ、魔法を覚えろ、と多岐にわたる訓練を課していった。しかし、その翌日に状況が変わる。


「ジオン様、勇者たちが訓練場に出てきてくれません。今から、彼らを引っ張り出してきますか?」


 兵士の1人が心配して、こんな事を尋ねてきた。どうやら、前日の訓練で音を上げたのだろうか、訓練をサボる者たちが続出して何十人も訓練場には来ていない状況になっていた。しかし、サボらず来てくれた何人かの勇者達。しっかりと訓練を続けて受けようとしている者も居たので、特に問題は無かった。


「いや、訓練に出る気のない者達は放っておいて良い」


 魔王を倒せる可能性を持っている勇者が1人でも居たならば、それで問題はない。今の所必要だったのは勇者という称号を持つ人間であり、魔王を倒せる可能性がある者だけ。別に魔王戦での戦力としては、それほど期待もしていなかったので他の人間は自由に怠けて休んでいても一向に構わない。


 それからは、訓練の日々から脱落しなかった勇者達だけを鍛えた。目標は、魔王戦に挑むため決戦地へと辿り着けるだけの体力をつける事と、少し戦闘技術を身につけ生き延びれるようにすればいい。


 さらに、戦闘訓練を繰り返し積み重ねていく。勇者の称号を持った者達は成長するスピードも恐ろしく早くて、何年も鍛えて兵士となった精鋭の者たちでさえ、勇者達が数日後には鍛えてアップした能力であっさりと追い抜かれていた。


 けれど、次のステップの訓練で行った魔物との実戦で躓く者たちが多かった。人形ではないけれと、獣の姿をしている魔物であり、剣で斬りつける事や魔法を当てるのに躊躇してしまう勇者達。


 ただ躊躇していたら魔物たちは構わずコチラを攻撃を仕掛けてくるので、殺らないと殺されてしまう。


 生き物を殺す、という決意をした男子達は全員が魔物を倒す事に成功していたが、女子の何人かは魔物であっても可愛そうだと攻撃が結局出来ずに居る者たちを残して、戦闘訓練は終わった。彼女たちは戦いに出せないだろうと判別して、別の仕事を割り当てる。


 魔物を倒せと必ずしも強制することでもないので、攻撃に躊躇してしまった彼女達は後方支援に回すなどして彼らの戦闘の適正を見て配置を考えていく。


 こうして訓練を重ねていって魔王討伐のための準備を進めていった。このまま順調に進めていけば、魔王が倒せる準備が完了するのも間もなくという感じだろうか。

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