第3話 魂消ゆとも

「ウウウウ..」「どう?」

「おいお前それ、死体だろ」

「死体じゃないよ、ゾンビだよ。」

「なんだってんだよったく..!」

久し振りに目を覚ましたら俺の横に幾つもベッドが増えて、上にゃ建物内でよく見てた死に損ないが寝ていた。

「どういう事だ?

何で俺の脇でコイツらが横たわってる理性が無いのに需要があんのか?」


「一遍に聞かないで貰えるかな?」

あれでも治療できるってのか、完全なゾンビだぞ。

「君の周りのは単純な比較材料、君を健康体とするなら彼等は病んだサンプル。皆同じ薬を投与して経過を見てる結果は未だ計測中だけどね。」

病人をサンプル扱いか。

神ってのは理不尽だな、一番フッ飛ばしたほうがいい奴の理性を保つとは。


「それにしても..身体が変だ、前より力が増している気がする」

「気がするだけかな?

試しにトレーニングルームにでも行ってみたらどうかな。」

「……」

誘っているのか?

もしかして最初から、経過後のステータスを測る場所だったりしてな。

「最近リニューアルしたんだ、結構鍛えやすくやってると思うけど」

「..なんだこれ?」

異常なアップデートだ。

器具の設定は全て強にセットされ、それ以下に下げる事は不可能になっている。

「ベンチプレスは...150キロ!?」

こいつ何考えてやがる、こんなもん持ち上がる訳ねぇのに。

「つくづくわからねぇ奴だな、こんなもんに参ってる奴を見てなにが..!」

怖いのはここだ、本当におぞましい。

「..嘘だろ?」

「いいや、真実だよ。

それが君の目に見えた現実」

ビビる程のデカい鉄の塊は、軽く上に持ち上がり、今俺の頭上に在る。

「お前、俺に何をした?」

「安心して、君だけじゃないよ。

他の奴だってそうさ」

「...おいおい。」

血を流して真っ青なガリガリの連中が似たような鉄の塊をガンガンに上げてやがる。街の連中より活き活きしてるじゃねぇか、知らねぇけど。


「わかるかい?

力が増しただけでなく最近では筋肉量が増加したんだ、回復どころか活性化してるんだよ。」

「ご機嫌だな、インストラクター」

「..僕は科学者だよ?」「んだよ!」

冗談は通じないのかよ、柔軟でいろ。

「さ、充分なトレーニングの後は適度な食事といこうか」

「またトリか...」 「どうだろ?」

決められた事を決められた順序で..刑務所かここは。


「トレーは食べた後元に戻して、皿は流しに、いいね?」

料理長まで務めてんのか、忙しいな。

「結局とりかよ..」

「君のはね、続けて鶏を摂取するグループと牛や魚を食べるグループに分けた。」

「何の為だよ?」

「質問ばっかりだね君は。

少しは自分で考えなよ、勿論身体の成長の変化を診るためだよ」

「タンパクがどうたらDHナンタラがうんたらって訳か、楽しそうだな。」

「うん、とっても!」

本気で笑ってやがる..おっかね。

「ていうか人数多すぎねぇか?

前までお前と二人だけだったのに」


「何、妬いてんの?」

「違ぇよ、単純に聞いてんだ」

同じクラスなら口聞かねぇぞ。

「それは実験と、実用性の問題。

急に外をウロつく人が消えたら不自然だしね。何も投与しない者の観察にもなるし」

観察観察、投与投与か..こういうのをやられてると本当に思うな。

一体何の為に生きてたのかってよ、生きる意味なんか本気で無いんだな。

「俺は籠の中の鳥だ」

「チキン食べながら言わないでよ..」


その頃かつて俺が暮らしていた街では

「ウウアァッ!」

「クソ!」 「ウウァァ...」

「ワラワラ湧いて来やがる、なんだってこんな事になったんだ。」

「だから外に出るのは止めようっていったの!」

「仕方ないだろ、物資が足りねぇ。

ガソリンも、食料も底を尽きてる!」

異常な惨劇のせいで健康な奴らは随分参ってるらしい、気の毒だな。まぁ俺は正直、頭を撃たれたあの日から奴らに情は持ってねぇが。

「アアァァッ!」「後ろ!」

「くそったれっ!

なんだよ、ここは地獄か!?」

こんな映画みたいなセリフ、言うと思わなかっただろうな。


『些細な事で日常は壊れ、絶望に呑まれる。誰も例外じゃない。全員に平等だ、不幸な事は特に。』

意識が残ってる間に、ビデオを残しとくことにした。いつ何をされておかしくなるかわからねぇしな。

『もし、街で嘆いている人がいたら気付いて欲しい。アナタがみているその景色が本当の姿だと。変わったんじゃない、初めからそういう場所にいたのだと。』


「気付くのは大体、死んでからだけどな。理不尽なもんだ」

でも確実に一つだけ言えるのは...

『生きてても死んでてもたいして形は変わらねぇってことだ。』

やってらんね、何度言ったかこの言葉

『最近はチキンの味が妙に濃い、飯係の味付けが雑なのか。俺の舌が狂ったのか、同じ物を食ってるからかね..』

ささみよかマシか。

「何してるの?」

「い、いや何も..。」「いくよ早く」

休むひま無しか

『悪りぃな、科学者の大先生がお呼びだ。血液で抗体を作るようなイカレた奴だが、自分なりに世界を救おうとしてるのかもな。信用しちゃいねぇが』


「いくよ?」

「好きにやってくれ、もう慣れてきた

心は許さないけどな。」

「..いいよ、心のある内はそうしておきな。」

だから冗談に聞こえねぇんだって。

『これも一つわかったことだが、ゾンビのジョークはつまらない』

身内の葬儀くらいの苦痛だぜ。

「そもそも会話するのが難しいしな」

生身の奴は色々あんだろうな出来事が


「ほら、上にまだ残ってた。」

「チキン?

それもターキー用のおっきなやつ。」

「食べよう」

「いいわ、そんな気分じゃない。」

「嘘つくな

今日はみんなそんな気分さ」

「..待って、今日って何日?」

「12月25日。」

「そう..わかった、いいわ。

今すぐ取り分けてくれる?」

「了解。」

クリスマスなんて、祝った事なかった職業柄そんな暇なんて無いし、家族もみんな警官だったから。

「斬るの上手いのね、プロみたい」

「プロだったよ、元はね。」

「そう..」

「暗い顔しないで、後悔してないよ」

「ごめんなさい」 「いいよ。」

料理人か、道理で腕が綺麗なんだわ。


「家族はいる?」

「家族、それ本気で聞いてる?」

「ごめん。」

「いないわよ、ずっと任務ばっかり。

死体と事件が恋人よ」

「はは、楽しそうだね。

僕は息子と娘、ほらこれ」

写真、いつも持ち歩いてるのね。

「うん、可愛いわね!」

「生きてるといいんだけど、途中ではぐれて...」

「悲惨な事ね..。」

真実は刻に、鋭い牙を人にむける。

「私の兄は..立派な警官だった。

市民を守り、家族にも愛されてたわ」


「今は、どうしてる?」

「...死んだわ。」

「あぁごめん、違うんだそんなつもりじゃあ..」

「いいのよ、いいの。

居間にいたら、突然奴らが襲ってきた

兄は私を庇って、傷つけられた。

急いで、部屋に銃を取りに行ったけど戻ってくる頃にはもう...」

「あぁその、上手く言えないけど..君は悪くないよ。そう、君のせいじゃない、お兄さんは突然の事故に遭った」


「ええ、そうね..ありがと。」

「チキン食べないの?」

「ちょっと横になる。」「..そうか」

ダメだわ、やっぱりまだまだ弱いわね

..全部乗り越えたつもりなのに。

「結局、一人でパーティーか..」

「……」 「ん、お前も食うか?」

兄は今の私に何て言うかしらね。

「ウワアァー!」「なに!?」


「どうしたの!」

「コイツを撃ってくれ!」「ウアァ..」

「くっ、中にまで!」「ウウッ!」

くそ、外したっ!

「ありがとう、助かった」

「まだよ、止めを刺してない。」

次こそは必ず..

「ウアァァァ」 「えっ..?」

なんで貴方が。

「メアリー!」「ウアァァッ!」

「あっ..」

やっぱり怒ってるのね、兄さん。

「離れろバケモノォッ!」「ウッ!」

「あぁっ..。」

「メアリー、メアリー!」

「兄さん..」

「アイツ、まさか..!」

「ありがとう。」

「なんでお礼なんか!

僕は君の兄さんをっ...!」

「違うわ、それじゃない。

..初めて祝ってくれたから、キリスト様の誕生日...」

ブライアン、最後に貴方にこの言葉を送るわ。

「メリー..クリスマス...。」

「僕がサンタだって..?

そんな訳あるか、そんな訳っ..!」

良い子にしてたらサンタが来るって聞いてたけど、教えてくれるかしら

〝良い子〟って、どういう子の事?


「言う事を聞いて、動かない子の事だ

..今日は凄く素敵な夜だね。」







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