第2話 根拠無し、憶測観測。
「ほら、食べなよ」「……」
拠点と呼ばれる場所の食堂は伽藍堂、怯えるくらい人が少ない。
「肉..焼けてる。」
「安心しなよ、人の肉じゃない。
適当に鶏を絞めて加工してるからさ」
さらりと言うあたり、日常的にやってるな、サディストかよ。
「他の連中はどこに?」
「外に食糧調達、君が喰われたように肉を求めて。」
「そうですか...」
要はみっともなく人を襲ってる訳だ。
「味はどう?」「..美味いです。」
「そうなんだよ、不思議だよね。死んでも味覚は落ちないんだ」
感心してる場合か、こん中にも変なもん入ってんじゃないだろうな。
「これって考えたんだけど、ゾンビに唯一残された感覚だと思うんだよね。だからそれを求めて人を喰う」
「はぁ..。」
そうなんだろうが話してくるなよウキウキしてんのお前だけだぞ?
「何で鶏肉かわかるかな」「..え?」
今度はなんだよ知らねぇよ!
「いろんなモノ食べさせた方がさ、経過が良くなるかもしれないからだよ。今日は鶏だけど、明日はまた違うかもしれないね?」
「あぁ、そうなんですね..。」
しれねいね?ってなんだよ
お前のさじ加減じゃねぇかそんな事。
「あそれともう一つ、君には身体を鍛えてもらう。代謝がいい方が投与もスムーズだしね」
「はぁ..?」
鍛えるって何の為にだよ、スムーズったって〝何もしないよりは〟くらいの事だろ?
「鍛えるったって何やれば」
「この建物の中にもね、トレーニングルームっていうのがあるんだ。前に意識を保った体育会系の男がいて、そいつと二人で協力してつくりあげた。
「..今、その人は?」
「死んだよ。」「あ、そうですか...」
聞く必要は本来無かった。
解っていた事なのに、何かの期待を持ってしまっていた。
「それじゃあ早速食後にやろうか!」
「勝手に決めんなよ...」
とか言っても聞かねぇんだろうな。
「死んだ後でも鍛錬かチクショウ..」
おかしいとは思ってたんだ、奴の飯は調理されたコゲの付いた良いチキン。
俺のは何だか、しなびたササミ。
「舌があっても味しねぇよ」
その後、向かった鍛錬場ってのはよく出来てた。真っ白な部屋に、新しいトレーニング器具、一体何処から持ってきたんだろうな。出来過ぎてる程だ。
「随分綺麗に残ってるな」
「そりゃあゾンビは使わないでしょ、
完品でずっとあるよ。」
「..まぁ、そうなんだろうけど。」
おちょくってんのかコイツ、本当に話し相手が今までいなかったんだな。
「まずこれ使ってほら!」
「これ..やった事ないな。」
なんか横から真ん中に腕閉じるやつか、何処を鍛える器具なんだこれ。
「よっふっ..はっ...!」
結構キツイなこれ、大変だぞ。
「どう、結構キツイでしょ?
まぁまぁ大変だよ」
「..わぁってるよ、わかってる。」
さっき全くおんなじ事頭で言ったわ。
「それ終わったら次こっちね、ベンチプレス。最初は軽くでいいからさ」
「……」
すっかりトレーナー気取りか?
無理矢理鍛えさせやがって、何が面白いんだコレ。
「活発なのは良いことだよ」
それからはとにかく血の巡りを早くさせられた。タダでさえ血が足りねぇってのに活発化させる意図がわからねぇが何度聞いても「実験のため」だと言ってきかねぇ。要は選択肢なんざ無いって事だ、死して尚所有物か。
「ふうっ..まだやるか?」
「そろそろいいかな、有難う。
お疲れ様だね」
数分前迄は30キロも上がらなかった。
それが今は120を上げられる。
「こんなに急成長するものなのか?」
「違和感は気にしなくていいよ。
運動っていうのはいつでも理不尽さ」
確かに〝違和感〟という言葉が適切な気がした。身体を鍛え代謝を上げるというよりは、以前より身体の程度というものが〝増加して広がった〟ように思えた。
「機械に何かを仕込んでいるようには見えない、ならなんだ..?」
「汗拭いて、お薬の時間だよ。」
考察も阻害され、自由を奪われ再び硬いベッドの上へ。される事は同じ、注射器に含んだ液体を中に入れる。
抗体と呼ばれる無責任なエゴの塊を。
「よっ」「ぐうっ!」
「痛むよねぇ、まだ慣れない?」
「慣れないだろそりゃあ..!」
いつまでも人を食う態度、笑えねぇんだよその身体じゃ。
「痛っ..!」
液が馴染む、気持ち悪りぃ..前に知り合いが治験のバイトをしてるって言ってたがこんな調子だったのか?」
「どう、様子。」
「最悪だ、変なもんが入ってくる」
「入れてるんだよ..わかるでしょ?」
「..なぁ、一つ聞いていいか」
「何、幾らでもどうぞ。」
「科学者ってのは皆そうなのか?」
「そうって?」
「気に食わねぇ連中なのかって聞いてんだよ」
「...本性が出てきたね。」「なに?」
「前はもっと丁寧な話し方だった。」
「けっ!」
それで応えてるつもりかよ捻くれ者。
「暫く静かに寝ていてくれ」
「まぁ他にする事もないしな。」
「素直だね」
「当たり前だ、お前と一緒にするな」
馬鹿は死んでも治らないか、この場合どっちが馬鹿なんだ?
「一応副作用で眠くなるようにはなってるから、睡眠の質は良い方だとは思うよ」
「副作用?
なんでそんなもんがあんだよ。」
「素材が随分足らなくてね、そこを補う事までは出来なかった」
「事事前に言っといてくれよそういうんは一応よ、じゃなきゃお前....」
「ほら、落ちたね?」
「ぐっ..ちょっと待て、これじゃまるで睡眠薬...」
ダメだ、意識が遠のいてく。
「更に適度なタンパクと運動量で上手く促進させて深い眠りについて..」
何いってる?
耳にまともに入ってこねぇぞ...。
「……」
結局、はっきり聞こえたのは、なんでもない言葉。しかしそれはきちんと俺に、別れを告げる言葉に響いた。
「おやすみ、お兄さん。」
後は何も覚えていない。
継続して薬は投与され続けたらしい、
真剣にモルモットを全うしちまったって事だな。やっぱりアイツはサディストだ。科学者全体がどうかは知らねぇが、少なくとも側にいる白衣の男は俺の経過を愉しんでいやがる。上手くいこうがいかまいが、結果として収穫にして祀り上げるだろうよ。
「彼が来てから二週間が経つか、ここからより薬を量産できるか?
サンプルはあればあるだけいい。」
「..そうだ!
被験体を増やそう、それで複数の経過を観察すれば...面白くなりそうだ!」
サディスト、悦。
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