不潔な笑顔

アリエッティ

第1話 新たな生活

頭が痛い。

殴られたように鈍く深く。

うまく歩けない、骨が折れている様に

頭をおさえた両の掌には赤い血がべっとり付いていた。


「鏡、ねぇかな..?」

顔色を見たい、何故かそう思った。

そこらの道路の隅に倒れてたから、カーブミラーが直ぐに見つかった。

「気持ち悪っ、真っ青だな」

死人かと疑うくらい顔は青ざめ口から赤がコンニチハしている。

「とにかくウチ帰らないと、今何時だ時計が無いな、鏡あんのに。」

何処かに人がいればと探せば取り敢えずは居た。だけど男か、鏡あるかな。

「すいません、鏡あります?」

聞いちまったよ、考えもしないで。

「う..うわぁ〜!!」「え..え?」

いきなり騒ぎ出したよ。

どうしたよ、頭ヘンなのか?


「出やがったな化け物!

今度は俺達を襲おうってのか!」

なーに言ってんの、この人達?

「あのー..ですねその、鏡を...。」


「近寄よんじゃねぇ!!」

おもむろにソイツは猟銃を取り出した

出すなよそんなもんおもむろに。

「どーうしたもんかね..。」

「くたばれ化け物!」「うそっ⁉︎」

容赦なく構えたままぶっ放したよ、何処かに当たって血が吹き出しのも覚えてる。その後は、少しだけ男達の声が聞こえて意識が飛んだ。


気が付けばベッドの上にいた。


硬く、質素な、休むというよりは一旦物を置いておくような雑感が混じる。

「どこだここ。」

「あ、目ぇ覚ました?」

身体を起こすと酷く顔の青冷めた、覇気の無い細身の男が声を掛けてきた。

「えっと..」

「やっぱ覚えてないかー、だよね。

君大変だったんだから!」

「え?」

「あと一歩で死ぬ所だったんだから。

まぁもう死んでるようなもんだけど」

ああやっぱりそうか、いきりたってたもんなあの男。..と待てよ。

「死んでるようなものって?」

「来ればわかるよ、こっちだから。」

先導に付いて行き大きな柱の曲がり角を進むと都会の駅のホームのように疎に人が混在していた。

「何これ、人多っ!

顔色悪っ..ガリガリだし。」

傍らの男同様覇気は無く、ボロボロの布を羽織る傷だらけの青冷めた顔の人々が、足を引きずりながらゆっくりと彷徨う。


「なんだあれ?」

「おっ、疑問感じる?

ならまだ〝噛まれたて〟だね。いい時期にここ来たよ、良かったじゃん」

「いい時期?」

「まだ新鮮って事だよ。」

言葉の意味は全然分かんなかったから無視した。

「もうちょい奥行こうか。」

駅のホームのような大広間を抜け更に掘り下げた段階の小さな一室へと誘われた、元いた部屋より少し広いくらいのな。

「何か飲む?」「いや、いいです..」

「喉は乾かない、か。」

一つ一つ確認して、試すような口振りで含んだ接し方をしてくるコイツは何を企んでんだ?

「ここどこですかね。」

というよりそもそもの事が気になったからざっくり纏めて聞いてしまった。


意識が飛ぶ前何されたか覚えてる?」

「えーっと、確か..」

質問と答えが違う、単純に話を聞いてないんだろうな。

「猟銃をかまえられて、撃たれた。」

「……」

ストロークのように沈黙を作った。

熟考中か、詮索中か..。

「そのタイプかぁ〜!

やっぱあるよねぇそういう事!」

「いきなりかまえられて..。」

「そ、本当いきなりなんだよねアレ」

共感中だったか。

場が温まった隙に聞いてしまおう。

「此処ってそういう人が集まる場所なの?」

「違うよ、ただそういう事が良く起きるって事だからさ。」

入り口にはバリケードを貼り、窓は無く、硬い石造りに松明が備え付けられた少し古い仕様の建物にぎっしりと人が詰められている。いよいよ直接聞く以外掴めるものは無くなっている。


「此処は一体、何なんですか?」

「此処は何、うんまぁ..拠点かな。

僕たちゾンビのね」

「ゾンビ?」

不死の怪物の名を何故急に。

「疑問かな、みんな最初その顔するよ

街の人に化け物とか言われた?」

「..そういえば。」

あの男達化け物とか言って銃向けてきてたな。

「やっぱ言われたんだ。

そうなんだよ、他所から見たら僕らはもう化け物らしくてさ。言葉も通じなきゃ共存も出来ない、まぁ殆どが自我を失ってるから仕方ないんだけど。」


物理的に不利だと思っている人間側が自ら攻め入る事は無いようだが、ふとした刻に中へ人が紛れ込んだときに、多くの無理性のゾンビ達に噛み殺されないように防いでいるのだとか。

「理性が無い..俺もそうなるのか?」

「どうかな、放っておいたらそうなってたかも。でも君はさっきも言ったように時期が早かった、運が良いよ」

時期が早いというのは恐らく過程的な進行が著しいという事だろうがそもそもの意味がわからない。


「どうなるんだ俺は?」

「..間違えば周りみたいに怪物になるけど、今は様子見かな。ほらこれ」

指でつまんで見せてきたのは細く小さな瓶、多少液体が付着して以前何かが入ってたような痕跡が見える。

「僕は元々科学者でね、目覚めたら何故か意識が残ってたから耐性があるのかと思って自分の血から抗体を作ってみた。」

流石は研究者

目覚めてすぐに解析と実験、休まる暇は無いという訳だ。

「それを寝てる間に俺に打ったのか」

「そう、調子どう?」

仮に容態が急変して狂人になってもそれはそれで愉しむのだろう。

「..いつからここに?」

「いつからかな、二週間くらい前か。

そん時は数も余りいなくてさ、僕も初めは気付かなかったよ。自分が一回死んだこと」

奴が言うにはその頃にもう既にゾンビは存在し、ここにいたという。

「一人目(はじめ)が誰だかは分からない。だけどその人が感染を広げていって徐々に増やしていった。お陰で今では凄い数になってるけど、もし特効薬が出来て治療が成功すれば新たな一人目を生むより早く、最後のゾンビを元に戻せるかもしれない。


「これからも改良して薬を幾つか作ってみるつもりだから、何度か投与させてくれ。」

「俺にですか..?」

「そうだよ、他は意識失っててぶっ飛んでるからね。いいでしょ、どうせ外には出られないんだし。」

良心のある奴だと思ったがシニカルで独立的な愛想の無い奴だった。

「人の部分が残ってるな」

完全体のコイツは一体どこまで面倒なんだろうな、考えたくも無い。

「不老不死ってのを夢見た事もあるけど、そんなにいいものじゃないな」

薬を投与され続ける実験台と、死んで腐った愚かな生活か。

「うんこついた二足のわらじで道を歩けるものなのか?」

やってられね。

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