2──花さそう 第二話
「で、惟月の動向は」
「
感情を
「どうした」
「どうしたってちょっとさぁ」
瑠璃が不満げに口をとがらせる。
「あんたこれ疑問に思わないわけ? なんでこの犬っころがここにいるんですかぁ」
瑠璃の疑問はもっともだった。
あてがわれた部屋のすぐ外で、透輝たちは燃え盛る火をつつきながら
問題は、琥珀も仲間に入っていることだ。
透輝は
「俺が惟月の様子を
「いみふめいすぎる!!」
どうしたらそんな話になるのだ。瑠璃は
琥珀は我関せずといったふうに顔を
透輝はいまだ腹の読めぬ山犬に声をかける。
「傷はもういいのか。ずいぶん手ひどく瑠璃にやられたと聞いたが?」
透輝が真珠のもとへ走った後、残された瑠璃は琥珀と交戦した。瑠璃からは白い毛並みが染まるほど斬りつけてやったと聞いていたが、目の前にいる琥珀は毛並みに乱れ一つない。
「
「なんだ、あの姫は傷を
からかうように言ったが、琥珀は
真珠とはどういう女であるのか、という問いに顔も上げないままで『答える必要がないね』とぴしゃりと言われてしまったことは
「立派な忠犬ぶりだ。悪くない。利害が
「
透輝と瑠璃の殺気が向いた
「なに、俺たちの首でも姫さんに
「姫宮さまはそのようなこと、望んではおられません」
「ならあんたの独断ってことか。言っとくけど、少しでも妙な
瑠璃があまりにも
「そのくらいにしておけ。相手はただの女だ」
「
そう前置きした上で、女は顔を隠す手の
「私は頭からつま先まで姫宮さまに
「どいつもこいつもつまらないことを言うな。そういうふうにできているなどと、まるで人に意志などないようだ。人の営みのあらゆることから遠いように、あの姫もそんなようなことを言っていたが」
「姫宮さまの言うことは正しくあります。天狼に仕える限り、人の営みなど必要ないと存じます」
断言した女に
「はぁ~? あんたたちの宗教がどんなだか知らないけど、ずいぶん
瑠璃は息がかかるような
「あんた、せっかくきれいな顔してんのにな」
考えてもいなかった言葉をぶつけられ、女は絶句した。
「なっ」
「顔を隠しても目だけみりゃわかる。あんた、ずいぶん美人さんだよね? こんな
自らの耳を飾る派手な
「そりゃそうだが、お前な……」
なにを
「
「きれいなもんをきれいだと言って、どうしてそれが侮りになるかわかんないんだけど」
ますます近づいて、
「あんた、肌も白くてきれいだね。こんな肌の女は姫君でもみたことないよ」
「失礼するっ!」
ただ火が燃える音と、肉の
「瑠璃、
「半分は本気ですけどねぇ。あの人はたぶん、俺がみた中で一等きれいな部類ですよ。ま、
瑠璃は軽く肩を
「にしても、あれはただの人間ですよ。いくら神の使いをきどったところでね。俺たちと同じく、赤い血の流れる人間だ」
その通り。
瑠璃が琥珀の反応を
真珠は自らを歯車の一つであるかのようなことを言った。ずっと
「どこか体をかばっているような素振りがありますし、なにより血が足りてないのか肌がいやに青白い。俺があの女の主ならさっさと
神ってのはよほど人使いが
「で、
「安心しろ。俺が王であるかぎり、あいつらは俺の害になるようなことはしない」
「そんなのはあいつらが単なる神の使徒であるなら安心するだろうけれども、あんたも知っての通り、どうしようもなくただの人間だ。であれば心変わりはいつだってする。なにひとつ信用ならない。いつ弟
「なにを考えていようが、現時点で俺にとって利があるから使っているだけだ。あいつらはあくまで姫に忠誠を
「だから、それは何の証明にもなっていないでしょ」
「だが現に、お前の探らせているところと大きく違いはないだろう」
そう透輝が
「確かにあの犬っころの言うとおり、弟殿に動きはありませんね。
「こっちから動いてやらないと、あっちはテコでも動かないかもしれんな」
「その
「お前は
座りこんで色よく焼けた
けれどもその口からこぼれたのは、これ以上ないという王の
「俺こそが不岐で、不岐こそが俺だ。であれば城などいくら取ろうが意味がない。俺の首を取らぬ限り、この国は落ちん」
「……マジで言ってんだもんな、この人。間違っちゃいないんだけどさぁ~。ま、いちおう城は俺の
「いや」
もうちょっとまて。
そう瑠璃に返事をしようとするが、
「おい、お前たち!」
上段から声とともに
その
「好きに過ごせとは言ったが、宮で
卵形のゆるい
それにしても抱いてしまえば簡単に折れてしまいそうな
「聞いているのか」
本人は
視線を再び火へと移し、意味なく
「これのどこが小火だ。りっぱな
「そろそろ
「塩はあるか」
「あ~、ちょっとまって」
「はなしをきけ!」
足をふみならして本気で
「お前たち、ここをどこだと心得ておるのだ。神域で芋や鶏を焼くなど、どういう教育を受けている!」
「あんたのところの食事が
「なんだと!」
「うすい
「だれが小さいか!」
とてもあの
これが、本来の真珠の姿なのだろうか。
ずいぶんと、年相応だ。ならばそれ相応の
「ぎゃっ!」
なんというか、想像通り。いや、それ以上に、
「軽すぎるだろ」
「おろせ、ばか!」
「おい、暴れるな」
なおもびちびちと
「はい! そこ、いちゃいちゃしな~い」
「いちゃいちゃなぞしておらん! 自分の
言いながらもどこにそんな体力がと
どこか、異国めいた香りだ。
「あんた、
「おい、人のことわりもなしに嗅ぐな! やめろ! 鼻先を私の髪にうずめるんじゃない! まきしま、槙島ぁ!」
「はいはい、不出来な主をもつ
瑠璃が差し出したのは適当な長さに切った長いもであった。皮が黒く
「いらん! それよりこの男をなんとかしろ!」
あまりにも絶え間なく暴れ続けるので、透輝は今度こそ興がそがれたという風に
急にふんわりと抱きとめるだけになった透輝を
そこにすかさず、透輝は真珠の口に長いもを
「ほら、食え」
焼き立てのいもだ。
舌を焼く熱さに目を白黒させた。
「……大丈夫か?」
口元を押さえて
「……うまい」
「は?」
「うまいといった。もっとよこせ」
この姫は危機感が足らないんじゃないかと思いながら、ねだられるがままにいもを
ようやく満足したところで、真珠はにっこりと笑う。
「
そうして、透輝の腕からするりと
「今回限りは許してやるゆえ、ちゃんと片付けるのだな!」
「あんなに食い散らかしといて姫さんは手伝わないわけね」
焼けた鶏を
「うるさい! 食事の件は
小さな体で
「あんた、さっきみたいに笑った方がいいんじゃないか」
「なに」
「いもを食って
一瞬、真珠の顔がこわばった。
と思ったら、澄ました顔で小さく笑う。
「お前にとってのましな女になってやる必要があるのか、この私が」
それは全ての感情を美しい
彼女は冷たく言い
「分をわきまえろよ、人間」
そうして、くるりと
どうにもちぐはぐな女だな。
まるで、無邪気な少女とろうたけた天上人が同居しているような。
「それにしてもつくづく惟月にはもったいない女だな」
今となっては真珠が応じたとも思えないが、仮に惟月と真珠との
初めて彼女と
なかなか、ひやりとする話だ。
「やはり動かないのならこちらから動いてたたくべき、だろうな。あの姫ならその
「あんたね、またそんな
「まだ気に入らないのか」
「得体が知れなすぎる、という話をしているんですよ」
主の
「あきらめろ。俺についていくと
「全くその通りですよ!」
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