第9話 春
-青春は、一度きりだから-
シンプルな、ナレーションの後、日高と、はるが駆けすぎてゆく。
あれから。
何度も何度も、この場面がCMで流された。
そして、同じころ。
はるの元へ、日高から一本の電話が入った。
「はる。私、実家に帰ったの」
確かに。
はるたちは、少しずつ大人になっていって。
少しずつ状況も変化していった。
そんなころ。
-お花見するよ-
って、又、いきなり連ちゃんから連絡が来た。
「はるー!」
手を振って迎えたのは、日高だった。
まだ桜の蕾はかたいけど。
いつもの、日高の実家で。
「あ、日高だあ!」
駆け寄って、抱きしめた。
「はるー!」
連ちゃんも、めいもいて。
「っていうかさー、何でいっつもここなの」
はるが、帽子を取りながら笑うと、
「はるちゃん、ひどいなー」
って日高のお父さんとお母さん。
今や、
-ひーパパ-
-ひーママ-
って呼ばれてて。
なぜか、貴子だけは貴子さんかお姉さんで。
「はい、ひーパパ、これ」
「お、日本酒か。ありがと、はるちゃん」
いつの間にか、桜も咲いてないのに。
お花見が始まった。
「そう言えば、日高先輩は、はるの事務所に入るんですか」
連ちゃんが言った。
「うん。ちょっと前に、もう契約してるの」
「えっそうなの?」
はるは驚いて、横にいた、日高を見た。
「言ったじゃーん。CM決まったとき」
「そうだっけ」
「言ったよー。もう一度舞台でお芝居したいって奥村社長にお願いしたんだ、って」
「舞台女優になるんですか?」
と、めい。
「うん。一応、そのつもり」
(そっか)
はるは、心の中で呟いた。
そっと。
日高の横顔を見た。
瞳がきらきらと輝いて、心から楽しそうに笑っていた。
「はるちゃんは、どうするんだい」
だいぶ、酒もまわってきたころ、ひーパパが、はるに話を向けた。
「私?私は一応、大学行きながらモデルをつづけようかなって。附属だから、高校の隣だし」
連ちゃんも、めいも、同じ大学の進学が決まっていた。
「みんな、きらきらしてていいなあ。青春は一度きりだもんなあ」
ひーパパも、とても幸せそうで。
「お父さん、あのCM、いっつも観てるもんね」
貴子の言葉に。
「おう、あれ観てると、人生捨てたもんじゃねえって、嬉しくなるんだ」
って、言ってから。
「でも、はるちゃん。日高は、もう、とっくに二十歳になってるぞ」
そう言って、笑った。
「えっそうなの?」
はるは驚いて。
「じゃあ……」
ひーパパは、笑ってるだけで。それ以上、何も言わなかった。
でも。
-連プロジェクト- は。
みんなで連なってるってことなんだ。
連ちゃんは、そう言った。
(日高がいて、みんながいて)
はるは、庭先の桜を見た。
あの桜が本当に咲くころ。
自分たちは何を見て。
何をしているだろう。
でも。
たった一つだけ、確かなことがある。
私は、日高が大好きなんだ。
完
セーラー服とエプロン2 a.kinoshita @kinoshita2020
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