第7話 セカンドキス

 校庭の隅の一角に、芝生になっている場所があって、低い生け垣がめぐらされている。

 そこまで来ると、二人は同時に倒れ込んだ。

 肩で息をして。

「こんなに走ったの、久しぶり」

 まだ荒い息のまま、日高が言った。

「私もだよ」

 はるは、左手を、日高に伸ばす。日高も、はるの手を握った。

 二人は。

 しばらく仰向けのまま、空を眺めていた。

 やがて。

「私、今日、願いが一つ叶っちゃった」

 日高が口を開いた。

「ずっと、今日みたいに逃げ出したかった」

「…………。」

 はるは、日高の横顔を見た。

 長い睫毛が、陽の光を集めて、金色に染まっていた。

「そうだ、家、空けて大丈夫だった?」

 はるが上身からだを起こした。

「うん。はるのお友達の連ちゃんが、うちのお姉ちゃんをつれて来てくれたの。声がそっくりだからって」

「連ちゃんが?」

「うん。この衣装も、必ず実家にある、捨ててないはずだから探して下さいって」

「そうなんだ」

「うん」

 はるは、深く尋ねることはしなかった。

 二人は、しばらく黙って風の音の中に身を委ねていたが、

「あっ」

 日高が、声をあげた。

「何?」

「ほら、見て」

 日高ははかまの腰の辺りを少し下げた。

 ピンク色の、エプロンが見えた。

「急いでいたから、エプロン取るの、忘れちゃった」

 そう言って、日高は声をたてて笑った。

 その姿が、その声が。

 さっきの皇子の凛とした姿とは全く重ならなくて。

(何てかわいいんだろう)

「ねえ、日高」

「何?」

「キスしていい?」

「ダメって言ったら?」

 日高の言葉に。

「それでもする」

 って、はるは、上身からだを沈めていった。

 金色の睫毛が、ゆっくり落ちていった。

 はるは、日高にキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る