第5話 最後の一手

 去年、はるには。

 クリスマスも。

 お正月もなくて。

 だけど。

 たった数ヶ月で。

 連ちゃんのプロジェクトは、はるを、一気に新進気鋭のモデルへと押し上げていった。

 ある日。

 -日高先輩の実家に来て-

 って、ラインが来た。

(何だろ)

 はるは、ちょっとだけ、帽子を目深に被って家を出た。

「はるー」

 連ちゃんと。

 めいと。

 日高のお父さんと、お母さん。

 それから。

 貴子、というお姉さんまで。

「どしたの?」

 はるの言葉には答えずに。

「ほら」

 連ちゃんが、小さい箱を開けた。

 シルバーのネックレス。

 見覚えがあった。

「この間の撮影でつけたやつ?」

「ピンポーン」

 と、めい。

「はるちゃんのおかげで、あれから問い合わせがすごくて、工場も大忙しだ」

 手袋を取りながら、日高のお父さんが近づいてきて、

「あんがと、はるちゃん」

 はるの肩に手を置いた。

 何か。

 泣けてきて。

 はるが、ちょっと下を向いた。

 それを見て、連ちゃんが近づいて来て、

「ダメ!泣いちゃダメ!」

 はるを抱きしめると。

 左右に大きく踊るように。

「うん」

 連ちゃんは。

 小さくて。

 大きかった。

 その後、三人は木の箱を立てて椅子にして。

 ダルマストーブの前に座った。

 不意に、

「はる、はるは頑張った。うん、頑張ってる。でも、これじゃまだなんだ」

 連ちゃんが言った。

「うん」

 はるは頷いた。

「何か、まだ考えてることあるの?」

 って、めい。

「ある」

 って、連ちゃんは大きく頷いた。

「最後の一手」

「最後の?」

 はると、めいが、身を乗り出した。

「うん。これが私の出来る最後の一手」

 そう言って。

「わかった」

 はるは、きらきらとしたを二人に向けた。

「私、頑張る。ここまで来れたのだって奇跡なんだから。それにね」

 はるは、財布から、キーホルダーを取り出した。

「これ、前はカバンにつけてたんだけど。今は何か財布の中に入れて持ち歩いてるの。ねえ、これ、日高のお父さんに前にもらったの」

「日高先輩のお父さんから?」

 二人は、はるを見つめた。

「前に、いろいろあったとき……。ここ見て」

 はるが指差したところに。

 二人のイニシャルのHが二つ。

 小さく小さく彫られていた。

「これって……」

 連ちゃんは言葉に詰まった。

「私たちのこと、知っていたんだと思う。日高の気持ちにも、私の気持ちにも………」

 唯一、父として出来ることは。

 小さく小さく、二人のイニシャルを彫ってあげることだけ。

「だから、私大丈夫。絶対に諦めない。頑張るんだ」

 はるは。

 ちょっとずつ、大人の階段をのぼっていった。

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