第3話 始動

 オーディション当日。

「いい?愛想笑いだけはしないで」

「うん、わかった」

 はるが頷く。

 何かもう、フィギュアのコーチと選手みたいに。

 ちょっと手を上げて。

 はるは、会場へ入って行った。

 -結果は-

「ギリギリ!四番目に名前、呼ばれたよー!」

 はるは、連ちゃんに勢いよく抱きついた。

「そっかー、めいにも知らせなきゃ」

 そういう連ちゃんは、ちょっと泣いていて。

 でも。

 はるは、泣かなかった。

 だって。

 プロジェクトは、まだはじまったばかりなのだ。



 事務所の人に呼ばれて、はるが自己紹介をして。

 一人ずつ名前を言っていったとき。

(なるほど)

 はるは、自分が合格した本当の理由がわかった。

 桃山はるか。

 河名夏花かわななつか

 森山千秋もりやまちあき

 氷室美冬ひむろみふゆ

 春夏秋冬が各々名前に入っていて。

 百七十センチ以上っていう、インパクト。

 マネージャーの、小池太一こいけたいちは、

「はるちゃん、ひらがな、ギリギリー」

 って。

 会うなりハイテンションで言ってきた。

 でも。

 大手から独立したばかりと思えないくらい、会社も立派で。

 知らない名前ながら、はるたちは雑誌にも取り上げられた。

 高校生は、はるだけ。

 後はみんな大学生だった。

 ある日。

「明日、四時から写真撮るから私服で来て」

 って、マネージャーから歌のレッスンの後に言われた。

(連ちゃんに言わなきゃ)

 連ちゃんは。

 -どんな小さなことでも言って-

 って。

 ラインで送ると。

 -わかった-

 って。

 土曜日なのに、

「これ着て」

 って、一式持ってきた。

 小物類のアクセサリーが可愛くて。

(和っぽい)

 それに合わせたデニム系のジャケット。

「はる。はるは、笑顔ふりまくアイドルみたいになっちゃダメ」

「じゃ、どうするの?」

「こう、相手の足元見るの」

「えー、かわいくないじゃん」

「プロジェクト!」

 あっそうか。

 私はアイドルになりたい訳じゃないんだ。

 どうしよう、すっかり忘れてた。

「わかった」

 はるは、大きく頷いた。

 ここまで来た奇跡を作ってくれたのは、連ちゃんだ。

 連ちゃんを信じよう。

 みんなが、フワフワの私服を着る中。

 私だけ、デニム系で、シルバー系のアクセサリーで。

 でも。

 信じる。

 連ちゃんのプロジェクト!


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