第2話 プロジェクト

「はるー、お帰りー!」

 ベランダに。

 夕日越しの日高は、本当にきれいで。

「ただいまー!」

 全ての疲れや悩みがふっとぶ。

「ねえ、日高」

「ん?」

「何か私、バイトするみたい」

 はるの言葉に、日高はキョトンとしていた。



 -連プロジェクト-

 連ちゃんは。

「やる?やらない?」

 って、あの夜、はるに詰め寄っていた。

「な、何を」

「私のプロジェクト」

「何それー」

 って、めい。

「やるだけの価値はあると思う。でも、全てうまくいくかわからない」

 連ちゃんは真剣だった。

「それやったら、日高は、幸せになるの?」

「少しは」

「そっか。なら、やる!」

 もう一度、

「やる!」

 って。

 私は、子供だったんだ。

 でも。

 子供だからこそ、誰より真っすぐだった。



 眠いよー。

 キツイよー。

 何で新聞配達なんだよお。

 早朝、はるたちは自転車にも乗らず、朝靄の中を

 駆けていた。

「うるさい!」

 って連ちゃんが。

「キレイに痩せなきゃ、意味がないの」

 キレイに健康に痩せる。

 連ちゃんは、本気マジだった。

 料理上手のめいが、はるのお弁当を作ってくれることになって。

 わざわざ家庭科のヨッちゃん先生にカロリーや栄養まで聞きにいって。

 十日後の放課後。

「おっキレイじゃん」

 はるのお腹を、ペチッと連ちゃんがたたいて笑った。

「へっこんだねー」

 って、めい。

「ねー、連ちゃん。確かに痩せたけど。それで、こっからどうするの」

 はるの言葉に。

「見て」

 連ちゃんは、ある雑誌を机にひろげた。

「何これ」

「ここ」

 指差したところに、

 -地下アイドル-

 って。

 確かに。

 そういう文字が書いてあった。

「地下アイドルぅ」

「ここ見て」

 -身長百七十センチ以上-

 という規定が。

「はる、何センチ?」

「えー、七十ないと思うけど」

「行くよ!」

 はるの腕をつかむと、連ちゃんは保健室に向かった。

 身長を測定する機材の前に、はるを立たせると、

「乗って!」

(こいつ、本気マジだ)

「もー、二人、速いー」

 遅れて、ハァハァ言いながら、めいが。

「じゃ、乗るよ」

 おそるおそる。

「めい、下げてみて」

「うん」

 真剣な目つきで、連ちゃんが、メモリを読む。

「あっ!はる。百七十一センチあるよ!」

「うっそー」

 と、はる。

「ホントだー、はる、高かったんじゃーん」

 めいが、なぜか大喜びで。

「第一関門クリアだ」

 連ちゃんは、静かに、呟くように言った。

 私は。

 このときに。

 言葉や上っ面だけじゃなくて。

 本当に、この人のプロジェクトに、本気でついていこうって。

 なぜか心に決めたんだ。



 オーディションの写真は、写真部の木田君が撮ってくれて。

 撮る前には、美術部の園田さんが、はるの髪をふわっと巻いてくれた。

 もう、なぜか、はるたちのプロジェクトはだだ漏れだったけど。

 連ちゃんのプロデュースが熱すぎて。

 いつの間にか、三年生は一体になっていった。

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