セーラー服とエプロン2

a.kinoshita

第1話 秋空

「はるー、いってらっしゃい」

「日高、行ってくるね」

 毎日の光景。

 空が高くて。

 鰯雲が朝からきれいだった。

 背中に日高の視線を感じながら。



「行っちゃった」

 日高は時計を見た。

 八時十分。

(今日は金曜日だから部活あるなあ)

 下校までの時間が、無限に感じた。

 でも。

 自分の本当の気持ちを、はるに伝える事が出来た今は。

 日高の心だけは、はると同じように自由だった。

(行ってらっしゃい、はる)

 心の中で。

 日高はもう一度、はるに呟いた。



「あ、はる、おはよー」

「はるー」

 ここも、いつも通りの光景。

 でも。

 今日は、ちょっとだけ、はるは違っていた。

「ねえ、連ちゃん、前に言ったよね、先輩の結婚が銀行の融資がらみじゃないかって」

 ガタガタと椅子を鳴らして。

 友人の連音つらね、通称れんちゃんの方へ体を向けた。

「うん、言ったよ」

「ねえ、どうしたらいい?」

「ゴメン、話が見えないんだけど」

「何の話?」

 も、クッキーを食べながら。

 はるは。

 思い切って、全てを語った。



「悲恋だねえ…」

 って、連ちゃんが、しみじみ言った。

「はる、かわいそー」

 って、めい。

「あんた、先輩のこと、好きなの?」

 連ちゃんの言葉に。

「ずっと好きだった」

 はるはうつむいた。

 でもそのとき。

「ゴメン、はる」

 って、一人のクラスメイトが割ってきた。

「聞こえちゃった」

 田中風名ふうな、通称ふうちゃん。

「その人、籍、まだ入ってないよ」

 って。

「本当?ふうちゃん!」

 思わずはるは立ち上がっていた。

二十歳はたちすぎたら入れるみたいよ。向こうの意向みたいで」

「何であんた、そんなこと知ってるの?」

 連ちゃんの言葉に。

「だって、うちのお姉ちゃんと同級生だし。アパートも、確か、表札二つあったよ。犬の散歩してる時見た」

「あんた、気づかなかったの?」

 しゅるしゅるーって。

 はるは、ゆっくり椅子に座った。

「うん。気づかなかった」

「でも先輩って、うちらのニコ上なんだから、そろそろ二十歳じゃないの?」

 ふうちゃんが言った。

 そっか。

 もう、カウントダウンが始まっているんだ。

 その日一日。

 はるはもう上の空で。

 気づいたら、部活も、まれにみる棒読みだった。

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