湖の調査編 《六日目》
第105話 湖での調べ事
肖像画事件や、カイくんのアルフォンス様蹴飛ばし事件など、色々あってから一夜明け……今日は早朝から、カイくんと
「ほらほらカイくん、湖だよ!!」
「見れば分かる」
視界いっぱいに広がるのは、澄んだ水が湛えられた広大な湖。
昔から神聖視されているだけあって、なかなかに綺麗だね……。
つい先日精霊さんとお話しした湖も充分綺麗だったけど、なんかもう雰囲気からして違うし、あと何より大きさが桁違いで、湖の向こう岸が霞がかってみえるほどだった。
こういう景色って、そこにしかないものって感じでいいよね……。
そう言えば昨日も、アルフォンス様からこれとはまた違うけど綺麗な景色を見せてもらったなぁ。
それを思い出した私は、気付いたらついこんな言葉を口にしていた。
「アルフォンス様も一緒に来れればよかったのに……」
私がそう口にした瞬間、カイくんは「あ?」と低い声を出しながら、こちらに冷たい目を向けてきた。
え、なんでそんなに怖い顔をするの……?
「今、なんて言った?」
「えーっと、想像以上に綺麗な湖だったから、アルフォンス様も来れればよかったなぁって……」
私の答えに、カイくんはわざとらしく大きなため息を付きつつ言う。
「お前な、遊びに来てるわけじゃないんだぞ? あのもふもふ連れてきてなんの役に経つんだよ、邪魔なだけだろ」
「なんの役に立つかって……あっ、ほら、もふもふふわふわで癒やされる効果がある的な!?」
「ふざけんな」
「はい……」
カイくんにピシャリと怒られた私は、肩をすくめてコクリと頷く。
しかしそれでも、カイくんの言動に少し納得できなかった私はボソッとこう言ってしまった。
「カイくんって仲が良いとかいう割に、アルフォンス様へのあたりがキツくない?」
「……俺って元々こんなもんだろう」
「えー」
確かにカイくんって、親しい人に口が悪くなるタイプだけど……なんか、ちょっと違うような気もするんだよね。
うーん、私が男同士の付き合いを知らないからかな……。
「ほら、それに俺だって、アイツのことを多少は可愛いと思ってるぞ……アホっぽい珍獣的な所とか」
「アホっぽい珍獣!?」
何それ……一体どういう概念なの……物凄く気になるんだけど。
アホっぽい珍獣……もふもふではあるけども……。
「はぁ……そんなことよりも、湖を調べるためにここまで来たんだろ? そっちは一体どうするつもりなんだ」
「あ、うん、そうだね……」
そう、そもそも今日ここへ来た目的は湖の調査。もっと正確には、文献から存在が判明した湖の中にあるはずの建物の調査のために来たわけです。
湖の中にある千年前の建築物……つまり遺跡調査に来たわけですよ。
これにはちょっとテンションが上がっちゃうわけで……おっといけない、まだ一応怒られたばかりだから少しは真面目にやらないと。
ついでに気になるけど、アホっぽい珍獣のことも一旦忘れよう……。
「では今回、湖で行なう調査の概要について説明したいと思います」
私がなるべく真面目にそういうと、カイくんは無言で頷いた。
「まず一番最初に、私が湖の水流を魔力で操りつつ、水中の様子を探知して、湖の中にあるはずの建物についての情報を把握します。そこで分かった情報で危険がなく、その他問題もなく中にも入れそうな場合は、そのまま中に入って建物内の調査をする。問題がある場合はそこで何かしらの対策を考えるって感じかな……大まかだけど以上」
私がそう説明を締めくくると、カイくんは頷きつつ「まっ、いいんじゃねぇの」と言った。
「やったー、カイくんから褒めてもらったー」
「いや、別に褒めてないけどな」
「ちなみに建物内部の調査は、出たとこ勝負なのでお楽しみに!!」
「それは果たして楽しみにしていいものなのか……」
「えー、だって千年前の建物だよ?遺跡だよ? たぶん面白いものが沢山あるよ……!!」
「お前、宝探しか何かと勘違いしてるだろう……? くれぐれも、はしゃぎすぎて怪我とかするなよ」
「大丈夫、任せてよ。もう探索ついでに、アルフォンス様へのお土産だって見つけちゃうからね!!」
「その発言の全てから不安しかないんだが……!?」
「大丈夫、大丈夫」
「まったく……」
あきれ顔のカイくんを尻目に、私は一人で湖のすぐ近くまで歩いていき、その水に手を浸した。なぜかというと、こうすることで私は湖の中の水や魔力を操ることが出来るようになり、同時に湖の中の様子も簡単に把握できるようになるからだ。
まぁ普通の魔術師だと、湖の中の様子まで知るのは難しいけど、私は特別なのでそれくらいサクッとできるわけです……ふふっ。
さーて、例のアレはどこにあるかな~。
うーん……ふむふむ……。
「分かったよー!!」
「おー、さすがに早いな」
「どうやら建物は、ちょうど湖中心の湖底辺りにあるみたい。湖の水深もそれなりで大きな建築物が余裕ですっぽり、中に入っちゃってる感じだね」
「本当にうちの聖殿と似た感じみたいだな……」
「だねー。あと現状で分かる限りだけど、危険要素も特に見当たらなかったよ」
「そうか」
私は立ち上がりながら、ちょうど自分のすぐ横まで歩いてきていた、カイくんの方を振り向きながら言った。
「それじゃあ、場所も分かったところでさっそく潜っちゃおっか?」
「まっ、ずっとここにいる理由もないからな」
そう頷いたカイくんに、私は笑顔ですっと手を差し出す。
「じゃあ、私の手を握って? 目的地まで安心安全快適に運んであげるから」
「そうか、頼んだ……っておい、掴んだ途端急に引っ張るのはやめっ」
「いえーい、湖の中へ出発ーぅ!!」
湖に飛び込む間際、カイくんが何か言ってたような気もするけど、それよりも先に思いっ切り彼の手を引っ張った私は、湖の中へ飛び込むことになったのだった。
カイくんの話はまた後で聞くとして……ふふっ、さぁ遺跡調査だー!!
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