第104話 アルフォンスvsカイアス…?-別視点-
さて、どうしてくれようか……。
リアの隣にいる赤髪の男、カイアスを睨みながら私は考えを巡らす。
ああ、今度の今度こそは許さん……リアにふざけた話を吹き込んだこと、絶対に後悔させてやるっ!!
「まず伺いたいのですが、今回こそはとはどういうことでしょうか……?」
カイアスは考えが読みづらい笑顔を浮かべて、そんなことを聞いてくる。
な、なんと白々しい奴だ……!!
「今回のこともそうだが、貴様は散々私をコケにするようなマネをしてきてくれただろうが!?」
だからこそ、この男に言いたいことはいくらでもある……!!
「もし言い訳の一つでもあるなら、言ってみっ……」
「申し訳ありません……!!」
それは私が徹底的に問い詰めてやろうと思って、喋り出した矢先のことだった。
なんとあのカイアスが、私へ頭を下げていた……。
「は……?」
あまりに予想外の展開に私が思わず固まっていると、顔を上げたそいつは続けてこんなことを言う。
「先程はリアのことが心配で、気が動転してあんなことを…………その他のことについても大変失礼なことをいたしました。思い返すと彼女を守ろうという気持ちが強すぎたために、あのように振る舞ってしまったのでしょう」
カイアスの様子は先程までとは打って変わって、本当に申し訳なさそうな真摯な表情と声音であった。
な、なるほど、そういうことなら納得……できるわけなかろう!! そうだったとしても、私への敵意や悪意が妙に強すぎるというか、おかしい部分があるだろうが!?
驚きから立ち直り、またどうにか動くようになった頭で、私は改めて考える。
……まず、今まであのような言動を取ってきた男が、突然謝ってくる状況がどう考えても不自然だわけだ。
これは一体どういうつもりで……。
「え……カイくん、そんな私のために……?」
うむ……?
声につられてそちらを見ると、そこには明らかに戸惑った様子のリアの姿があった。
まぁ、彼女のその反応自体は別にそこまで不自然でもないが……。
「お前が気にすることじゃない……俺がしたことだし、俺がお前を心配するのは当然だからな」
なんか例の赤いのが、そんなことを言いながらスッとリアの方へ近づいていったのだが?
「で、でも、そこまで心配してくれてたなんて……」
そんなカイアスを不安と申し訳なさが入り交じった顔で、見つめるリア。
いや、そもそも君は悪くないだろう……というか、近くないか。
「そんなの当たり前だろう……?」
更に距離を詰めたそいつは、なんとリアの頬に手を添えて、ふっと優しげな笑顔を浮かべる。
「俺はいつでも、お前のことを思ってるんだから」
………………は?
「カイくん……」
そして例の男の名前を口にするリア……。
一連の流れからのまるで告白のような台詞。当然その間に流れる雰囲気は甘く、さながら恋人同士のように熱く見つめ合う二人、それを見て私は、私は…………こんなこと目の前でされて、許せるかっ!!
当然、邪魔してやるに決まっているだろうがぁぁぁ!!
「まず!! 離れろっっ!!」
とりあえずその間に割って入り、二人を引き離す。
「そして貴様だ、貴様っ!! 私と話してたはずだったのに、途中から何をしてくれているのだ!?」
そう、本当に何をしてくれているのだコイツは!? なんでいつの間にかリアを口説いている!? 許せん許せん許せん……!!
「ただリアに自分がどれだけ彼女を心配してるか、伝えておきたくて……つい」
「ついだぁあ!?」
「あ、でも、まだイマイチ伝わって無さそうなので、もう少しちゃんと伝えておきたいですかね……」
「ふざけるな!? 今のでもう十分だろうが!!」
これ以上なんて絶対にさせんからなっ!?
「ふむ、十分ですかね……」
首をかしげて、その腹立たしい男は私に聞き返す。
「そう、十分だっ!!」
「そうですか……」
すると今までおとなしい態度だったその男は、突然なんとも言いがたい気味悪さの薄い笑みを浮かべて言った。
「なら、殿下にも十分に、俺がリアのことを大切に思っているかが伝わったわけですね?」
「…………は?」
「それが伝わったと言うことは、つまり先程の俺の話にもご納得頂けたということになりますよね? ああ、よかった」
「な、なんだその理論は……まず貴様は何を言っているんだ……」
突然話題が変わりすぎている、わけがわからない……。
先程の話に納得というのは……まさか最初に言っていた、無理がありすぎる言い訳を私に飲めということか? はっ、冗談じゃない……。
「あっ、分かりませんか……でも俺たちの仲でしょ?」
そう言いながらそいつは、まるで促すようにすっとリアに視線をやった。苛立ちつつ、私も釣られてそちらをみると、彼女が不安そうに私を見つめていることに気付いた。
「ほら、リアも喧嘩は好きじゃないんで、そういうのも程々にしておきたいなって」
『リアの手前、仲良し設定があるんで突っかかるのも程々にしとけや』
カイアスは表面的には笑顔で、一切口にも表情にもそんなものは出てないのに、何故かそんな声が聞こえた気がした。
って、やはりこの性悪男、こちらが本性ではないか……!! つまり今までのは演技か!?
薄々怪しんでいたが、完全にやられた…………だが、コイツのことは本当に嫌いではあるが、リアを不安にさせるのも確かに私の本意ではない。
くっ、仕方ないが、一旦ここでの追及は諦めるか。
あくまで、リアのためにな……。
「分かった、私も……その、色々とイライラして悪かった……」
私がそう言った瞬間だ。今まで不安そうにしていたリアがパッと安堵したような嬉しそうな顔になった。
……ああ、苛立っていたとは言え、リアには少し申し訳ないことをしてしまったかも知れない。
ああ、リアにはな……。
とりあえずカイアスをどうこうするのは、今度しっかり計画を立てたうえで動くとしよう……よくよく何度も繰り返しコケにしてくれたな、貴様だけは本当に覚悟して置けよ!! 本当にっ!!
・~・~・~・~・~・~・~
ふぅ……ケモ王子が正面から食って掛かってきて、ちょっと面倒だったがどうにか収まったな。
しかしアレが『リアを渡さない』などと戯れ言を口にしたときに、嫌悪感と苛立ちのあまり、一瞬とはいえ本心を出してしまったのは完全にやらかしたな。
表だって敵意を向けてしまったわけだから、余計に対応が面倒になりかねなかったが運が良かったな。
しかし……俺もまだ甘いな。
それにしてもケモ王子のアホさと、分かりやすくリアを気にしてくれることには救われたな……。キレた原因もリアだが、少し誘導したら想像以上に思い通りに動いてくれて逆に驚きだが……まっいいだろう。
ああ、動かしやすいのはいいことだ。あまりの考えの分かりやすさには、若干引くけどな……!!
ちなみにケモ王子を釣るためワザとやった、先程の告白まがいの台詞だが……。
アレが実際、リアには (恋愛的な方向性で)一切響いてないし、 (恋愛感情的なものは)何も感じていないことを俺は知っている。
ケモ王子が俺に食ってかかった時に、多少なりともあったはずの打算や怒りも放り出して、即座に邪魔しようとするほど慌てたことからも分かるように、はた目から見ても結構アレなはずなんだが……。
途中から恋愛の「れ」の字もないリアの頭の中には、順調に疑問符が増えていたはずなので、もう少し続けていたら、すっとぼけたことを言い出して空気をぶち壊していたのは間違いないだろう。
いやー、アレが下手な喜劇になる前に、計算通り邪魔してくれて本当によかったわ…………別に悲しくなんてないからな。
ただ今回リアの『自分が誰かの負担になるのを強く気にする部分』を利用してしまったのだけは、少し悪い気がするが……コイツの身の安全の方が優先されるから仕方ない。
さて、それじゃあ今度こそリアを持ち帰って、軽く説教してから寝かすかな……。
「では、お二人が仲直りもしましたし、三人で部屋まで行きましょうか!! これで最初の話も解決です……!!」
待て、ちょっと放置してる間にリアがまた変なことを言い出したぞ。
しかもコイツいかにも得意げな顔で『名案でしょ?』とでも言いたげだ。
いや、違う、それは名案じゃないから、誰も望んでないやつだから……。
ほら、ケモ王子もいかにも嫌そうな、何とも言えない顔してるぞ。気付け……!!
「ほら、行きましょうアルフォンス様」
しかしリアから笑顔で手を差し出されると、ケモ王子はすぐに表情を和らげて「ああ」と頷いていた。
見事に一瞬で落ちたな……!? まぁ、そういうやつだとは知っていたけども……。
しかしそうなると、さっきの話の収め方的に俺も反対することは難しい。
ただでさえ、俺がいない間にケモ王子とリアの仲が修復されてるというか、前より良くなっているように見える点も気掛かりなのに……やはり、短時間でもリアから目を離すべきではなかったな。これは完全に判断ミスだ……。
ここでもう一度、情報を遮断して仲違いさせるのは難しそうだし、別の方法を考えざる終えないか…………ちっ、例の問題さえ解決させられれば帰国させるだけで済むのに、つくづく面倒くせぇな。
「カイくんも早くおいで~」
「はいはい、分かったよ」
まっ、今は不本意でも付き合わなければならなそうだし、細かいことを考えるのは後にしておくか……。
そうして俺たちは、絵面だけ見れば三人仲良く、借りている部屋まで歩くことになったのだった。空気の方はなかなか酷い物だったが、リアだけはニコニコ楽しそうだった。
ああ……幸せそうだな、お前は……。
当然部屋に着いた後は、その分も含めてリアのことをガッツリ絞ったけどな……?
完全に油断してた様子のリアは、叱られてちょっと涙目になってたが……最終的に無事寝かしつけられたので、よしとしよう。
一連の出来事の後、ようやく気を緩めることができるようになった俺は、ほっと息をついて、すやすやと眠るリアの顔を見て思う。
リア、お前を待ってる人たちもいるんだ……早く帰ろうな。
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