第二章 ヒロインと皇子③
翌日、昼休みになると、エカテリーナはさっそく動いた。
行った先は食堂。ただし、
お昼時だけに
そう、自分で料理してみようと思っている。
前世では、大学時代から一人暮らしでそこそこ料理はしていた。
ま、就職してからはコンビニ飯を流し込む生活だったけど。
けどね。問題は、前世とは調理器具が全然違うだろうってこと。
たぶん昔、
なので、実際に見てみることにした。
スタッフはあっさり「どうぞ」と言った。
「使っていない調理台がありますから、そこならご自由に。もう一人と仲良く使ってください」
もう一人、という言葉にエカテリーナは
正しいルートを選んでるね!
食堂に行くと意地悪されるから、お昼は厨房を借りて自分でお弁当を作るんだよね。
これが、後で
「チェルニー様」
名を呼ぶと、桜色の頭が
「ユールノヴァ様……どうして厨房に」
「ええ、実は──」
説明しかけたところで、エカテリーナの視線がふとフローラの前のバスケットに留まった。
それが──なんとも
見たところ、ラップサンドか
具材がいろいろで栄養バランスも良さそう、
そうそう、こういうの! こういうのが作りたかった、これならお兄様もきっとおいしく食べてくれるはず!
思わず、エカテリーナはがっしとフローラの手を取った。
「なんて
「え……い、いえ、それほどでは」
「お願い、これの作り方を教えてくださいまし。お兄様に食べさせてさしあげたいんですの」
「ええっ」
驚くフローラに、アレクセイが昼休みに仕事をしていること、あまり食事に興味がなさそうで、ちゃんと栄養がとれているか心配なことを説明する。
「わたくし、お料理をしたことがございませんの。でも
両手を合わせて、お願い! とやると、フローラは微笑んだ。
「ユールノヴァ様は、とてもお兄様思いなんですね」
「お力をお貸しくださいます?」
「これは
言いかけて、フローラはバスケットからひとつクレープを取って、エカテリーナに差し出した。
「あの、よろしければ味見してください」
「まあ、ありがとう」
わーい、食べてみたかったのよ。
「とても美味しゅうございますわ。本当にお上手」
「あ……ありがとうございます」
フローラはほんのり顔を赤らめて、
ふおおおお……。
背景にお花が
さすがヒロイン。
古城と
これが美少女だよなー。
「私でよろしければお手伝いします」
「よかった! ご無理をお願いして申し訳ございませんわ」
そんな訳で、ヒロインと悪役令嬢が仲良くお料理タイム。
これが
生地の配合やかまどの使い方を教えてもらって、クレープ(?)の中身をポテトサラダにしてみたり、ザワークラウトとソーセージにしてみたり。ちょっと手巻き
「生地を焼くのがお上手ですね」
ありがとう。前世でしばらく
「チェルニー様のおかげですわ。とても
「長くやっているだけです。母が働いていましたから、私が家事をしていました」
「まあ、そうでしたの。お小さい
どこの世界でもシングルマザーは大変だよね。しっかりした
「……わたくしも、七カ月ほど前まで母と二人で暮らしておりましたわ。何も母の役に立つことのなかった娘でしたけど」
つい
「七カ月前、ですか。お母様は……」
「ええ、
「私の母もです。同じ、七カ月前……」
「まあ……」
二人の少女は顔を見合わせ、
ゲームの知識でお母さんが亡くなったことは知ってたけど、本人の口から聞くと重みがまるで違うね。同じ頃とは知らなかったし。
エカテリーナの事情も
うん。
とにかくヒロインに近づかない、と決めてたけど、仲良くなろう。
クラスのぼっち同士だもん、むしろ必然よね。こっちはそれでソイヤトリオを遠ざけられる。代わりに
つか、対策とかじゃなく、仲良くなれそうだし。
そもそもいじめなんてダメ絶対だろ。ソイヤトリオの
皇子にさえ近づかなければ、破滅フラグは問題ないはず。あっちはとにかく近寄らない会話しない!
大量に作ってしまった昼食を
「教えていただいた上にこんなことまで、申し訳ございませんわ」
「私も楽しかったです。むしろお礼を言いたいくらい」
微笑みからお花が舞う。可憐やー。
執務室のドアをノックすると、アレクセイの従僕イヴァンがドアを開けてくれて、エカテリーナを見て目を丸くした。
「お
さっとバスケットを取ってくれる。ミナと違ってニコニコと
「ありがとう。
「いい
「うふふ。わたくしが作りましたの」
思わずニッコニコで言ってしまったら、
「閣下、お嬢様がお
立ち直ったイヴァンが声をかけ、アレクセイが顔を上げた。
「エカテリーナ。どうした」
「お兄様に、お食事をお持ちしましたの」
「お嬢様がお作りになったそうですよ」
イヴァンがバスケットを差し上げて見せ、アレクセイは目を丸くした。アレクセイだけでなく、執務室にいる公爵領幹部たちまでが、
そんなに
ま、ちょうどいいや。
「皆様、少し手を止めて、お食事になさいませんこと? 軽食程度ですけど、お料理してみましたのよ」
「作ったとは……まさか」
「はいお兄様、食堂の
言っている間にも、できる従僕のイヴァンが皿を並べ、バスケットから出したクレープもどきを盛り付けてくれる。そうそう、と思い出してエカテリーナはしっかり紙で包んだものをイヴァンに
「これはあなたの分ですわ、冷めないように包みましたの。皆様へのお
「俺にもですか」
イヴァンは驚きつつも嬉しそうに受け取った。
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