第一章 魔法学園入学①
大きな鏡台の前に座って、鏡の中の自分の顔をあらためてじっくりと見る。
美人、それもかなりの美人と言っていいと思う。前世ではあり得なかった青い髪は、ラピスラズリのような深い色合いで、自然のウェーブで豊かに波打って
スタイルもね、すでになんてーか、けしからん感じに育ってきてますわ。
十五歳にして、アラサーだった前世より立派なんじゃ? 何カップだろこれ。まだ育つのか?
そしてウエストは前世より細い。
うん……。
花なら
大人っぽい分、
おどろおどろしい古城とかで
可愛く
しょーがないよね! 悪役令嬢だからね!
「おきれいです、お
「ありがとう、ミナ……」
そばに
公爵家のお仕着せメイド服がよく似合う
「
「そうね、少し」
今日、エカテリーナはアレクセイと共に皇都
そして明日、学園に入学するのだ。
(びびってもしょうがないんだけど、手が
学園で待っているものは、悪役令嬢としての
さらに、ヒロインがとあるイベントをクリアできなかった場合の、皇国
このうち破滅フラグは、すでに手を打った。アレクセイに皇子とは結婚しない宣言をして、認めてもらった。
あとはヒロインにも皇子にも、できるだけ
それより
でも、ヒロインが失敗したら。ゲームをプレイした時には、そのイベントクリアを失敗してしまうと、あとはどう
だから、ゲームのシナリオから外れてしまうかもしれないけれど、自分にできることをやるしかない。そう思って、魔力
まあ正直、魔法が使えることが楽しくて、夢中になっていたのも大きいんだけども。
前世では、ゲームの設定でそれぞれのキャラクターに「魔力属性:何々」とか書いてあっても、ふーんと流してた。だって、キャラが魔法を使うゲームなんて山ほどあったし。
だけど、その世界に生まれ変わってみて、実際に自分に「魔力がある」となったら。もう何とも言えない気分ですよ。わくわくする
でも令嬢エカテリーナの
魔法を使う、というと前世ではいろんなパターンがあった。
でもこの世界では、魔法という言葉を使うより、魔力制御という表現をすることが多い。自分の中に生まれつき備わっている力を使って……世界と接続し、それを制御する、という技術。
おわかりだろうか?
うん、わからないよね。三本目の
で、私の魔力は属性が土なんだけど、土に対して魔力を発動すると「流れ込んでいく」感じがあって、流した魔力の量に応じて、土を動かしたり変質させたりできる。
思わず風とか水とか、自分の属性ではないものに魔力を向けてみたりしたけど、流れ込まないね。属性が違うってこういうことなんだなあ、って不思議なような、当たり前なような。
あ、ただゲームとか
そんなわけで、魔力制御の実習は我ながらテンション高かった。この公爵邸の広大な庭の一角を使わせてもらって、家庭教師の先生と
まあそこから
なお、へんな踊りは笑われたけど、初めてゴーレム作ってあれだけ動かせるのはすごいと絶賛された。
ただ絶賛はされたけど、
まあ、そんな風なフラグ対策を講じているわけだけど……。
あらためて目前に
(貴族だらけの学園で、人付き合いとかしてかなきゃならないのよね?)
学力はこの一カ月ほどで、入学してしばらくごまかせる程度にはなったと思う。家庭教師たちに今まで教育を受けてこなかったことをぶっちゃけて、最初に習う
されどもしかし。
ボコッと頭から
どんな会話すりゃいいのか。
アラサー
破滅フラグとか置いといて、フツーに入学が
と、ミナはエカテリーナの手を取って、親指の付け根あたりをマッサージし始めた。
「ここを押すと、
「ありがとう。そうね、少し楽になったみたいだわ」
この世界にもツボの
とにかく、無表情で喋り方もぶっきらぼうだが、ミナはよく気の付くできるメイドなのだ。
「あなたが学園にも付いてきてくれることになって
「メイドによろしくなんて言うことないです。
「言っても別によろしいでしょ?」
「お嬢様は変です」
ミナはよくこれを言う。お嬢様に変と言い放つメイドも変じゃないのかと思うが、どういうメイドが普通なのか知らないし、気にしないことにしている。
「この国にはお嬢様ほど身分の高い人はほとんどいません。学園に行ったって公爵もご一緒だし、こんなに緊張することなんてないです」
「そ……そうかしら……ね」
エカテリーナは
「他の令嬢が怖いんですか。だったら相手にしないで公爵閣下にくっついてるか、
『あたしがお守りします』
ってやだイケメン。クール美人なメイドがイケメン。
いやミナはメイドなんだから、守るたって部屋に引きこもらせてくれるとか、そんなくらいだろうけど。でも
それに確かに、その手もあるね!
学生生活なんて、人生の中のたった三年さ!
「ありがとう、ミナ」
エカテリーナはミナの手を両手で包んで、ぱっと
「わたくし、元気が出てきたわ」
少しあらたまった服装をしているせいか、立っているだけで絵になる美青年ぶりに、あらためて
(生きてて良かった! いや死んで良かった? 生まれ変わって良かった、かしら!)
アレクセイと共に馬車に乗り込み、大通りを
そして街が美しい!
ヨーロッパの古都のようなシックな街並が、はるか
「お兄様、あれが皇城ですの?」
「ああ、そうだ」
皇都の中心にそびえる皇城は、
「まあ、大きな彫刻!」
「ピョートル
「お兄様に似ていらっしゃる?」
「さあ、どうかな。五十歳くらいの
なるほど。
「初めての皇都なのに、そういえば見物ひとつさせてやれなかったな。すまなかった」
「わたくしがお勉強したいとお願いしたのですもの。でもお兄様、いつかお休みの日に、見物にご一緒くださいましね。お兄様はいつも働きすぎですもの、
「ああ……お前がそうしたいなら、そうしよう。そろそろだが、
はっ!
テンション上がったまますっかり観光気分で、
「前は
「そう、ですわね。お兄様……手を
差し出した手を、アレクセイは両手で包んでくれた。
馬車が進んでゆく先に、大きな門が見えてくる。
ここは、とても広いから。門も大きい。
ユールグラン皇国、
ゲームのオープニングは、この門が開け放たれるシーンから始まる。
以前来た時は
その上に青空が広がっている。
ただの門。その向こうに見えるのも、ただの建物だ。
「大丈夫ですわ、お兄様」
「そうか」
明日、入学式。
きっと大丈夫。
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