プロローグ 社畜と悪役令嬢③
エカテリーナの
「お帰りなさいませ、若君」
皇城から
「若君はよせ」
「失礼いたしました、公爵閣下」
ノヴァクは
長年ユールノヴァ公爵家の領地管理を
「三公会議はいかがでございましたか」
「いつも通りだ。マグナが
三公会議とは、このユールグラン皇国の三大公爵が
アレクセイが当主である、鉱山などの資源が豊富な北方のユールノヴァ。
海に面する南方にあり港の交易などで栄える、ユールセイン。
東方の広大な平原と
三公は
従僕のイヴァンにマントを取らせ、アレクセイは
「相変わらずの不平不満だ、自分ばかりが割りを食っていると。鉱山か港の利権を一部よこせとは
「いつも通りにしては、いつもよりご不快のご様子ですな」
「……エカテリーナを
『ノヴァの令嬢は病弱で、教師にものを習ったこともなければただの一度も他家から招待を受けたことがないそうな。わが
ユールマグナ公爵ゲオルギーは三十八歳、
「久しぶりに、部屋の温度を下げてしまった」
「それはそれは」
強力な氷属性の
「セイン公が気をそらしてくれて、なかったことになっている。あちらは次期皇后の争いとは
ユールセイン公爵ドミトリーは最年長の四十五歳、子供たちは皇子よりだいぶ
「エカテリーナ様の教師たちから、現在の成績に関する報告が届いております」
「そうか」
書類を受け取ってざっと目を通し、アレクセイは顔をほころばせた。
「これならとりあえずは、学園で問題なくやっていけるだろう。よく頑張った」
「さすが閣下の妹君、学んだことがおありでなかった歴史や地理、
それに、悪役令嬢エカテリーナの知識も思いのほか通用した。母から習った立ち
「母君に習われたとか。エカテリーナ様がご
「……
アレクセイの声が
彼自身が送り出した、母親を
いまわの
「大奥様が命じられたことです。母君が
「私の罪だ、生涯消えることのない。……だが、エカテリーナは許してくれた」
『一番お
そう言って、エカテリーナは母の代わりのようにアレクセイを抱きしめたのだった。……その時になって初めて込み上げてきた
「優しい子だ、あの子は」
母から引き
父親アレクサンドルは人から愛される
容姿はその父親に似たが、性格は祖父に似て
その頃から大人びた子供だったアレクセイだが、母がそばにいてくれたらと思うのは当然だったろう。あの頃夢見た母に願ったことを、母によく似た妹が
長い間つらい暮らしをさせてしまった、
母と妹を初めて目にしたあの時まで、二人があれほど
大臣や
しかし祖父の死後、祖母はひそかに別邸の使用人たちを
祖父から母と妹を守る役目を引き継いだはずのアレクセイは、しょせん十歳の子供に過ぎず、それに気付くことができなかった。
初めて会った時、
そして
半年後に再会した時には
皇都に来て、
エカテリーナが許してくれても、アレクセイは自分を許すつもりはない。そして、妹の
「まこと、お
皇国にはさまざまな色の髪の
ユールノヴァは薔薇。
ユールセインは
ユールマグナは
ここから、三大公爵家の権力
しかし、アレクセイは首を振った。
「いや、エカテリーナは皇室にはやらない。昨日あの子に言われた、お祖母様が育った皇室に
『わたくしと同じ学年に皇子殿下も入学されると聞きました。お母様はご生前、わたくしに殿下と出会って皇后になってと望んでいらした。そうすればお祖母様も、わたくしに頭を下げねばならないからと……。でももう、お母様もお祖母様もいらっしゃいません。ですからわたくしは、そんな冷たいところに近づきたくはないのです。皇室と
ノヴァクは
「……貴族のご
「だがあの子は病弱だ。
アレクセイはいささか口数が多い。ユールマグナの当主ゲオルギーだけでなく、その長男でアレクセイよりひとつ年下のウラジーミルとも不仲なのもあるが、本音はようやく
「それは……左様ですな」
「いえ、実際にミハイル皇子殿下にお会いしたら、エカテリーナ様のお気持ちも変わるやもしれませんので。殿下もうるわしい容姿のお方と聞き
「……ふん」
反論の余地もなく、アレクセイは顔をしかめた。
「いいだろう、あの子が殿下を望んだなら、マグナと
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